スタッフが「商売はこれだ!」と気付く話をする

 

 うちの店に入って来る子は皆、独立志向です。そして面接のときに私はこう言います。

「うちは店に入ったら5年以内に出て行けよ」「月に10万円貯金しなさい」「10万円は食事代をうかせればいい。店の賄いで2食を食べて。何だったら家に帰るときにおにぎりを作って持って帰ってもいいんだから」

 閉店した後に店でご飯を食べれば、店に居残っている女性のお客さんが隣にいてご飯を食べられるかもしれない(笑)。他の店で外食しなければ10万円は貯まる。1年間で120万円、5年間で600万円になる。今の世の中、金融機関はだいたい2000万円くらいまでは貸してくれる。そして運転資金を残せば、大体1200万円、1300万円の店ができる。

 こんな店は、銀座や青山では到底できません。下北沢でも駅前ではなく歩いて20分くらい離れた2階で店をやることになる。そんな場所では一度来店したお客さんに二度来てもらわないといけない。そのために何をするか。そんなことを、独立する前にうちにいて話し合って考えるのです。

 うちの店ではミーティングというものをしたことはなく、店が終わって皆で酒を飲むのが習慣でけんけんごうごうと話をしていました。

 そのときの話題は、例えば成田のゴルフ場に行ったときの話です。

 ゴルフ場のご飯は高いので途中のお弁当屋さんで買いました。そこで、私たちはゴルフの格好をしていますから、お弁当屋さんのおばちゃんは私たちがこれからゴルフに行くというのが分かる。そこでおばちゃんはこんなことをいう。

「あんたたち、これからゴルフ? 私からお弁当を買った人は皆スコアがいいのよ」

 このような言葉に私はぞくぞくします。こんな言葉を私たちは大切にしなければいけない。

 小さな店で新聞を買いました。店のおばちゃんは新聞を袋に入れようする。それを見た私が「袋にいれなくていいよ」というと、「いや、シールを貼らないといけないから」と言って、袋の端に小さくテープで入り口をふさいだ。「これだったら取りやすいでしょ」という。

 私はこんな瞬間に「商売はこれだ!」と思います。

 私は、何か難しいことをやってきたわけではありません。「これだ!」と気付いたことを積み重ねてこれまで生きてきました。そんなことをうちの子たちに話しています。

 店をオープンする前に、店前の通行量を測ったり、メニューを作るための調査とかやったことはありません。そんなことは私たちには分かりません。当時を振り返ると、店で仕事をしていて「面白かったなあ」という記憶だけがあります。

 お客さんに料理を出すときに、「これは絶対に面白いですよ」という感覚でやってきました。

 それで、その料理を食べているお客さんが楽しそうな顔をしていないのを見て、なぜかを尋ねると、「これ、ちょっとしょっぱいんじゃない?」と言われたら、こっちは「今日あんまり働いていないんじゃない?」と言ってあげるとか。

 すると、お客さんが面白がってくれました。重要なことは店で仕事をしていることが楽しいということです。これだけでお客さんが次から次とやって来る。

 私の店は、どれも駅の近くにはありません。その理由は家賃が駅前よりも安いからです。そして、うちで働きたいとやって来る子は皆、独立志向ですから、駅前に店があるという理由だけで繁盛してしちゃったら独立志向の力は育たない。だから、立地のよくない場所で店を構えて、うちの子たちとどうすれば繁盛できるかを一生懸命話すわけです。

 飲食店とは体のいいねずみ講みたいなものです(笑)。1人のお客さんが喜んでくれたら、次にどんなことで面白がってもらおうかと考えます。すると、お客さんは2人になり、4人になりと増えていきます。