胴元であるカジノ業者がお金を貸せる

 ギャンブル依存症以上に深刻な問題になる可能性があるのが、カジノ事業者側が利用者にお金を貸せるという「特定金融業務」だ。マカオのカジノにはジャンケットという、航空機や宿泊の手配からお金の調達まで何でもやってくれるVIP専用の「御用聞き」がいるのだが、これは日本では導入されないことになっていた。その代わりにこれが出てきた。

 日本に住んでいない外国人と、カジノ事業者が管理する口座に一定額の預託金を積み、審査を通過した人には2カ月は利息なしで借りられるというシステムで、恐ろしいのは2カ月後になると一気に14.6%の遅延損害金=利息がつく点だ。利息制限法だと100万円以上の場合、最大で15%だが、IR法では1万円でも、10万円でも14.6%という高額の利息がつく。しかも、貸金業法は、借りる人の年収の3分の1までしか貸せないという総量規制があるので自然と上限が決まってくるが、IR法案ではない。しかも、お金の回収は外部業者に委託できるというおまけつきだ。

「2カ月利息なしだからその間に返済できるから安心」……。テレビ番組などで消費者金融の負のスパイラルに陥った事例をいくつも放送しているので、読者の皆さんはどんな展開になっていくのかは想像がつくだろう。2カ月間利息なしというのは、全く意味をなさないのは理解できるはずだ。

 ギャンブルというのは「大当たりすれば一気に取り返せるから大丈夫」という根拠のない自信や、「取り返さなければ」という焦りから判断力が鈍ってしまい、深く考えずに金を借りるということがあるだろう。カジノは他のギャンブルと同じで勝っていても、負けていても引き際が肝要だが、筆者もマカオでカジノをしていると、上記のような邪念が湧いてきて(今回の場合なら入場料の6000円だけでも回収したいと思うだろう)、引き際を逃しやすい。大王製紙の前会長の井川意高氏のように、お金持ちも止めどきを誤る……。

マカオのカジノ前で見られる光景。「押」というのは質屋を意味する。換金するためとはいえ、質屋には掘り出し物の高級時計が結構あるという。

 IRリゾートを推進するなら、ギャンブル依存症対策を万全にするのが国としての基本スタンスであるべき。日本中央競馬会(JRA)すらお金を貸せない仕組みになっているし、パチンコも同じだ。お金がなくなったら、いったん銀行に行って現金自動受払機(ATM)からお金を引き出すしかない(カジノ内にATMの設置や貸金業者が営業するのは禁止された)。もし配偶者が財布のひもを握っていれば、借金をしたことがバレるが、胴元がお金を貸せるのであれば気付きようがない。

 マカオ半島ではカジノの周りにごまんと質屋があって、自分の時計などと引き換えにお金を手に入れるというのはあるが、胴元がお金を貸すってことはしていない。それが、今回の法律では金を貸すハードルを消費者金融より下げ、ギャンブル依存症だけでなく、借金する人を増やすという訳の分からないことになっている。もし読者の方が“自分はカジノ運営者で、おまけにお金まで貸せる”としたらどれだけ「おいしい」か、すぐご理解いただけると思う。

今回の法律では監視機能が弱い

 今回の法律では、チェックが機能しにくいことも問題で、預託金の詳細などは法律ではなく政令で決めてしまう。特定資金貸付業務の細かい内容は内閣府の外局である「カジノ管理委員会」が決定する。衆参両院の同意を得て、首相が任命する委員長と4人の委員が定めるのだが、委員にカジノ業界の人間が任命されれば、内容が厳しくなる方が不自然だ。

 結局のところ、人の営みが全ての流れを決める。とすると、人間の心は弱いのでどうしても悪い方に流されてしまいがちだ。「高度プロフェッショナル制度」もそうだが、法律の運用段階で悪用されることも想定して、IR法も高プロも法律で厳しく規制する必要があるが、両法案ともある意味、「ゆるゆる」だ。

 日本人としては残念ではあるが、もう性善説で物事を決めるのではなく、性悪説で物事を決めていかないとダメな時代にきていることは間違いない。