ビッグデータで糸口をつかむ、その分析で、ニーズを明らかにする

 とはいえ、冒頭に記した通り、人手不足も深刻だし、本部(営業企画、商品部、店舗運営、店舗開発)から店舗に至るまでの皆が日々の業務で手一杯だ。これまでの経験上、うまくいったことを繰り返した方がやりやすく、不確実性が高いことを行うには時間的にも心理的にも余裕はないのが実態だ。

 それでも、ビッグデータという言葉に反応し、何かやらなければならないと思わせるのは、「従来型のやり方が果たして今後も通用するのか?」と疑問を抱いているからだろう。事実、「販促をドーンとやって、売上げをバーンと上げる」ことが、数値上でも実現しにくくなっている実態や肌感があるのだろう。

 ある小売企業の販促担当者は、「1カ月のカレンダーを改めて見ると、何もやっていない曜日がないくらい、割引やポイント倍付けデーなど開催している。でも、計画の数字をクリアするのも厳しい。このままでいいのだろうかと悩む日々だ」という。その一方で、ある地方の小売企業は、そこに疑問を持ち、チラシ発行枚数を削減させたが、売上げは変わらなかったという。思い切った事例ではあるが、興味深い例である。

 他の事例では、顧客接点としての複数のデジタル手段(スマホアプリや電子チラシ、電子クーポンなど)を組み合わせながら、デジタルの柔軟性、機動力を最大限に生かし、きめ細やかな顧客とのコミュニケーションを始めている小売企業もいる。また、デジタル手段まで使わなくても、取り組みが進んでいる小売企業では、事業戦略に基づいて、店舗・業態開発から商品開発はもちろん、マーチャンダイジング・品揃え、販売促進に至るまで、データを最大限活用したマーケティング活動を徹底している例もある。こうしたデータ・ドリブンマーケティング先進企業があるのも事実だ。

 今後、人口が減り、市場の縮小が止められないのだとすると、今まで以上に効率性を追求しつつも、きめ細やかな対応をしていかない限り、自社の売上げを維持することすら難しくなる。大きく分けると、小売業が国内で取り得る事業戦略には、「コスト・リーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」などがあるが、どれを選択するかは企業によって異なるし、その判断も簡単ではない。例えば、加速する高齢化への対応一つとっても、付加価値シフトか低価格シフトか、簡単に結論は出ないだろう。

 ただ、どんな状況であれ、変わらないことが1つだけある。それは、小売企業が対面しているのは「お客さま」であるということだ。彼らの顕在ニーズ、潜在ニーズを捉え、期待に応えていくことの徹底こそ、未来に向けた道筋を照らしてくれる。そして、そのニーズをつかむ糸口の1つが「ビッグデータ」あり、ニーズを明らかにする手段が「データ分析」である。

 データがあると、これまでの経験と勘に加え、誰が見ても同じ判断ができるようになる。人手不足であっても、忙しい中であってもコンパクトに判断できる。既に始まっており、今後もっと導入が進むであろうAIやロボティクスなどの活用でも、それらがより有効かつ正しい判断をし、機能する(役立つ)には、正しい情報をインプットすることが必要になる。データで判断すべき部分、できる部分は切り出す。そこで生み出される余力を、人はより創造的な部分に割いていく、といったすみ分けが今後、加速していくわけだ。

 これからの小売業にとって避けて通ることはできないが、利活用できれば重要な武器の1つになるのが、ビッグデータなのだ。

〈次回に向けて〉身近なデータで解説します

 だが、ビッグデータの利活用に取り組むには統計知識がある人材もいないし、データをハンドリングするスキルもないし、リードする人もいないというのが現状であろう。次回以降、利活用の基礎から応用までを、利活用に向けた組織体制、インフラなどについての事例も交えながら紹介したい。

 次回に向けて、小売企業が持っているであろうビッグデータについて触れておく。IoTセンサーデータなども話題にはなるが、これからデータを利活用しようとしている皆さんが一歩、前に踏み出しやすくなるには手元にあるデータで説明することが大切だと考えた。

 次回以降、「販売POSデータ(日別・店別・商品別の販売データ/ジャーナルデータ)、(ポイントカードシステムを導入していれば)「ID付きPOSデータ」「在庫データ」「販促に関わるデータ」を中心に、これらをより有効的に使っていくにはどうしたらいいかについて紹介したい。

(株式会社インテージ 事業デザイン企画部 エグゼクティブ・マネージャー 牧野充芳)