7月3日午後、スタートトゥデイがPB「ZOZO」で「ゾゾスーツ」自動採寸による短納期フルオーダースーツに本格参入すると発表したことが紳士服チェーンの株価を直撃し、AOKIホールディングス、青山商事など大手4社の株価は急落して年初来の安値をつけた。スタートトゥデイが参入するまでもなく、今年早々から紳士服の不可逆的大革命が始まっており、株式市場も遅ればせながらようやくそれに気が付いたようだ。

ダブル革命で紳士服市場が激変中!

 婦人服と比べて紳士服の世界は変化が緩慢だと思われがちだが、業界の体質が保守的だからこそマーケットとの乖離が断層的“革命”を招くことがある。今、紳士服業界で炸裂しているドミノ倒し的変化は、かつての「ピーコック革命」や「ビジカジ革命」どころではない劇的革命で、カジュアル化や団塊世代の退職などで長らく衰退傾向が続いていた紳士既製服業界を崩壊させかねない大変事になりつつある。

 今春以降、紳士カジュアルウエアの販売は復調が顕著だが、紳士ビジネスウエアの販売には陰りが広がっている。その要因は今春から本格化した「アクティブスーツ」と「短納期オーダースーツ」という2つの“革命”だ。

「アクティブスーツ革命」で低価格ビジネススーツの需要が激減

 1つはスポーツウエアメーカーやワークウエアベンチャーが火を付けた「アクティブスーツ」で、営業マン・営業ウーマンからサービススタッフまでイージーケア&パッカブルな「アクティブスーツ」に急シフトするあおりで、低価格ビジネススーツの需要が激減している。当初は3万円台が主流だったが、需要が爆発するにつれカジュアルチェーンまで参入して1万9800円、1万4800円のセットアップも登場。セールでは1万円を切る価格も見られる。合繊ジャージのトラックスーツ的工程でイージーにも作れるから、来春夏には9800円〜1万9800円で氾濫するに違いない。

 そのあおりで紳士服チェーンの低価格既製スーツ・セットアップが打撃を受けており、例年にない販売不振が聞かれる。あおりはジャケットコーディネイトの「ビジカジ」にも及んでおり、イージーケアとコーディネイト不要の気楽さで「アクティブスーツ」に乗り換える顧客も広がっているようだ。

「短納期オーダースーツ革命」でオーダー比率が急ピッチで上昇

 もう1つがオーダースーツ納期の革命的短縮で、「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」は採寸からお届けまで1週間という短納期を実現して爆発的に売上げを伸ばし、オンワード紳士服のオーダー比率(フルオーダー〜イージーオーダー)を一変させている。業界全体でも、ちょっと前までビジネススーツの数%に過ぎなかったオーダー比率が急ピッチに上昇しており、数年で既製服を逆転しかねない勢いだ。ITの活用や生産工程の再構築で納期が劇的に短縮され、既製服を修理加工するより速く安くなったからだが、既製ビジネススーツの品揃えが消化不振で選択に耐えないほど細ったことも背景として指摘される。

 元より紳士既製スーツは半年以上前からの計画生産が主流で、在庫が年に2回転するかしないかという非効率な世界だから、受注先行の短納期オーダーという無在庫D2Cビジネスは“超”が付く効率化革命で、業界側からもシフトが進むのは必然だ。

 この前門の「アクティブスーツ」、後門の「短納期オーダースーツ」という2つの爆発的奔流にどう対応するかで紳士服業界の勢力図は一変する。「ZOZO」の短納期フルオーダースーツ参入の発表が紳士服チェーンの株価を直撃したのも必然だった。その奔流は紳士服のみならず婦人服にも及ぶのではないか。

男も女もスーツは作業着になる!

 スポーツメーカーから始まった「アクティブスーツ」とIoT仕掛けの「短納期オーダースーツ」がスーツ市場を激変させる中、スタートトゥデイまで短納期フルオーダースーツに参入するに至っては、既製スーツ市場の崩壊はもはや決定的だ。「ゾゾスーツ」採寸のフルオーダースーツがマーケットに受け入れられるか否かはともかく、男たちの仕事着は一変してしまうだろう。

 会社組織における男の仕事着は(1)エグゼクティブが着る仕立ての良い「スーツ」、(2)セールスマンが着る仕立ての粗い緩めの「ワーキングスーツ」、(3)現場管理職が着る「オフィサー“ビジカジ”」、(4)現場勤労者が着るイージーケアな「ワーキング“カジビジ”」、からなり、米国では「スーツ」「オフィサー」「ワーカー」と階級を示唆して使われることも多い。

 汗をかかない「スーツ」階級はともかく、大多数の男性勤労者にとってスーツは「作業着」であり、ダンディな「お洒落着」として楽しむのは一部の好事家か業界人に限られる。少子高齢化で一億総動員労働力化が急進するアベノミクス下では女性とて男性同様の“勤労者”と化しており、男性同様な「勤労服革命」が避けられない。「アクティブスーツ」が営業ウーマンも席巻するのは時間の問題だ。

 モードだ、トレンドだ、ものづくりのこだわりだ、と時代ズレした「ファッションシステム」の幻想から醒めないアパレル業界にはそんな現実は見えていないのかもしれない。