(1)商標法による規制

「商標」とは何を指すのか

 まず検討すべきは、ブランド保護法の中核をなす商標法との関係です。

 商標法の保護対象となりうるものは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状もしくは色彩またはこれらの組合せ、音その他政令で定めるもの(動き、ホログラム、位置)などの標章です(商標法2条1項)。

 ロゴやフレーズだけでなく、色彩(例えば、セブン-イレブン・ジャパンの白色、オレンジ色、緑色、赤色の色彩の組合せ)、音(例えば、久光製薬がCMで使用する「HISAMITSU」のメロディー)なども商標登録がなされており、実に多種多様です。

 オリンピックに関連する商標については、国際オリンピック委員会(IOC)、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)、東京2020組織委員会によって登録・保有されています。

表 オリンピックに関する商標と、保有している団体

 スポンサーやライセンシーは、このような商標権を保有するIOC、JOCや東京2020組織委員会に対して多額のお金を支払う見返りとして、オリンピックの商標、呼称、関連素材(写真や映像など)を使用することができます。

 このように、オリンピックは、商標を中心とする知的財産制度により支えられています。

 そして、第三者が、登録された商標と同一・類似の標章を、同一・類似の指定商品・サービスに、商標として使用した場合、商標権侵害となります。

「商標権侵害」となるとき・ならないとき

 ここで注目すべきは、商標権侵害となるのは、イベント関連の標章(イベントおよび関連行事に使用されるマーク)が商標として「登録」されていることを前提に、「登録商標と同一・類似の標章」を使用する場合であり、かつ、その標章を「商標として使用」する場合に限られるということです。

 従って、①イベントのスポンサーである旨の虚偽の表示をすることや、②イベント関連の標章と同一・類似の標章を使用することは、「登録商標と同一・類似の標章」を使用するものとして、商標権侵害となる可能性がありますが、③や④の行為は、イベント関連の標章と同一・類似の標章を使用するものではないため、商標権侵害の問題とはなりません。

 また、イベント関連の標章と同一・類似の標章を使用する①や②の場合であっても、「商標として使用」(自己の商品・サービスと他人の商品・サービスとを識別する機能を果たすような使い方)するものでなければ、やはり商標権侵害とはなりません。

(2)不正競争防止法による規制

商標登録されていない標章は不正競争防止法が守る

 アンブッシュ・マーケティングが商標権侵害とならない場合であっても、次に不正競争防止法との関係を考える必要があります。

 具体的には、イベント関連の標章について、それが商標として「登録」されているかどうかに関係なく、「世間に広く知られたもの」は不正競争防止法2条1項1号(周知表示混同惹起行為)により、「著名なもの」は同法2条1項2号(著名表示冒用行為)により、また、特定の標章については同法17条(国際機関類似標章)により保護される可能性があります。

 しかし、これらの規定はいずれも、商標法との関係でみたのと同様に、イベント関連の標章と同一・類似の標章が使用されていることが要件となっている上、仮に同一・類似の標章が使用されたとしても、「商標等表示としての使用」や「商標として使用」が要件となっており、イベント関連の標章と同一・類似の標章の使用が必ずしもこれらの規定に抵触するわけではありません。

 また、不正競争防止法2条1項14号(原産地等誤認惹起行為)により規制されることも考えられますが、この規定は、紛らわしい表示のすべてを規制するものではなく、需要者や取引者が商品・サービスの「内容」や「(品)質」について誤認してしまうような表示を規制するものです。

 オリンピック・イベントのマークと同一・類似の標章を使用することや、イベントと関連があるかのような誤認を招く表示を使用することが、商品やサービスの「内容」「(品)質」について誤認を惹起させるものといえるかというと、かなり疑問があります。

 例えば、「日本選手を応援しよう!」といったメッセージは、オリンピック・イベントとの関連を想起させる表示といえますが、このようなメッセージを広告上に表示したからといって、その広告上の商品やサービスの内容や(品)質について、需要者の誤認を招くとは必ずしもいえないでしょう。

 このように、①イベントのスポンサーである旨の虚偽の表示をすることや、②イベント関連の標章と同一・類似の標章を使用することは、商標法・不正競争防止法により規制される可能性がありますが、必ずしもそのすべてが規制されるものではなく、規制対象となる範囲は限定されています。

 まして同一・類似の標章を使わない③や④のような行為に至っては、商標法・不正競争防止法が適用される可能性は極めて低いといえます。