当たり前だが、できていないことは多い。

 チェーンストアの店舗に行くと当たり前のことができていないことによく出くわします。当たり前のことができない理由は現場管理者である店長が問題を顕在化できていないからです。

当たり前のことができない店舗の現場

 チェーンストアのトップが『うちは当たり前のことができない』と嘆いていたため、そのトップの店舗巡回に同行し、原因を探りました。

 開店前の作業や開店直後の売場をトップと見学しました。トップが「明日見に行くぞ」と言っていたようで、差し当たって気になることがないまま、休憩室へ移動し、雑談を始めました。

 すると、休憩室の隅でパートさんが発注端末を使って発注作業をしていました。『変だな』と思ったので、そのパートさんのそばに行って、「どうしてここで発注作業をしているのですか?」と聞きました。

 パートさんはやっと聞いてくれたという表情を浮かべ、理由を話し始めました。「えぇ、この発注端末は2週間前に新しく導入されたばかりなのですが、バッテリーが弱く、売場で入力作業をしているとすぐに電力がなくなっちゃうんです。せっかく入力したデータが全て消えてしまうのです。仕方がないから、こうしてコンセントにつないで入力作業をしています。」

 トップと店長が顔を見合わせ、店長はそのパートさんに向かって「どうして早く言ってくれないの!」と言いました。この発注端末は2週間前、テストとして5店舗で先行導入したそうです。

 そこで、店長に聞きました。「このパートさんは2週間前から、この休憩室で発注していたのではないのですか?」、店長の返答です。「えぇ、確かに発注作業をするパートさんを見掛けました、変だなとは思ったのですが……」

 続けて問いました。「変だなと思った時に、そのパートさんに聞きましたか?」店長は「それは、その……」と、シドロモドロです。

 当たり前のことができない理由が分かってきました。

トイレの便座が熱いまま放置

 店長を落ち着かせようと思い、トイレにも行きたかったので、席を外しました。トイレの便座に腰掛けると目の前のドアには水道光熱費節約のポスターが張ってあります。しかし、変です。腰掛けた便座は夏場だというのに熱いのです。

 休憩室に戻って、店長に「トイレの便座熱いですね。」と言いました。店長は「あっ、気が付いていたのですが……」と悔しそうです。トップのいら立ちとともにため息が聞こえてきました。

当たり前のことをできるようになるために

 この店長は発注作業をいつもと違う場所でやっていること、またトイレの便座が夏場なのに熱いことも気付いていました。ただし、気付いていることを「どうして休憩室で発注作業をしているの?」「トイレの便座熱いね!」と店舗メンバーにその場で投げ掛けていないのです。

 当たり前のことができない原因は店長にあったのです。問題に気付いていても、その場で問題を顕在化しないこと、すなわち、「どうしてこうなっているの?」と問題提起しないことが原因なのでした。

 人は当たり前であればあるほど、そのことについて忘れがちになります。この現象は短期記憶と言って、当たり前に入ってくる情報や自然に入ってくる情報は人間の脳に記憶として残らず、消えていくのです。

 従って、店長は現場で『変だ』と思ったことは、その場で「どうしてそのようになっているの?」と問い掛けるべきなのです。このように問題をその場で顕在化するのが店長の役割なのです。

〈まとめ〉その場で「どうして?」と問い掛け続ける

 店長が現場で、その場で「どうして?」と問い掛け続けると、現場のパートさんたちは『自分が変だと思ったことを店長に言うのも仕事だ』と認識してくれるようになるのです。

 松下幸之助翁も『当たり前のことは大変難しい』と言っています。