先日、仕事で群馬県に行く機会があった。そこで初めて乗り込んだローカル線が「上毛電気鉄道」で上電(じょうでん)と略称される私鉄。群馬県内に1路線しかなく中央前橋駅から西桐生駅の総延長25.4km、駅数23を数える地方鉄道だ。

 

 古代より群馬県は上毛野(かみつけの)の国と称していたそうだ。現在でも群馬県では「上毛」という地域名が使われていて高崎、前橋市周辺および伊勢崎市を「中毛」、高崎市以西の県南西部を「西毛」、県北部を「北毛」。「東毛」は桐生、太田両市を中心とする県南東部を指す地域区分の呼び名として残っている。

 今年でちょうど90年を迎える「上毛電気鉄道」は昭和3年(1928年)に赤城山南麓の開発、勢多郡一帯と東京との短絡を目的として地元の識者、有力者たちの力添えで開通したのだ。

始発駅「中央前橋駅」へはシャトルバスで!

「かかあ天下とからっ風」といえば群馬を代表する言葉の一つ。からっ風とは赤城山から吹き降りる冷たい北風のこと。かかあ天下というとよほど気性の強い女性を指すのかと思いきや、その昔、養蚕が一大産業だったころに、大いに働いてくれた自分の奥さんを「天下一」と褒め称えたのが始まりだとか。群馬気質を表わす言葉の一つとして、何とも微笑ましい限りである。

 今回は始発駅となる中央前橋駅を利用したのだが、JR前橋駅から1.2kmほど離れている。歩くと12~15分くらいの距離で1時間に2本程度だが、シャトルバスも出ている。100円で利用できるこのシャトルバスは、サンフランシスコのケーブルカーを思わせるレトロなデザイン。社内シートや内装もふんだんに木が使われていて温かみが感じられる、ちょっとした非日常的な空間を楽しむことができた。

 そんな見た目と異なり、実はこのシャトルバスは群馬大学の協力のもと自動運転の走行テストも始めている。今年の11月からは運転者同乗だが、自動運転で乗客を運ぶらしく、2020年の完全自動運転の実現に向けた取り組みが行われている。

切符を切らせてくれて「タカシ、感激!」

 駅に到着して切符を買おうと券売機へ。当然!? スイカやパスモといった電子マネーには対応しておらず現金のみでの取り扱い。財布の中の小銭をジャバジャバと入れると、何とも不具合な音を立てて小銭が戻ってくる。戻ってきた小銭の交換とともに「一枚ずつ丁寧に入れてください」と注意を受けて買えた切符。驚くことなかれ、今でも駅員さんが1枚ずつ改札ハサミで切符を切ってくれるのだ。そして帰り道のこと、時間があるからという理由で、自分が買った切符をそのハサミで切らしてくれたのだ。些細なことかもしれないが、予想していないサービスを思いがけず受けてしまうと、心深く印象として残るものだと改めて感じることができた貴重な体験。

 そして偶然、乗り合わせた車両に驚いた。何と車内が可愛らしい犬のマスコットや紫陽花の造花などで装飾されているのだ。何食わぬ表情で座っている地元客を、尻目に思わず車内撮影してしまった。どうやら戌年にあやかって走らせている「干支電車」に乗り込んだようだ。デコトレインとも呼ばれるイベントの一つで、「干支電車」の他に「七夕まつり号」や「水族館電車」など、運行日や時間帯によって個性的な装飾電車が田園風景の中を疾走する。

 

無料レンタサイクルは後部車両に持ち込める!(混雑時を除く)

 もう一つユニークなサービスを紹介したい。それは無料レンタサイクル。中央前橋、大胡、赤城、西桐生駅で電車利用者を対象に貸し出してくれる。貸出時間は午前9時~午後6時までで、貸し出し駅に返却することが条件だが、駅から遠方の目的地まで出掛けるのには大変便利なサービスといえよう。ちなみに混雑時を除いて後部車両へ自転車を無料持ち込みもできるので、複数の駅周辺のサイクリングも気軽に楽しめる。

2018年からの5年間で約20億円を支援

 長きに渡って地元住民から親しまれてきた上毛電鉄だが、JR線との接続の問題や自家用車の普及なども影響してか、昭和40年(1965年)の約958万人をピークに利用者が減少し続けている。平成28年で154万人と、最盛期の約6分の1程度にまで減少傾向に歯止めがかからない。前橋市は毎年補助金を充てて支援(平成28年度は6659万円)。

 そして、沿線3市(前橋市、桐生市、みどり市)と群馬県で構成する上毛線再生協議会は、2018~22年度の5年間で総額19億5000万円の大型支援する方針をまとめた。老朽化した車両の一部や踏切保安装置の更新、沿線の住宅地としての開発促進などが、計画に盛り込まれているようだ。

 今回取り上げた「上毛電気鉄道」以外にも全国には赤字路線が多く存在している。地方の過疎化と車社会とともに公共交通機関という役割が果たせず、廃線になってしまう線も少なくはない。特に地方の車社会現象的な現状を考えると、もう大切なインフラでは無くなってしまっているのだろうか。「地方活性=観光化施策」の一環として機能するならばまだしも地元民たちの生活の足として機能しないのであれば存続は難しいのかもしれない。

高齢ドライバーの事故増加はいろいろと考えさせられる

 これからさらに高齢化が進むことで高齢ドライバーの事故がますます増えるようならば、地方の公共交通機関についても再検討してみるのも一つかも。毎年、赤字を補填していくことも大切かもしれないが、行政は役所、図書館、イベントホール、学校、病院といった施設を、きちんとその駅周辺に区画・立地させられているのか。車社会に慣れきった地元の人たちに身近な公共交通機関として利用してもらえる取り組みが、必要なのではないか。

 そんなことを考えながら、車窓に広がる赤城山の稜線と田園風景を眺めていました。近くに立ち寄ることがあればぜひ、上電に乗ってみてください。きっとノスタルジックな昭和の香りを、あなたも体験することができるはず。