撮影/杉田容子

「ドタキャン」とはよく知られた俗語で、土壇場になって予定をキャンセルすることを省略していう言葉である。飲食店にとっては大変な問題である。特に大型の宴会予約でこれをやられたら大きな損失を被る。さらに悪質なのは予約しても、当日にやってこない(宿泊業界ではこれを「ノーショー」と呼ぶ)、なぜ来ないのかを確認したくて予約を入れた人に電話を入れたところ、出てくれないこともある。

飲食業界ではこのようなドタキャンの事例が近年増えてきた。Facebookで料理がセットされたテーブル席に予約した団体が連絡もせずに来ないことを怒りを込めて投稿する事例が数多く見られるようになった。

筆者は飲食店でドタキャンが増えている要因は「Web等によって予約がしやすくなったから」と考える。予約するときに相手の顔の見えないことから、ドタキャンに対する罪悪感が希薄になっているのではないか。

このような悪しき現象を断ち切るべく立ち上がったのは「飲食業専門」を標榜する弁護士・石﨑冬貴氏である。飲食店のドタキャン(ノーショー、無断キャンセル)を予防し債権の回収を代行する「ドタキャン回収代行サービス」をこの6月より開始した。

「キャンセルポリシー」を作ることが第一歩

 このサービスの概要についてチャートを参照しながら解説しよう。

 

■STEP1:キャンセルポリシーの作成サポート(無料)

 キャンセルポリシーとは、店が定めたキャンセル時に発生するキャンセル料等や注意事項のこと。この作成を石﨑氏が無料でアドバイスする。石﨑氏は、事前に店のHPやグルメサイト等にキャンセルポリシーの掲載や告知をお願いしている。

■STEP2:ドタキャン(ノーショー、無断キャンセル)が発生してしまったら

 

 実際にドタキャンが起きてしまったら、石﨑氏に気軽に申し込みをする。石﨑氏は、店がHPやグルメサイト等に掲載し、また告知をしているキャンセルポリシーの内容に沿って、督促及び回収代行を行う。

 このサービスは「申込み金・着手金は不要」となっており、「申込みはWebで受け付け」「入金が確認でき次第、店舗の指定口座に支払う」「手数料は回収金額の20%(及び消費税)」「日本全国対応」という具合の極めてシンプルなものになっている。

 石﨑氏は、かねてこの悪しき現象に義憤をいだいていたが、今年の3月9日ドタキャン被害にあった店の民事裁判に同店の弁護士としてのぞみ、開廷1分間で勝訴した。これがニュースとなってから、ドタキャン被害を受けた飲食店から多数相談を受けるようになり、このサービスを立ち上げる決断をした。

 この民事裁判の顛末はこうだ(一部、J-CASTニュースより転載)。

 2017年4月28日に、A氏の飲食店あてに被告人Bより「5月4日20時から40人の宴会をしたい」という予約が入った。当日の17時にA氏よりBに「今日の宴会は何人か?」と電話を入れると、「あとで連絡する」という。その後、電話がかかってこないばかりか、宴会開始の20時になっても誰も来ない。Bに電話をしてもつながらない。何度メールを送っても返事が来ない。そこでA氏がBに「警察や弁護士に相談する」というメールを送ると、Bから電話がかかって来た。電話は宴会をしている会場からで騒がしく、A氏が「なぜ連絡をくれないのか」と聞くと、「携帯を落とした」というばかりでらちがあかなかった。

 A氏は石﨑氏と相談、石﨑氏がBに電話で損害を補償するよう要求すると、「私は単なる宴会予約の窓口、担当者から電話をさせる」という。

 しかし、担当者からの電話はなく、Bの電話もつながらなくなった。石﨑氏は弁護士会照会という弁護士法に認められた権限を使い、携帯電話会社に個人情報を開示させてBの住所を割り出した。

 そして、Bの住所に40人分の料理コース費用計13万9200円の損害賠償の要求を内容証明で送ったが、受領されないまま戻ってきた。そこで訴訟を起こしたところ勝訴した。

「弁護士が回収する」というサービスの強さ

 石﨑氏は、ドタキャン回収代行サービスのポイントは「予防と回収」と語る。

「予防とは、店側からお客さまに向かって、『キャンセルをしたらキャンセル料を支払ってもらう』『いつキャンセルするとどれくらいのキャンセル料がかかるのか』という客観的指標を徹底しておくことです。このようなことはホテルや旅行業界がこれまで周知徹底してきて常識となっています。この作成は難しいことではなく、ホテルや旅行業界のキャンセルポリシーをひな型にすればよいことです」

「ノーショーや無断キャンセルなどでお金が回収できない対策としてデポジット(支払い保証の預かり金)や事前決済が想定されますが、これは日本の飲食業の実態にそぐわないと考えます。『これから10人でそちらに行きたいので予約します』というお客さまからの依頼に対して、逐一この条件をお客さまに伝えるのは面倒なことです。ですから、私がこのサービスを立ち上げるにあたって、店には予防をきちんと行ってもらい、『ドタキャンが起きたときに、私が回収をしっかりと行う』という意識がありました」

「債権回収とは基本的に弁護士にしかできないことです。そこで私の出番になるのです。『いざというときに弁護士が回収をします』ということがこのサービスの強さだと思います」

「回収については難しいことを行っているわけではありません。粗く言うと、書類に弁護士がハンコを押してドタキャンをした人に送るだけです。そして、裁判になったとしても負けることはまずありません。ただし、証拠を残しておくことが重要です。実際にそのような予約があったのかというレベルの問題はあります」

 成功報酬で20%ということは、仮に15万円のドタキャンであれば成功報酬が3万円ということになる。弁護士活動としての生産性は低くはないか。これに対して石﨑氏はこう語る。

「このサービスの意義は成功報酬の多寡の問題ではありません。私がライフワークとしている『飲食店法務』を定着させる取っ掛かりとして、ドタキャン回収代行サービスという分かりやすいモデルを一つ作っておきたかったのです」