ナイトマラソンは夜間の賑わいを取り戻す要素になる!

 第三の「ナイトタイムエコノミーへの影響」。

会場内の出店。5キロ、10キロの早い時刻に終わるレースのランナーは帰途につく前にアルコールを楽しむ。
給水所にはウォーターとポカリスエット。ポカリはしっかりと冷えていた。

 ナイトマラソンに夜間の消費を喚起する要素があるのか。日本は訪日外国人から“(他の国と比較して)夜がツマラナイ”と指摘されている。私はナイトマラソンが夜間の賑わいを取り戻す要素になり得ると考えている。

 確かに出場しているランナーはレース中の飲み食いにお金は使わない。しかしSundown Marathon にエントリーした総数2万5500人が(普通は自宅で過ごすであろう)日没から翌朝にかけて街中で活動するわけだから、その前後に何らかの消費活動があるだろう。5キロ、10キロのレース後に会場内の出店でビールを楽しむ人たちもいた。繁華街に繰り出すランナーもいるだろう。

 飲み食いの話だけでは狭義に捉え過ぎだ。仮に日本で本格的なナイトマラソンが実施されれば、土曜の夜は自宅から出歩かなかった人たちの過ごし方そのものを変えるきっかけになるのかもしれない。

 ちなみにシンガポールの面積は約720平方キロメートル(東京23区と同程度)。タクシーが相対的に安く、真夜中の移動にも不便はない。

 第四に「外国人が喜んで参加しているのか」。

 

 事務局から入手した資料によると、シンガポール以外の国からの参加が約37.66%もある。中国が8.75%、隣国のマレーシアが8.39%、インドが3.16%、英国が1.54%と続く。外国籍企業のビジネス・ハブとして、世界に開かれた都市国家ならではの数字である。

 ただし誤解があるといけないので注釈を加えると、日本の外務省の資料によると、シンガポールの人口は約561万人(2017年6月)、シンガポール人と永住者が397万人、それ以外が164万人。つまり在住する外国人比率が元々29.23%もある。海外からの参加を37.66%と記したが、大会への参加を目的に37.66%の外国人が入国したわけではない。

 日本最大のランナー向けポータルサイト「ランネット」に記載はなく、筆者はといえば、同大会に参加した在住の日本人が書いたブログを、たまたま目にしたことがきっかけである。

 熱帯アジアの大会は未明のうちにスタートして日が昇る前にゴールする大会は多々ある。しかし、20時から25時の比較的“早い”深夜帯にスタートする完全なナイトランをうたう大会は珍しい。コースも景観も運営も水準の高いSundown Marathonは、広く海外(特に日本)に認知されればエントリー数は増加するのではないか。

7月初旬・中旬なら夜の東京マラソンはアリだ!

 第五に「真夏(夜間)の東京マラソンはアリか」。

レースの翌日に撮影した海浜のコース。自転車やジョギング、ウォーキングが楽しめる全長8キロ以上のぜいたくな公園。

 一つ目に気象条件からすればアリだ。過去に東京で1日中30℃を下回らなかった日は13年8月11日の1日のみ。シンガポールのナイトランは28℃の中で2万5500人が実際に走っている。確かにシンガポール在住の人たちは暑さに慣れている。しかし、それは夏の東京で過ごしている人たちも一緒だ。熱帯夜の25℃以上でも全く問題はないと考える。

 ただし近年の異常気象を鑑みると開催は7月の初旬から中旬が安全といえる。後の方の8月下旬から9月は台風のリスクがあるので避けるのが無難である。

シンガポールの新アイコン「マリーナベイサンズ」が、しっかりと目に焼き付くコース設定。

 二つ目にコース設定は課題。先にも触れたが、Sundown Marathonのコースは内海沿い、海岸沿いを主に組んでいるので主要道路を遮断しない。スタートから十数キロ以降は、海浜の公園内にある全長8キロメートル以上の自転車&ジョギング専用道路とウォーキング専用道路を往復走る。真夜中なので公園内はランナー以外の人たちを稀に見る程度。それ以降はゴルフ場の周辺や植物園に至る道路など、深夜から早朝にかけて車の利用が少ない道路を使用する。警察官の姿も、ほとんど見なかった。

 東京で交通規制を最小限にとどめ景観の良いコースが設定できるのか、知恵を絞る必要がある。湾岸をイメージすれば、例えば、フルマラソンであれば、日テレや電通ビルのある汐留をスタート、晴海、豊洲、葛西臨海公園と続き、ディズニーランドを一周して折り返し、豊洲からお台場に向かい、周辺で距離を稼ぎ、レインボーブリッジ(片側規制)、芝浦、汐留に戻ってゴールする。海風も涼しく夜景もきれいだ。

 三つ目に帰宅の交通手段は課題。シンガポールの場合、国土面積が東京23区とほぼ同じあり、タクシー料金が相対的に安く、地下鉄を逃したランナーは始発を待たずにタクシーを利用する。東京は事情が異なるので、例えば汐留であれば、隣接する新橋の居酒屋に終夜営業を促すなど、ナイトタイムエコノミーを訴えていくしかない。訪日外国人に配慮すれば無料バスを運行させる。新宿、渋谷、品川などターミナル駅の間を行き来させる。

高速ランナーが走り終えた大会終盤の早朝。大方のランナーは歩いており、コースの規制も解除されている。
大会のキャッチフレーズ「SLEEP CAN WAIT」。「寝るのは(走った)後でも大丈夫」といったニュアンスか?

非日常のイベントで気分・消費を活性化させたい!

 最後にシンガポールSundown Marathonを走った筆者の感想を少し。鈍足ランナーの私にとって、やはり気温28℃はキビシイ。この時季、体も暑さに慣れていない。午前1時スタートなので56歳の私に徹夜もこたえた。

 25キロあたりから走るのを止めて、観光にシフトして、7時間を少し超えてゴール(制限時間8時間)した。その諦めのタイムですら5200人中、3634位。私の後ろに1500人以上いたのには驚きだが、真面目なランナーだけではなく、夜間の行楽を兼ねた初心者も数多く参加して楽しんでいたということだ。

 海浜の公園で手をつないで歩くカップルを何組も走って抜いた。夜のムードも手伝って、歩いているカップルの全組が手をつないでいたと言っても過言ではない。日本国内の大会では絶対に目にしない光景に微笑ましく思った。

 若者のグループも横一列になって談笑しながら走っている。どこまで走れるかは分からないが、真夜中に全員が同じゴールを目指したという経験は一生涯、記憶に残るに違いない。

 東京オリパラ以降は景気の後退が懸念されている。東京ナイトランのような非日常のイベントを繰り出して、少しでも人々の気分や消費を活性化させたいものだ。