ここ4回、「小売業の生産性問題」を掘り下げてきました。今回は、実際のデータで日本のチェーンストアの現実を明らかにします。この事実を厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドライン案と合わせて読み解くと、小売企業の進むべき方向性は一つしかないことが分かります。

チェーンストア大手の平均値は「2306億円、177店」

 編集部:前回(同一作業・同一賃金時代の「人員計画」)で、既存店の売上げを前年と同じとしても、パートを含む要員数で、少なくとも年率で5%、目標としては、年率10%程度は減らしていくことが必要と伺いました。こうしたことは、大手小売業にとっても、初めてのことでしょうね。人員数を前年と同じで配置してきたところが多いからです。

 吉田:小売業で最も大きなデータが取れるのは、日本チェーンストア協会のものです。2017年では56社が加盟し、総売上高は12兆9176億円です。イオン、イトーヨーカ堂をはじめ、ニトリホールディングス、DCMホーマック、ケーヨー、大創産業などがメンバーです。総合スーパー(日本型GMS)・スーパーマーケット(SM)でも大手のイズミ、いなげや、バロー、平和堂、ベイシア、マックスバリュ(中部、東海、西日本、北海道)マルエツ、ヤオコー、ヨークベニマル、ライフコーポレーションなどが加盟しています。

 1社の平均売上高は2306億円、平均店舗数では177店ですから、わが国のチェーンストアの大手といっていいでしょう。

 

 編集部:図表①のデータですね。なるほど、わが国の主な日本型GMS、ホームセンター、SMのチェーンが入っています

 13兆円の総売上高のうち、食品が8.5兆円で66%を占めていますね。

 吉田:イオンリテールやイトーヨーカ堂などの日本型GMSでも、売上げの55%くらいが1階にある食品によるものだからです。食品売上げがない米国の百貨店やシアーズ、JCペニーなどのGMS(総合商品小売業)に対し、日本型GMSは、食品売上げの多さが特徴です。

日本型GMSの2010年代は閉店の時代

 編集部:食品を取り扱わないシアーズやJCペニーを目標にしていた日本型GMSが、なぜ食品を取り扱ったのですか。

 吉田:米国では、100年も前から、食品ではチェーンストアが出ていたからです。このため、日本型GMSは食品では競争優位を作ることができなかった。

 一方、日本ではSMのチェーン化より、日本型GMSの多店舗化が先でした。このため、大型店だった日本型GMSは食品専門ではなくても、小さな食品店に比べて、商品の競争優位を作ることができました。

 日本型GMSは1階で食品を扱い、SMに先行することができたからです。日本型GMSは1970年代まで「流通革命の旗手」を自任し、家業型の食品店に比べた食品・飲料の品揃えの豊富さと価格の安さで、先行していました。

 編集部:なるほど、近代化での小売業態の跛行(はこう)現象(げんしょう)という事情があったのですね。日本チェーンストア協会に主な日本型GMS企業が加盟している理由も、小売業の近代化の旗手が日本型GMSだったからでしょう。

 吉田:日本型GMSは1970年代までは、わが国ではウォルマートやKマートのようなディスカウントストアとして受け止められていました。当時の業態としては唯一、価格を下げるマーチャンダイジング(商品活動)を行っていたからです。

 しかし、このディスカウント色は、食品では1980年代からのSMの増加により、衣料と住関連商品では1990年代からの開発輸入のSPA(海外製造直売型の専門小売業)の登場によって、早くも「旧勢力」になってしまい、価格の革新性は薄れていきます。これが、1990年代からの日本型GMSの業績低下の主因です。

 経営面での原因は、3階から5階建ての建物で、1人当たり売場面積が広く取れず、人的な生産性が低かったため、売上対比のコスト率が25%から27%と高かったからです。このため、売価では仕入れ原価に対して平均で30%の値入率が必要でした。ここでいう値入率は「仕入れ原価÷(1-値入率)=売価」とするものです。

 日本型GMSは、わが国で最初に、200店から300店を作ったチェーンストアでしたが、2010年代は、売上げの減少から「閉店の時代」に向かっているのはご存知の通りです。

 編集部:図表①の右側には、日本チェーンストア協会に加盟している企業の店舗の生産性指標が出ています。これを説明してください。

 吉田:図表①の右側の表は、日本チェーンストア協会の合計売上高、合計店舗面積、そして総従業員数から、当方が計算したものです。従業員数ではパート2人を、正社員1人と換算しています。4時間から6時間労働が多いからです。3つのデータから、わが国の大型店9885店の平均生産性が計算できます。