売上高2000億円を超えるカジュアルチェーンで21ブランドを展開するアダストリアが将来に向けた布石を矢継ぎ早に打っている。新ブランドやセレクトショップの開発、国内外でのM&A(合併・買収)など活発な動きが目立つ。そこで、同社の福田三千男会長兼最高経営責任者にこれからの戦略を聞いた。

(聞き手/『ファッション販売』編集長・西岡克)
photo/杉田容子

福田三千男

1946年7月10日茨城県水戸市生まれ。69年同志社大学商学部卒業後、4月大賀入社。71年5月家業の福田屋洋服店(現アダストリア)入社。82年6月専務取締役。93年3月社長に就任し、社名をポイントに変更。2004年5月代表取締役会長。10年5月代表取締役会長兼社長。13年8月代表取締役会長。13年9月アダストリアホールディングス(現アダストリア)代表取締役会長。15年5月代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)。趣味はクラシックの鑑賞。夫婦で歌舞伎の鑑賞も。

 

アダストリアの業績推移
※13年2月期まではポイント。その後アダストリアホールディングスを経てアダストリアに。店舗数はWEBストアと海外店を含む。海外は12月期決算。
  •  ――2017年2月期は減益だった。
  •  福田:16年2月期に中期計画の3年目の数字をほぼ達成してしまったので、将来の成長のために積極的な投資をしました。また最後の12月、1月に張り切って在庫を持ち過ぎて値引きロスが増加し、期末に約10億円の在庫評価損を計上したのが減益の大きな要因です。それ以外はほぼ予定通りの進捗でした。
  •  ――前期は悪くなく良かったと。
  •  福田:良かったと思いますね。先行投資をしなければもっと利益は出ていましたから。昨年から新ブランドの準備をし、食事業でも昨年11月にカフェ・カンパニーと共同出資でピープルズインクを設立しました。海外ではアメリカのマリンレイヤー社に昨年4月に約10%を出資。その他IT関連の投資など次のステージに向けた準備を進めました。今年も積極的に投資します。既に4月にはアメリカのベルベット社を買収しました。
  •  ――特に好調だったブランドは。
  •  福田:「ベイフロー」です。前期は73.4%伸び、売上高は50億円超になりました。14年春から立ち上げて、3年目で50億円を達成したのは早い成長だと思います。「グローバルワーク」「ニコアンド」など売上げ上位のブランドは大体順調でした。12年11月に買収し、その後吸収した「バビロン」も絶好調です。足元の3~4月も全社的に順調ですね。

「スタディオクリップ」はさらに伸びる可能性がある

  •  ――グローバルワークは15年2月期に売上高300億円を超えてナンバーワンブランドになり、ニコアンドも16年2月期に売上高200億円を超え、前期は「ローリーズファーム」を上回った。以前はローリーズファームが柱だったが、次の大型ブランドが育ってきた。今後伸びるブランドは何か。
  • 女性の生涯に寄り添うライフタイムブランドとしてリブランディングし、好調な「レプシィム」 

     福田: 一番出店ができるのは「スタディオクリップ」だと思います。出店の余地が大きい。大型の売場を確保できるのはニコアンドやグローバルワークです。

  •  それから「レプシィム」が新しい姿に変わってきました。価格競争に巻き込まれていた3年前とだいぶ違う。価格競争をやめてから、がらっと変わりました。マタニティウエアも14年から展開し、これが大ヒット。ネットでフォロワーが出てきて、店舗にも波及しました。30代~40代の大人の女性に向けた新しいブランド内ブランドも立ち上げました。百貨店ブランドのクオリティで2、3割安いイメージです。出産したお母さんがその後、普段着や仕事着で着ています。

  •  ―――スタディオクリップの出店余地が大きいというのは小商圏で成り立つから。
  •  福田: そうですね。日常着ですから例えば食品のコーナーのそばにも出店できます。普段の買物のついでに来店されて、アパレルだけでなくキッチン用品をお求めになっています。

     エリア戦略を組み直して、例えばエリアでコアになる大型店を造って、周辺にドミナント出店することも可能です。その方が配送も楽になる。昔から30代後半~40代のお客さまが多かったのですが、安定したファンが多いです。

     実は西の方の2カ所で実験を始めています。3km離れたA店とB店があるとして、A店ではあるカテゴリーを広げ、B店とは異なる店の顔をつくります。高価格帯の商品はコアの大型店に置いておく。既存商品より価格が高くてもちょっとおしゃれしたいからと意外に売れています。
  •  ――3月から日常のストレスを軽減する機能に着目した新業態「ラコレ」の展開を始めた。スタートの状況は。
  •  福田: まだ数店ですからね(5月12日現在7店)。機能性にスポットを当てたら、年代の幅が非常に広い。僕にも友達から電話がかかってきました。「あの汗染みが出ない機能をTシャツではなく僕がよく着るポロシャツで作ってくれ」と。結構お客さまからの声が多く、反応は上々です。これから課題を分析していきます。

     機能はもっと分かりやすく訴えるべきかな。カラーはあまり必要ないのかなと考えていましたが、時流によって明るい色や柄が必要なときもある。その辺の修正が必要かもしれません。

海外店はようやく方向性が見えてきた

  •  ――海外店の状況は。
  •  福田: 海外では香港、中国、台湾で前期108店を展開していますが、3年前から戦略の見直しを始めています。

  •  香港は中国本土からの観光客が減少し消費が冷え込み、当社も冬物が販売不振で在庫を抱えて前期は赤字になりました。

  •  中国も同じ。実は中国の事業は積極的にやらせなかったのです。もう少しクオリティが上がり、差別化できる商品が作れるようになってからやろうと。それが最近やっと軌道に乗ってきました。

  •  管理面では現地の人たちが日本とコミュニケーションを取って支店として動く一方で、現地独自で商品開発から販売までやらせてみました。今年前半までには少し落ち着くのかなという感じはします。

  •  台湾はマーケットが縮小し景気も停滞していますが、当社はずっと黒字です。韓国もやっと店舗段階では黒字になりました。カンボジアのローリーズファームは昨年秋に閉めました。海外はようやく方向性が見えてきたところです。

  •  ――アダストリアの組織体制は。
  •  福田:営業は営業統括部の下に営業本部が第1、第2、第3とあり、各ブランドが分かれています。また営業支援本部、WEB事業本部、海外事業本部、マーケティング本部、生産物流本部、戦略開発本部、経営企画本部、コミュニケーションデザイン本部などがあります。

     結構フラットな組織です。ただ今年の営業関係の組織は変わってきました。マトリックスになってきているのですよ。

     基本的には一つのブランドに対して、商品を企画する部隊とそれを売り切る営業の部隊がある。それに対して横串で生産物流本部やマーケティング本部がある。ブランドの縦軸を横串で刺す部署です。

     昨年9月に九州支店を立ち上げ、支店制度を導入しました。支店は店舗支援をするのが目的で、ブランド軸ではなく地方軸、店舗軸なのです。

     支店制度を導入したのは、東京から離れたエリアはよく見えないから。さらに当社は多ブランド展開をしていますから、同じSCに出ているのにブランド別だとブランドによって人員に過不足が起きる。また本部からいろいろ指令が出ても品出しなどの仕事などがあって、店頭で販売職が接客をできない。接客時間を増やすにはバックヤードの時間をどう減らすかを含めて支店制度を考えようと。

     こう考えると組織体系はまさしくマトリックスになってしまうのです。だけど本当はそれが正しいのだろうと感じます。

     支店制度は九州・沖縄から実験を始めて、現在は四国と中国地方、まもなく東北・北海道、9月からは全国17地区で全てスタートします。

  •  ――アダストリアの情報の収集から企画・生産・物流・販売までの流れは。
  •  福田:素材・原材料から入って、テキスタイル、企画、生産まで一貫しています。自社生産の比率は約5割。あと半数はOEM(生産委託)です。自社生産の方法はグローバルワークは素材から入ってじっくりと6カ月以上かけて作るし、ニコアンドは通常は3~4カ月で作るなどブランドによって異なります。なるべく素材を一括化し、工場を共通化しようとしています。物流センターは水戸、茨城西、福岡、神戸、藤岡にあります。