東京ミッドタウン日比谷の3階の約240坪のスペースに9店舗を集めたスペースが日比谷セントラルマーケットだ。総合プロデュースを手掛けたのは株式会社alphaの南 貴之氏。同マーケットにテナント出店しているセレクトショップ「Graphpaper」のオーナーでもある。

 日比谷セントラルマーケットのイメージコンセプトは、タイを始め東南アジアでたくさん見られるストリートマーケットだ。テナントしている9店舗を通路沿いに歩いて回れるのも特長のひとつ。子供が2人で遊ぶのを想定してまず道を作り、その後に区画を施してリーシングしたそうだ。薄暗くどこかノスタルジックな雰囲気は東京ミッドタウン日比谷とはかけ離れており、異文化の香りさえ漂ってくる。今回はその中でも特に気になった店舗に焦点を当てて紹介したい。

本と雑貨の「Library」

本、ヴィンテージ家具、雑貨を取り扱うLibraryの外観。

 日比谷セントラルマーケットの真ん中には「Library」という本とヴィンテージ・インテリア、雑貨等を扱う複合店を構えた。海外の博物館や図書館をイメージした大きな本棚には、それぞれ本好きな著名人が選書した本が並ぶ。それはさながら個人の本棚を見ているような不思議な感じがした。

 本や生活雑貨を陳列している食器棚や家具類も全て売り物でそれぞれに値札が付いている。あたかもお店全体を販売しているようにも思えてくる。

大きな本棚には南貴之氏と有隣堂がセレクトした多種多様な本が並ぶ。
選書した人の名前がプレートされている。

コンセプチュアルなセレクトショップ「Graphpaper」

大きな収納ケースは壁と一体化している。
前面の扉を開けると商品が確認できる。

 そして「Graphpaper」。神宮前のギャラリーとして個性豊かな仕掛けの内装コンセプトは、ここ日比谷にも上手く移植されている。スイスの美術史家であるハラルド・ゼーマン氏(1933 – 2005)のキュレーション方法を参考に、ギャラリーで展示するように商品が並べられた。大きな白いケースに商品が収納されていて、お客は見たい時に扉を開けないと商品が見る事ができないというものだ。

 ミッドタウン日比谷では、約4mという天井の高さもひとつの「空間」として存分に息づいている。この店では人と物との距離が絶妙にバランスされていて「空間」もひとつの存在として認められる。

Graphpaperの存在感のあるショーケース。

 「BLACK=40%」(黒い商品の比率を40%に抑える)によって大人っぽさを表現している。店の入口には独立させたショーウィンドウがあり、その重厚感と対比するようにフランス人デザイナーのピエール・シャポー氏(Pierre Chapo)の椅子と、白いドレスが素材の持つドレープ感に独特な陰影をつけながら飾られている。やや腰を引いてしまいそうになるくらいの迫力がある。

ノスタルジックな理容店「理容ヒビヤ」

理容ヒビヤの外観、月に一度女性向けの「お顔そり」も行う。調髪は5,000円~。
店内も懐かしさを感じさせる雰囲気。

 ノスタルジックな外装が印象的な「理容ヒビヤ」は理髪店。回るサインポールにどこか懐かしさを感じる。店内に入ってみると、ショーケースには現在では製造中止になっている国産バリカン、カミソリ、髪のセットに使用していたヘアネット(見るのは初めて)など、珍しい理髪用品のデッドストックを販売している。そんな骨太な理髪店を経営している藤井 実氏に話を伺うことができた。

広島のマツオカというメーカーで造られた電動国産バリカン。現在はメーカーは無いが、製品は今でも動く。業務用のため一般の方へは非売。

―レトロな雰囲気の理髪店を作るきっかけは何だったのでしょう。

「実は理容業というのは生活衛生の一つの理容師法を守らなければならない業態なのです。理容師法は戦後間もない頃に、公衆衛生向上を目的に施行された法律。そこに暮らし生活する人々が健康に過ごしてゆく為には必要だったのでしょう。

 この理容師法によって厳格に定められた規則の一つ一つを忠実に実現すると、こういった雰囲気の理髪店に仕上がるのです。決してトレンドとかではなく、どちらかといえばトラッド(伝統)な店なのだと思います。」

 文字にしてつづってみると何とも厳格な店主のようにも思えるが、話し方も物腰もとても柔らかだった。藤井氏は一般社団法人日本衛生管理協会の代表理事も務めている。

ドライヤーで髪をセットする時に使うネット、その面白さに思わず買ってしまった。意匠登録されている。
調髪(上)、消毒(左)、待合いスペース(右)とそれぞれ床材も替えて区分け。

大衆居酒屋「一角」

「Library」側から「一角」を見たところ。
定食、居酒屋「一角」の夜メニュー。

 

「一角」のコーナーにポップアップ屋台。 ソムリエ早坂氏が選んだ自然派ワインが気軽に楽しめる。

 日本の大衆酒場の代表格として居酒屋「一角」がテナントしている。

 代々木上原を中心にフレンチビストロ「MAISON CINQUANTECINQ」や「Gris」、和食居酒屋「Lanterne」、器をテーマにしたギャラリー併設レストラン「AELU」や「9STORIES」などを手掛ける丸山智博氏がプロデュースした。唐揚げとハイボールが基本で昼は定食、夜は居酒屋に変身する。日本独特な文化の発信と馴染みやすさを提供する。

 商業施設の雰囲気からするとヨーロッパ伝統のガッレリアのような美観のマーケットの方が、ひょっとすると馴染んだのかもしれない。そこをあえてこだわりを持った店舗を集め、それらがそれぞれの色を出しながら営業するという攻めでも守りでもない姿勢が、今の東京の「格好良さ」を表している。