三陽商会は2015年に英国「バーバリー」とのライセンス契約が終了。後継ブランドに「マッキントッシュ ロンドン」などを据えたが、16年12月期は過去最大の最終赤字となった。復活するには新たな成長の青写真を描くことが欠かせない。1月に就任した岩田功新社長に「ポスト・バーバリー」の成長戦略を聞いた。

(聞き手/『ファッション販売』編集長・西岡克)
photo/杉田容子
岩田功

1959年3月14日埼玉県秩父市生まれ。4歳から川崎市、その後横浜市で育つ。82年3月早稲田大学商学部卒業後、4月三陽商会に入社。メンズの営業を3年間、商品企画を約9年間経験。2003年7月事業統轄本部経営企画室担当部長となり、以後経営企画室長を中心にコンプライアンス室長兼ウェブビジネス推進室長などを歴任。09年1月執行役員となり、13年3月取締役に。14年7月取締役兼常務執行役員経営統轄本部長。17年1月から社長兼社長執行役員経営統轄本部長に就任。

 ――社長就任の経緯は

 岩田:昨年10月前半に杉浦(昌彦前社長)から呼ばれ「来期から社長をやってくれないか」と言われました。正直、驚きました。入社後十数年営業や企画の仕事もしましたが、現場を離れて経営企画に来てもう20年以上になりますので「本当に自分でいいんですか」と聞きました。

 ――新社長としての抱負は。

 岩田:当社は昨年7月末にそれまでの中期経営5カ年計画を取り下げて、今年以降の構造改革と新しい成長戦略を策定するためのプロジェクトを8月後半からスタート。今年2月には新たな中期経営3カ年計画(新中計)「サンヨー・イノベーション・プラン(SIP)2017」を発表しました。私の仕事はここに掲げられた課題をやり遂げることです。

 生活者から当社が提供する商品が愛されて、企業そのものが愛され、社会に必要とされる企業になることが必要です。その第一歩として構造改革をやり切らなくてはならないと考えています。

 ――衣料品が大不振に陥っている。百貨店、とりわけ中間層の消費が厳しい。

 岩田:個人消費は非常に弱い。消費の多様化で洋服の占める地位が相対的に低下しているのが原因です。

 また付加価値の質が変わってきていると感じます。素材や色柄・デザインだけでなく、例えば環境への配慮とか健康や学びや教養や美というかつて洋服が持っていたのとは違う新しい付加価値が出てきています。それをわれわれは新しいビジネスにどう反映させていくかを考えなければなりません。

 ――三陽商会の強みと弱みとは。

 岩田:一番の強みはプロダクションです。物作りにはプロダクションとクリエーションの2つあって、特に当社は生産の部分が非常に強い。国内に青森、福島、新潟と3つの自社工場を有していて、そこで長年培われてきた技術的な蓄積が今の物作りに反映されていると思います。

 もう一つは百貨店ビジネスにおける営業力の強さです。ただ逆にシニアを中心とした百貨店販路に売上げの約7割が集中してしまっていて、今後社会の中核を担う新しい20代、30代の人たちへのアクセスが全くできていないのが弱みです。

バーバリーの後継ブランドが苦戦した理由

三陽商会の業績推移

 ――2016年12月期の総括は。

 岩田:一昨年6月末でバーバリーとのライセンス契約が終了して、7、8月にバーバリーが元あった売場を新たなブランド「マッキントッシュ ロンドン」と「クレストブリッジ」に切り替えました。昨年6月末まで1年間の在庫処分期間を経てバーバリーのビジネスは終了。従って、前提条件が大きく変わりました。

 前期は一昨年の上期まであったバーバリーのビジネスを新ブランドやその他の既存事業でカバーし切れず、大きく売上げを落としてしまいました。

 とりわけ今回はマッキントッシュ ロンドンが約260店、クレストブリッジは「ブルーレーベル」「ブラックレーベル」を合わせて約150店の売場が一挙に立ち上がって、その売場を埋めるために生産した商品の在庫が過剰になって、全体の利益の足を引っ張りました。

 ――バーバリーの後継ブランドであるマッキントッシュ ロンドンが想定通り売れなかった原因は。

 岩田:元のバーバリーの売場を引き継ぐ形で新しく売場を作り、店頭のスタッフも、ひも付いている顧客も、物作り部隊も基本的にはバーバリーのチームがそのまま切り替わりました。そこがあまりにも変わらな過ぎたのです。

 バーバリーは非常に成功したビジネスだけに、その成功体験から抜け切れませんでした。コマーシャルなどさまざまなコミュニケーション戦略も取りましたが、特にふりのお客さまに再来店していただけませんでした。

 もう一度お客さまに商品やブランドの良さ、特有の価値をアピールし、理解してもらうことが大切で、今はそれを進めています。おかげさまで業績は少しずつ回復してきています。

 ――既存の基幹事業である「ポール・スチュアート」は。

 岩田:「マッキントッシュ フィロソフィー」やメンズの「エポカ ウォモ」のように前年をずっと上回っている好調なブランドがある一方で、同事業は87億8000万円、前期比3.5%減と予想以上に苦戦しました。全国百貨店売上高は婦人服を中心に衣料品は昨年12月時点で14カ月連続と1年以上マイナス。一昨年の下期以降、われわれの想像を超えてマーケットは厳しくなっています。

 ――第3の事業である「エポカ」は。

 岩田:婦人服のエポカは堅調で、エポカ事業全体では77億円で前期比0.4%増でした。リブランディング後に一時数字が沈みましたが、その後はずっと成長し、今は一息ついている感じです。

 ただ24時間着ていても疲れないキャリア向けのジャケット「24(トゥエンティフォー)ジャケット」が非常に好調に推移するなど現代女性の社会進出に対応したファッションが受けています。新しい店づくりも始まっており、いい部分を伸ばしていこうと思っています。

 ――マッキントッシュ フィロソフィーとエポカ ウォモが好調なのはなぜか。

 岩田:価格と価値のバランスがすごく良く、マーケットの中で他社との差別化ができているからです。特に前者はトロッタージャケットに代表される合繊のしわになりにくいジャケットとパンツのセットアップなど新しいジャンルの商品群がずっと好調に推移しています。エポカ ウォモは他社にない少し凝った素材やデザインの提案が常にできています。

MD改革で利益構造を改善、セレクトショップはさらに強化

 ――1月に新中計実行に向けた組織改編を実施した。

 岩田:組織構造をフラット化し、従来の5階層から3階層に改め、呼び名も本部長と部長と課長とし、責任と権限を明確にしました。

 またマーケティング&コミュニケーション本部を新設しました。従来宣伝室や販促、広報などの部署に分散していた機能を統合し、マーケット対応力を強化する狙いです。

 3番目は中堅・若手の登用です。今回かなり若い人間を新たに部長に就け、人事の活性化を図りました。

 ――17年12月期の重点施策は。

 岩田:新中計の始動により、17年は構造改革のスタート地点になります。昨年から不採算のブランドや売場を整理して、利益の出る事業に集中しようとしています。また利益の足を引っ張る在庫の削減を進めています。

 あとはマーチャンダイジング(MD)改革です。物の作り方と商品の展開の仕方をより今のマーケットの状況に合った形にして無駄をなくします。仕入れの無駄をなくすことで原価の効率を高め、消化率を高めていくことで利益の構造を改善します。

 その一方で、次の成長に向けた成長戦略を進めます。時間がかかる新規事業も準備をしていきます。

 ――不採算ブランド廃止の進捗状況は。

 岩田:廃止するブランドは今年8月末までに「コトゥー」「イルファーロ」の2ブランドを加え、16年2月からの累計で11ブランドになります。16年年初には22ブランド・37ラインありましたが16ブランド・26ラインの体制になります。

 ――マッキントッシュ ロンドンはどう立て直すのか。

 岩田:マーケットを知り自分たちの立ち位置とターゲット、自分たちの提供価値の強みがどこにあるのかを徹底的に追求することです。ブランドの強み、よって立つべきコアなエッセンスはどこにあるのかを考え、商品や売場やサービス、あるいはコミュニケーションに反映させていくというブランディングを進めます。

 好調なマッキントッシュ フィロソフィーやエポカ ウォモはそれがちゃんとできています。このブランドでなければいけない理由というものをつくらなければならないと思います。

 ――好調なセレクトショップの事業はさらに強化する。

 岩田:はい。セレクトショップは直営路面店の「ラブレス」、商業施設に出店する「ギルドプライム」と区分けしています。ラブレス事業は前期30億円で7.5%の伸びでした。好調な要因は他のセレクトショップと比べて差別化できているから。従ってマスのマーケットではないので、ビジネスの天井はどこかをよく見極めないと間違います。

 もっとも店舗数はまだ少なく、抜けているエリアもあるので、新規出店していくことで、まだまだマーケットの中でのシェアは取ることができると思います。

 ――出店するのは10大都市級か。

 岩田:少なくとも主要都市です。マーケットが大きな東京では新宿や池袋などにも出店できるはずです。仙台、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡は既に出ていますが、札幌や金沢はまだ店がない。出店余地はまだあると思います。既存店もまだまだ効率を追えると思います。