アマゾンの出現は既存のリアル書店に大きな影響を与えた。写真はアマゾンが開いたリアル書店「アマゾン・ブックス」(Photo by Sachie Hirayama)

 第19回は、「小売り・サービス企業はデジタル・ディスラプション(創造的破壊)をどう捉える?」がテーマです。

 皆さん、「デジタル・ディスラプション」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。まだまだ日本ではなじみがない言葉だと思います。これは本年度の全米小売業協会(NRF)の年次総会で「デジタル・トランスフォーメーション」同様、聴衆の注目を集めた重要なキーワードでした。

アマゾン、Uber、Airbnbなどが代表例

「デジタル・ディスラプション」を知る上で、『対デジタル・ディスラプター戦略-既存企業の戦い方-』(日本経済新聞出版社2017)が参考になるのでご紹介します。

※これはスイスのビジネススクールで有名なIMDのマイケル・ウェイド教授とネットワークシステムで世界的に有名なシスコ社との共同研究の結果をまとめた著書です。

 この本の中で、「デジタル・ディスラプション」の概念は次のように定義されています。

「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルが、企業の(現時点での)価値提案(バリュー・プロポジション)と市場における今後の地位に及ぼす影響のこと」

 皆さんがご存知のアマゾン、Uber、Airbnbなどは、まさしく「デジタル・ディスラプター」なのです。

デジタル・トランスフォーメーションとデジタル・ボルテックス

 ここで、「デジタル・ディスラプター」に関連した2つの概念も知っておきましょう。

 1つ目は、「デジタル・トランスフォーメーション」。これはデジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善することをいいます。その目的は3つ。①企業の業績を改善させること、②デジタルを土台にした変革であること、③プロセスや人、戦略など組織の変化を伴うものであることです。

 2つ目は、「デジタル・ボルテックス」。これはデジタル技術の進展により、さまざまな業界が、デジタルの渦の目をめがけて突き進む避けようのない動きのことをいいます。現在、デジタル・ボルテックスの影響をあまり受けていない業界は「石油・ガス」「公益事業」「製薬」と言われています。その一方で、影響を受けている業界として「テクノロジー」「メディア・エンターテイメント」「旅行・ホテル」「金融サービス」「通信」「小売り」が挙げられています。

 今後はいかなる業界でもデジタル・ボルテックスの流れから逃れることはできないと推察されます。そのため、小売り・サービス企業は今のうちからデジタル技術をうまく導入し、デジタル・ディスラプターと呼ばれる企業の戦略に対処しておくことが重要。それができなければ、生存そのものが難しくなるでしょう。アメリカでは大手書店「ボーダーズ」、玩具小売大手の「トイザラス」がディスラプターであるアマゾンの攻勢により、残念ながら経営破たんしました。これと同じことが日本でも起こることは間違いありません。

3つのカスタマー・バリューの提供が重要に

 では、小売り・サービス企業は、「デジタル・ディスラプター」に対し、どう対処すべきなのでしょうか。

 マイケル・ウェイド教授は①コストバリュー、②エクスペリエンス・バリュー、③プラットフォーム・バリューの3つのカスタマー・バリューの提供が重要と述べています。

 ディスラプターはこの3つのバリューをうまくビジネスモデルに組み込んで既存市場に攻めてきます。従って、小売り・サービス企業はデジタル・ディスラプターが自社の存在する市場に仕掛けてきたカスタマー・バリューの組み合わせを分析し、「自らの弱点を強みに変える戦略」を取ることが重要です。戦略論における「クロスSWOT」の概念を持つことが今、求められているのです。

 マイケル・ウェイド教授は戦術面にも触れており、「攻撃的戦略」と「防御的戦略」を状況に応じてうまく使い分けるべきだと主張しています。

 攻撃的戦略では「破壊戦略と拠点戦略」。防御的戦略では「収穫戦略と徹底戦略」。

 この4つの戦略を簡単に説明すると、①破壊戦略は自らの中核事業をディスラプトし、新しい市場を生み出すための攻撃的戦略を指しています。②拠点戦略はディスラプションと関係する競合的利益を持続させるための攻撃的戦略のこと。③収穫戦略はディスラプティブな脅威を遮断し、攻撃されている事業分野のパフォーマンスを最適化するための防御的戦略で、④撤退戦略は攻撃されている事業分野から戦略的撤退をするための防衛的戦略になります。

攻撃的戦略、防御的戦略には順番がある

 ここで大切な点は、攻撃的戦略と防御的戦略には実行する順番があるということです。

 攻撃的戦略は「収穫戦略から徹底戦略へ」、防御的戦略は「破壊戦略から拠点戦略を取るよう考慮すべき」というのです。

 この戦略を実行した結果、小売り・サービス企業はディスラプターへの対抗に加え、自らバリューベイカンシー(デジタル・ディスラプションによって生じた市場で利益を享受できるチャンス)を発見できるようになります。

 マイケル・ウェイド教授は今後、小売り・サービス企業に求められる能力は「アジリティ(俊敏性)」であると述べています。デジタル時代におけるビジネス・アジリティとは、①ハイパーアウェアネス(察知力)、②情報に基づく意思決定力、③迅速な実行力(マイケル・ウェイド 2017)のこと。

 これに加え、私は「市場志向性」と「価値共創性」も併せ持つべきだと思っています。

 今後、リアル小売り・サービス企業は自社の組織、人材がデジタル・ディスラプションの流れに対処できる状態になっているかを常に自問し続けることが必要になっています。そうしないと、ボーダーズやトイザらスのような破滅への道を歩むことになってしまいます。