朝食バイキングでは、さまざまな形をしたカラフルなお皿が食器棚に陳列してあり、食事だけでなくお皿も好きなものを選べるようになっています。好きな色や形のお皿を選んで食事を目でも楽しんでください、というメッセージPOP付き。

たくさんある不ぞろいな器を全て並べてお客さま側に「選ばせる」ことで、普通のバイキングが特別な朝食になる

 この旅館は、部屋に隣接した露天風呂はなく貸切風呂システムです。幾つかの温泉があり、使用する際はドアにかけてある札をひっくり返して、時間制で使用する簡単な仕組みです。予約プランによっては宿泊中ずっと1つの温泉を貸し切って、好きな時間に入ることができます。また中には赤ちゃんがようやく一人入れる小さい専用入浴スペースを設けてあり、家族みんなで温泉を楽しむことができます。

 家族連れが小さな子供を連れてお風呂にゆっくり入るには、部屋風呂付きプランを予約するパターンが一般的です。もしくは大抵の場合、母親がお風呂に入れて、せっかく温泉にきたのに周囲の迷惑を気にしてそそくさと出て疲れてしまいます。(※さらに赤ちゃんの温泉デビューとなれば柔肌に硫黄や泉質、温度が大丈夫か、オムツが取れていなくても入浴できるかといった項目も関係してくるため、私のように第一子で神経質な親ならばググりまくって疲れ果てます)

 チェックアウト後には当たり前のようにスタッフが外まで出てきて、こちらからお願いする前に家族写真を撮ってくれました。旅先で家族写真が撮りたいときは大抵こちらからいつも撮影をお願いしていたので、この自然な対応だけでもファンが増えるだろうと感じました。

できることの積み重ねが特別になる

 なかや旅館の近くには、少なくとも歩いて行ける場所には本当に何もありません。そのためお客さまは、宿泊中ほぼずっと旅館内で過ごすことになります。外に出掛けるような観光スポットが何もないからこそ、スタッフたちは自分たちの旅館のウリを、きっと必死に考えたのだと思います。

「周りには何もないから、ターゲットはとにかくのんびり過ごしたい家族連れやカップルがいいんじゃないか」「大自然の中だから、外国人も楽しめるかも」「『選ぶ楽しみ』をたくさん作ろう」――。

 私がステマでもないのにここまで絶賛して褒めちぎっているのは、単なるおもてなしに留まるのではなく、きちんと売上げにつながる工夫がされている点です。無料のサービスは大切なことですが、サービスするだけではお客さまにいい印象を与えるだけで、利益を得られなければ店は赤字です。営業を続けていくためには、正しい見返りを求めることが絶対に必要なのです。

 一所懸命作った料理だとしても、メニュー名と値段のみのご案内ならスルーする人がほとんどです。でもそこに従業員しか知らない「情報」を追加してお知らせすれば、おいしそうなイメージを受け手に与え、「+1」をちょっと頼んでみようかなという気にさせられます。

 赤ちゃん専用浴槽はお金もかかる独特なアイディアですが、それ以外はどれもちょっと工夫すればできることばかりです。でもそれら全てをかき集めて一つの旅館で提供していることが、本当に、本当にこの旅館のすごいところです。

 そう思うのは私だけではありません。この旅館はBooking.comの「クチコミアワード(クチコミ褒章)2017」や「赤ちゃんと泊まれる宿1位」など数々の賞を受賞、リピート率も高いようでヘビーユーザーでは23回訪れたお客さまもおり、こんなど田舎でもイギリス在住のYouTuberに宿泊場所として選ばれているのです。

 子供連れだったら、本当は家族みんなで温泉に浸かりたいのではないか。滞在中は、この場所で少しでも楽しんでもらいたい。では、今持っているリソースで、自分たちには何ができるか。

 最初から全てがあったのではなく、少しずつ、改良を積み重ねてきたことがSNSをさかのぼると分かります。人柄や景色が伝わってくるブログ・Facebook発信を行い、全客室のWi-Fiにも対応、楽天トラベルなど大手旅行サイトの予約にも対応しています。いわゆる個店ですが、時代の波にしっかりと乗っています。そして従業員のリフレッシュや館内メンテナンスのために、毎月きっちり休館日も設けています。