〈第4章〉デジタルをどのように位置付けるか?

デジタルはマーケティングの一部にすぎない

中見 最近、デジタルシフトなどさまざまな話がされていますが、デジタルをどう捉えていますか。

富永 デジタルマーケティングという言葉は嘘ですね。マーケティングの一部分をデジタルでやるというのは正しい話法です。デジタルだけを切り出して、デジタルで何かをするということは、結果としてできることはあるかもしれませんが、それはアナログでやっていたことをたまたまデジタルにしているだけで、本質的なことが変わったということは一切ないと思います。人間は何があったらその商品に興味を持ち、何があったら買ってくれるということを地道に組み立てていって、それをどこで起こすかということで、それがたまたまデジタル上だったらデジタルですし、紙だったら紙という話。そうした意味でデジタルを特別視するのはあまり正しい態度ではないと思います。そうはいっても、デジタルとどう向き合うかというのは結構大きな話題ですが。

 デジタルの素晴らしさとして可視化できることや、数値化できることがあります。何をしたらどのような反応があったかがつぶさに分かるのはデジタルでないとできないので、そうした特性を利用して多様な改善をどんどんできます。これは非常に重要で、これができると、企業にとって最も大事な、しかも描くのが難しいといわれる「成長のロードマップ」がある程度、描けるわけです。そのためにはコンバージョンレートやA/Bのようなことをしっかり回していくことが大事だと思います。デジタルによる仮説検証ですね。

 しかし、デジタルの世界だけに安住していると、物事を捉える視点が非常に狭くなります。例えば、このフォントとこのフォントのどっちがいいのかは大事ではないとはいわないけれど、メッセージの比較ほどは大事ではない。「デジタルバカ」になってしまうと、フォント対フォントになってしまう傾向があるのです。

 YouTubeの6秒のバンパー広告はいいアイデアだと思いますが、バンパー広告が今後生き残っていくかは、いくつかの分岐点があると思っています。テレビの15秒広告のようにいろいろな表現作法や、視聴者と制作などの約束がちゃんと成立するかが大事だと思います。テレビの広告は1時間という枠があるから15秒が単位だという揺るぎない制約があって、15秒しかないから、こういうプロットで表現しましょう、こういう話法で表現しましょうという作法ができている。これがあるので、視聴者はCMか番組かがすぐに分かるわけです。

 こうした作法がバンパーの6秒にも成立したら、バンパー広告はコミュニケーション・フォーマットとして昇華されて生き残ると思うのです。逆に単に6秒ということだけが先行して広告主が広告を作ったら、どんどん駄目になると思います。最初に誰かが6秒でやって、すごくいい、インパクトがあると。次の人がやって、まあまあインパクトがあると。みんなやり出してコモディティ化してしまう。そうならないためには誰かが手を挙げて、テレビの15秒広告のようにちゃんとやろうよということが重要だと思います。

 デジタルの世界は圧倒的にどんどん駄目になる方が多く、アイデアの使い捨てになっている。A/Bテストもフォントの話もそう。A/Bテストの考え方はすごく優れているのに、手数や手法の話になってしまう。なぜそれが必要なのか、なぜそれがいいのかではなくて、それ自体がルーティン化してしまい、明朝かゴシックかになってしまう。デジタルのように機械的にぐりぐり回すというもののありように危険性が潜んでいて、それがデジタルマーケティングという考え方の危険性だと思います。

デジタル広告のガイドライン化が必要になっている

 

中見 私は先日、あるデジタル広告に関するセミナーに出席したのですが、そのセミナーの講師も富永さんと同じような問題意識を持っていました。デジタル広告は普及してきているが、この20年でかなり場が荒れたと。一番顕著な例では去年、P&Gの広告がデジタル広告媒体のどこに掲載されているかが全く分からない事態に陥ったこと。P&Gを担当している広告代理店ですら、広告掲載された場所をコントロールしきれていなかったそうです。その結果、P&Gの広告クリエイティブがブランドイメージにそぐわないデジタル広告スペースに掲載され、それを見た消費者がSNS上で騒ぎ、P&Gブランドの大きな毀損につながり、それまでの多額の広告費が無駄になったそうです。

 現在、ネット広告の世界では、従来の4マスメディア(テレビCM、新聞等)のような広告審査、広告掲載に関する自主ガイドライン、広告評価指標等がない状態です。企業のマーケティング活動でも、ネット広告の重要性が高まる中、これらガイドラインや広告評価指標がない現状は困ったものです。企業にとって大切な商品やサービスのブランド毀損リスクや、マーケティング費用の投資対効果が測れない状況は、一刻も早く改善すべきだと思います。

 P&Gのケースを見ていても、どこのサイトに広告掲載すれば、ブランドマーケティング上、大丈夫か、現状では判断するのが非常に難しい状況です。このような現状を踏まえ、CMOとしての富永さんの私見をぜひ伺いたく。

富永 インターネットのサイトやサービスの格付けは、いずれ出てくると思います。それから事業会社が出したい広告やコミュニケーションのコンテンツの格付けも出てくると思います。まず、サイトやサービスの格付けが行われ、次に、広告やコンテンツの格付けが行われるはずです。デジタル広告を取り巻く環境が整備されて始めてP&Gの抱えている問題は解決の方向に向かうのだと思います。もしそうならないと恐らくデジタル広告の場は死ぬでしょうね。広告主は、無法地帯に広告を出したくないですから。