ペルソナを超える「ショッピング・ミッション」の考え方

中見 小売業のマーケターは、商品部のバイヤーと手を組みながら、まずは社内で小さなサクセスストーリーを一緒に作っていく必要がある。つまり、インターナル(社内)・マーケティングが重要ということですね。

富永 おっしゃる通りです。それをやると、どこで何をフィーチャーするかがしっかり決まるので、はみ出し陳列とかが悪だということになるわけです。はみ出し陳列があると、PI値の管理がずさんになるので、品切れが多発するような店舗になり、売上げが下がるわけです。フィーチャープランがきちんと作れるようになると、売上げが上がり、品切れが減るのです。お店のコンディションが上がって、売上げが上がってきて、三方一両得でうまく回るようになります。

中見 その地ならしが終わらないと、なかなか社内で聞いてくれないところが小売業の特性なのでしょうか。その辺がリテールの難しさというか、面白さというか、そういうことでしょうか。

富永 リテールのマーケティングには面白さがあります。リテールのブランディングでペルソナを決められないといいましたが、ペルソナだけではなくて、この人をターゲット・オーディエンス(想定対象者)と決めるのは難しい。その人をターゲットにしてしまったら、それ以外の人がアウト・オブ・ターゲットになってしまうので、この自己矛盾とどう向き合うかが大事なのですが、これはなかなかうまく説明できないところがあります。

 そうした場合には、「ショッピング・ミッション」という考え方を持ってやるといいと思います。ショッピング・ミッションは何かというと、なぜSMに来るかという理由を包括的にあぶり出した来店理由集のようなものです。これをFGI(Focus Group Interview)と定量調査で一度調べたことがあるのですが、これは全部で17種類ありました。17種類のうち、一番大きい来店理由は「夕食準備」で34~35%ありました。2番目は、チェーンによって違っていて、西友の場合は「クイック&イージー」が強かった。これは惣菜1品と飲み物1品を買ってすぐに食べるというような来店動機ですが、この2番目は企業によってさまざま。この違いがチェーンの差かなと思ったりしました。

 この場合、人は17種類のショッピング・ミッションを全部持っています。その何にフィーチャーするかを決めて、それをフィーチャー・テーマにすることで、その店の商圏における販売機会ロスをなくせると思うのです。

 あるショッピング・ミッションにフィーチャーして、商品選びや棚割り、値付けをしていく。例えば、「クイック&イージー」だったら、それに合った品揃えと店づくりをすべく、惣菜売場と飲料売場、セルフレジを隣接させて専用の導線を作り、さらに飲食コーナーを作る。

 まずは、このショッピング・ミッションの認知形成とこのミッションに基づく態度・行動変容を図り、それができたら、次に別のショッピング・ミッションの認知獲得へと移行していくのがよいでしょう。

 ブランドを作るときにはターゲティングの議論と向き合わねばなりませんが、こうした技術があれば、ペルソナの議論を回避できるわけです。マーケティングには必ずターゲットが必要という常識に反する話ですが、このショッピング・ミッションの考え方は納得性が高い。こうしたことを考えて、自分の中での方法論として実行に移していくのが、リテール・マーケティングの面白さです。

ビッグデータの活用で成果は上げられる

富永 さらに一歩、ショッピング・ミッションの精度を高めるため、IBMと組んでレシートの全数分析を行ったこともあります。1年間分のレシートデータをコンピューターに入れて、何と何が購買されがちで、何と何が絶対に買われないという分析をしていき、レシートの購買パターンを定量的に分類しました。すると、3億枚のレシートが6000パターンに集約されました。

 しかし、まだ多いので商品と商品の組み合わせを定義して、「ダイナミック・カテゴリー」と名付けて、ダイナミック・カテゴリー間の結び付きで再分析をしたら、最終的に20種類に集約できました。集約された20種類を読み込んでいって、これはこういう意図だと理由付けをしたところ、一般的なリサーチでは35%しかいなかったショッピング・ミッションの「夕食準備」が全体の7割以上あることが分かりました。

 ただ、全体の7割というとあまりに多過ぎるので、再度、ダイナミック・カテゴリー間の結び付きを再分類しました。その結果、「夕食準備」というショッピング・ミッションの中で、最も説明変数が高かった概念は、行動や意図ではなく「おでんやカレー」などのメニューそのものでした。

 SMに昔からいるバイヤーは、「ポジショニングとか何だかんだ言うけれど、夕食で人気なのはカレーとかおでんなんだよ」と言うわけです。そうか、あなたが正しかったかと。最先端の定量分析を実施したら、古いバイヤーとマーケターが分かり合えたのです。

 このダイナミック・カテゴリー間の結び付きによる20種類のショッピング・ミッションをベースに店舗を分析します。あるロケーションの店舗はクイック&イージー的なものが強いといったことが分かります。そうすると、その店舗を改装する際には、クイック&イージー用の店舗導線を惣菜売場や飲料売場の近くに作り、セルフレジも置いて、飲食コーナーを作ってといった具合に店作りをすると、その店の売上げがボーンと上がったりするわけです。

 一方、20種類のショッピング・ミッションとは別に、商圏分析をベースに店舗のカテゴリー分けを行います。駅からの距離や人口、競合環境など、店舗を説明するさまざまな因子で分類します。

 そのカテゴリーごとにショッピング・ミッションがどのように分布しているかを見ると、このカテゴリーはこんなショッピング・ミッションの分布なのかと、結構きれいに分かれるのです。そうすると、このカテゴリーに含まれている店舗なのに、他の店舗で売れているおでんがなぜ売れていないということが出てきます。これはおかしいとその店舗を見に行くと、商品部の言った通りになっていない。そこで、これを変えたら売れると現場に言ったら、本当に売れた。そうしたことがよく発生しました。

 本当の意味でのビッグデータというか、純粋数理的に3億ログのようなスケールのデータを回していった結果、すごくリテールに効くという結果を得られました。これはSMだからできることです。まずPOSデータというログがあって、それが蓄積されていって、実店舗もあるといういろいろな条件があって初めてできることなので、リテール・マーケティングはやはり面白い。

 

中見 ダイレクトにそれが分かるところが面白いですね。それがまた施策に展開できる。メーカーは小売業と違い、商品開発等のタイムスパンが違うので、日々、お客さまの反応が取れる小売業とはダイレクト感が全然違う。

 これがリテールのマーケティングの醍醐味なのかもしれないですね。