〈第2章〉リテールが学ぶべきことは何か?

バイヤーの思いでできた棚は「歌舞伎町の街並み」

中見 小売りのマーケティングはメーカーのマーケティングでは対応しきれない、まさにオリジナリティが必要ということですが、ではどういう能力がリテールのマーケターには必要なのでしょうか。小売企業ではここで挙げた全てを自身のキャリアの中で経験することはなかなか難しいと思うのですが。

 

富永 メーカーのマーケティング部長は、相撲の番付でいうと横綱か大関くらい。リテールでは商品部長が横綱で、店舗運営部長が大関、店舗開発部長が関脇で、小結がいなくて、マーケティング部長や宣伝部長は前頭筆頭くらい。そのマーケティング部長の役割を簡単にいうと、商品部が決めたことを紙やWEBに落として、それをお客さまに伝えることなんですが、まずはそれを脱する必要があります。

 そのためには今、与えられている職責をまずはきちんとやることが大切です。どういうことかというと、SMにはいろいろな商品があり、棚割りがきちんとしているか、特売品の価格が適正に決まっているかなどをマーケティンク的にレビューしていくことが大事なんですが、意外にちゃんとしていない。

 ウォルマートではUSのジャムが棚に何百SKUありますが、これでは多過ぎると、カテゴリーのマネージャーがストッピングパワーとセリング・パワーを最大化するSKUの数は一体いくつだろうかと調べたところ、それぞれ18と6ほどだった。ストッピングパワーで考えたら200ほどあるうち180くらいが無駄で、セリング・パワーでは大半が無駄だったということです。

 バイヤーがお客さまによかれと思ったり、自分がこれを売りたいと思ったりしたもので棚を作っていくと、フォーカスが利かず、お客さまが何を選んでいいか分からない棚になってしまう。情報過多で「ノイジーな歌舞伎町の街並みみたいな棚」になってしまうわけです。人間の認知能力には限界があり、せいぜい4つか5つくらいしか同時に知覚できないのですが、これを理解していないバイヤーもいる。

 バイヤーは自分中心の物の見方ではなく、顧客中心の物の見方をする必要があるわけですが、これはまさにマーケティングの領域なんです。そこで、マーケティングの知識や消費者行動研究の知識を、バイヤーと共有して、まずは小さくやって売上げを上げてみる。このスモール・サクセスを作ることが非常に重要になるわけです。

まずは「マーケティング・サイエンス」の視点を入れる

富永 SKUの数という話をしましたが、例えば、価格レンジが150~250円のとき、その間の値決めをどうするかによってお客さまの購買行動は誘導できると思うのです。例えば、オープニングプライスポイント(OPP、カテゴリーで最も低い価格帯)・グッド・ベター・ベストというピッチで値決めする中で、ベストとベターのピッチを狭くしたら、ベストの250円がリファレンスポイント(基準点)となって、ベターの商品が売れます。逆に、ベターとグッドのピッチをグッドとOPPのピッチより狭めたらベターがリファレンスポイントになり、グッドが売れます。

 つまり、お客さまは価格の絶対値によって決めるのではなくて、何かを参照点にして、それと比較して意思決定する性質があるわけ。こうした性質をきちんとバイヤーに教えてあげて、こうやったらお客さまの購買行動を誘導できるということを証明できたら、「ああ、なるほど」となる。こんなにプライスライン・ストラクチャー(構造)は大事なんだということが共有できるわけです。

 こうしたことを積み重ねていって、少しずつ社内の信用を作っていく。地道な取り組みを通じて、「あの人の言うことを聞いていたら、いいことがあるよね」という関係を作るのです。これがファンダメンタル(基本的なこと)。これができないと、いつまでもチラシでの価格訴求から脱却できません。

フィーチャープランが有効になるサイクルを作る

富永 これができたら、次にフィーチャー(特徴を出す)プランに関わることをするといいと思います。これは何かというと、お店をどう作るか、お店で何をフィーチャーするかを決めて、どう展開していくかという王道のプランです。

 通常は「商品部が3カ月後の店内で何をフィーチャーするかを決め」、それをマーケティング部に伝え、「マーケティング部はその1カ月後くらいにそれをどのようにコミュニケーションするかを決め」、そして「店舗はまたその1カ月後くらいにそれをどうやって具体的にお店で展開するかを決める」というような流れになります。

 そのプロセスをちゃんと可視化して構造化することが大切です。何となく各部門で決めて受け渡しするのではなくて、関係する部門が一堂に集まって、こういう意図で何をフィーチャーするか、価格はいくらが適正で、棚はこういうふうにすべきだという議論をオープンにするわけです。

 そうすると、お店づくりが非常に科学的になってきます。なぜなら、いつ、どこのお店で、そのどの売場で何をフィーチャーするかが3部門の共有の知識になり、レビューが利くからです。さらに、エンドキャップに出したらどれくらい売上げが跳ねるかというようなことが科学的に見えてきます。

 ここまできたら次に、何をどうしたらどんなことが起こるかをサイエンスします。これがマーチャンダイザーにとってサプライヤーとネゴするときのパワーとなります。

 このように「商品をフィーチャーするお店を最大限に有効活用していくサイクル」が生まれると、相当なパワーがマーケティングヘッドに集まり、前頭筆頭だったのが関脇くらいになれているわけです。そうなって初めて、ブラントはこうやって作るのだとか、ポジショニングはこういうことだと言っても、皆が耳を傾けてくれるようになるわけです。そうしたことをしないと、なかなかリテールのマーケティングはうまく回らないですね。