<富永朋信さんのプロフィール>ドミノ・ピザ ジャパン 執行役員 CMO。1992年大学卒業後、コダック社に入社。以来、日本コカ・コーラ、西友などマーケティング関連職務を7社で経験。うち、ソラーレホテルズアンドリゾーツ、西友、現職でCMOを拝命。座右の銘はいろいろあるが、今のお気に入りは「鏡を信じるな」。マーカスエバンス社CMOサミット議長(17年~)、日本マーケティング協会 CMOソサエティメンバー。(撮影)室川イサオ

今回から新連載がスタート。中見真也さん(学習院大学 経済経営研究所 客員所員)が「この人に会いたい」と思った方にご登場いただき、お二人で対談をしていただきます。第1回はドミノ・ピザ ジャパン執行役員チーフマーケティングオフィサーの富永朋信さん。大手のメーカーや小売企業などでマーケティングに携わってきた富永さんに疑問をぶつけます。テーマは、業界では「いらない」と考えている人もいる「マーケティングの必要性について」。富永さん「小売業にマーケティング、必要ですか?」

〈第1章〉小売りのマーケティング「どう行う?」

マーケティングはメーカーのブランディングとともに発展した

中見 小売業ではマーケティングという概念をなかなか持ち得ない会社が多い。特にスーパーマーケット(SM)では、「マーケティングという概念はメーカーのことだ」という認識があります。小売業にマーケティングは本当に必要なのかということで、マーケティングの部門を設けている会社はあまりない。富永さんはメーカー、小売業、サービス業など、業界によってマーケティングの位置付けはどのように違うとお考えですか。

富永 マーケティングとは何かというと、マーケターの数だけ意見があると思いますが、私は「お客さま、つまり、ユーザーの認知変容、態度変容、行動変容に関わる全てのことの設計と実行」だと思っています。マーケティング部という部門があっても、その部門だけではやっていない分業のケースもあるし、マーケティング部門が自分たちの領域を超えたことをやっているケースも少ないけれどあります。

 メーカーには商品があり、商品が売れる、売れないという非常にビビッドな反応がマーケットから返ってくるので、「どういう商品を出したら売れるのか」が出発点にあります。これを牽引したり、保証したりするものとしてブランドがあるので、ブランドを作っていくことが重要になる。だから、商品があって、それに付随するブランドを作るという発想が、メーカーのマーケティングとして大きくあるわけです。ケビン・ケラーが言った「顧客ベースのブランド・エクイティ・ピラミッド」や、その後、いろいろな広告代理店や学者が発表し、作られてきたモデルも、「基本は商品があり、ブランドをつくる」といったことからできていると思います。

 ケラーなどが作ったブランドに関する作法は大体、「最初にペルソナ(仮想のユーザー像)を作ろう」ということから始まります。世界にたった1人しか、そのブランドのユーザーがいなかったら、それはどんな人なのか、理想のユーザーはどんな人なのかと。それを誰でもが分かる形でプロファイリングして、そのユーザーにはどのような情緒的価値がいいか、どのようなパーソナリティーのブランドがいいのかを議論して、それを商品につなげていく。

小売りのブランド作りをするには店舗経験が不可欠だった

富永 ただ、この作法をリテール(小売り)に入れると、ペルソナを決めようというところで、いきなりつまずきます。というのは、SMは誰でも買物に来られるし、いろいろな用途でさまざまな商品を買うので、無理やりペルソナを論理的に決めると平凡な人になってしまう。だから、論理を外して、センスやドタ勘を入れるわけですが、そうすると、ちょっとイケてる主婦という感じになります。

 問題は、どこのSM企業がやってもそうなることです。SMで作法に則ってブランドをつくると、理想のユーザーという非常に大事なものが、金太郎飴的になってしまう。金太郎飴的な視点で情緒的価値などを作るから陳腐なものになり、それに則ってマーチャンダイジング(MD)をしても、ありふれたSMになってしまう。差別化のためにやっているはずの投資の結果、他でもできるものができるという自己矛盾に陥るわけです。

 これがリテールのブランド作りの難しさなのです。リテールのマーケターは商品、ブランドを作らなければいけないという難しさを担わなくていい代わりに、メーカーの作法と違うやり方で自分たちのブランドを作らなければいけないという別の難しさを負っています。

 サービス業にはまた別の難しさがあります。サービスは目に見えないことが多いので、「そのサービスはどのようなことなのか」という概念的な理解や、「それがお客さまの生活にどう関与するのか」といった関わり方、「それを他でやったらどういうものなのか」というアナロジカルなモデルなどを概念形成しなければいけない。

 私はいろいろな会社でマーケティングをやってきましたが、マーケティングはそれぞれの企業の中で定義されるものだと思っています。ただ、リテールの場合、マーケティング本部(ない企業では宣伝部や販促部)だけでは絶対にできないことは確かです。なぜなら、リテールのブランドづくりをするには店舗経験が必須で、商品部がつくる棚割りや品揃えという店舗経験の一番核になる部分に加え、プライスライン・トラクション(牽引力)の考え方など、いろいろな要因が必要になるからです。つまり、SMのマーケティングは商品部と店舗運営部とマーケティング部が三位一体でやるべきものなのです。