赤ジソを原料としたふりかけ「ゆかり®」は日本人にはおなじみの一品。ご飯との相性は抜群だが、実はタイでの受けはいまひとつなのだ。

 炊きたてのご飯を彩る鮮やかな紫色のふりかけ。赤ジソを原料とする「ゆかり®」は日本を代表するふりかけの一つ。食べたことがないという人を探す方が難しい。三島食品の代名詞的な製品だ。

 しかしながら、タイの三島食品は日本とは異なる「顔」で事業を展開している。タイで人気の製品は「ゆかり®」ではなく、「食べるラー油」や冷凍どら焼き。いずれも日本では作っていない製品だ。

 異なる食文化の国で試行錯誤しながら「進むべき道」を見つけた三島食品の軌跡を追ってみた。

実は米国では既に30年もの歴史がある

 タイに三島食品が駐在員事務所を解説したのは2013年。その前から商社経由で製品を卸してはいたが、タイや周辺諸国の市場開拓を本格化するため2015年に現地法人ミシマフーズタイランドを設立した。

ミシマフーズタイランドのマネージングディレクター、柳川憲氏。

 三島食品の海外進出はこれが最初ではない。米国では既に30年もの歴史があり、日本から輸入したふりかけをはじめ、OEM生産した「ライスパスタ」「パン粉」「ライスクラッカー」などを販売している。

 米国人のグルテンフリーやオーガニック志向に応えた製品を作っているのが、実はタイの企業だ。

「タイへの進出は市場開拓に加えて、委託生産している工場をしっかりと管理し、品揃えをさらに増やす狙いがありました。この10年でアメリカでの日本食の需要はさらに拡大しています。現地法人を構えることで工場をコントロールしやすくなりますからね」(マネージングディレクターの柳川憲氏)。

売上げの9割はアメリカ向けの輸出製品

 ミシマフーズタイランドのラインアップは3つに分類できる。1つは日本から輸入した製品。「ゆかり®」のように、商品名を聞けば誰もが三島食品だとイメージできる製品群だ。2つ目はアメリカ向けの輸出製品。売上規模としては最大で、全売上高の90%を占めている。最後がタイ向けにタイで生産し、タイで販売している製品。「食べるラー油」や丸餅、冷凍のどら焼きやわらび餅などを、米国向け製品を生産している工場とは別の企業に発注している。

「ゆかり®」は苦手でも、少し甘めの味付けのかつお風味のふりかけ「のり弁の秘密」はタイ人にも好評だ。

 ちなみに、日本の三島食品のラインアップは「ゆかり®」を筆頭に、ふりかけや混ぜご飯の素、お茶漬けや青のり、調味料。ご飯に合わせるアイテムが中心だ。「食べるラー油」も冷凍食品は作っていないし、過去に作ったこともない。

 なぜ日本にはない製品をタイで委託生産し販売しているのだろう。そこから見えてくるのは乗り越えがたい食文化の壁だ。

「試食会をすると『ゆかり®』のタイ人受けはいまひとつ。タイ人は塩味が苦手なので、『ゆかり®』を食べると『塩からい』というんですね。甘めに味付けしたかつおのふりかけなら好まれますが、日本から輸出すると価格が2倍以上になるため、マーケットが日本人やタイ人富裕層に限られてしまう。かといって現地で生産するのは現状難しいんです」

タイでは「食べるラー油」が巻き寿司に!?

 ふりかけは簡単なように見えて、生産工程は繊細で複雑だ。20〜30種類もの原料を全て異なる製法で加工し、最後で一気に混ぜ合わせなければならないからだ。

「委託会社に弊社の工場を視察してもらったら、『これはお手上げです』と言われました(笑)。原料の手配はもちろん、設備や生産技術についても徹底した技術指導が必要ですが、まだタイではそれができる工場が見つかっていません」

 タイで作れない以上、日本から輸出するしかないが、それでは価格が高くなり過ぎて、ユーザーが限定されてしまう。タイのマーケットに食い込むにはタイ人の志向を反映した製品をタイで現在可能な技術で生産するしかない。

タイで委託生産して価格を抑え、サクサクとした食感の実現でタイでのヒットにつながった。

 こうした生まれたのが「食べるラー油」だ。空前の寿司ブームが続くタイではラー油を使ったスパイシーな味付けを施した巻物「スパイシーロール」の人気が高い。加えて、タイにはもともとラー油に似た調味料がある。柳川氏が着目したのは、この「食べるラー油」を違和感なく受け入れられる土壌だ。

「委託工場で生産してみると品質も良く、日本の半分以下の価格で生産できた。まずは業務用からスタートし、現在は市販品も生産しています。利用者は日本人とタイ人が半々。狙い通り、タイ人にも好評です。日本食レストランでの扱いも多く、某有名ラーメンチェーンではメニューの中に取り入れてもらっています。営業に行くと『今さらラー油?』と言われますが、他の製品は日本からの輸入品なので価格が2倍以上しますから、現地生産している弊社の価格は大きな武器です」