選択と集中で進める「ブランド価値経営」

 貴子さんが社長に就任してから、商品の選択と集中を行い、アイテム数は2014年4月1363から2017年3月には708と、ほぼ半分に減らした。

「今はもう新製品を出したら、その同数ぐらいやめるという、増えない仕組みを作って習慣化しています。商品が増えると仕事も増えますし、在庫も増えますし、倉庫スペースも必要になりますし、ものがなくても登録が残っているだけで仕事が増えているのもあるので、登録そのものをなくすようにしています」

 今の時代、スモールマスの集積を、アイテム数を減らす中でどう行っていくのであろう。

「具材で共有化できるものは共有していきますし、ブランドの軸をどう作っていくか。これを極めていこうと思っているんです。消臭のものは『消臭力』、香りは『シャルダン』でやっていく。最初決めても、お客さまの頭の中で進化していくものなので、見直しながら今どう捉えられているんだろうかということを模索しながらやっていかなくてはと思っています。価値観が多様化して、たくさんのものをつくっていかなくてはならないけれど、大きなブランドの傘の中にあって、常にひよこのマークがついているから安心だと思っていただきたい」

「ブランド価値経営というのは、全ての経営の主軸にブランドをおくということです。ブランドを強くしていく」と方向性は明確だ。

グローバル化の第一弾はタイ

 また、今、力を入れているものに海外事業がある。

タイで放送された「カワイイプラス」のテレビCM

「海外事業は、今まで輸出と現地法人での現地生産も含めて、戦略エリアもばらけていたりとか、どこかに特化して投資するということもなかったですし、言ってみればメリハリのない海外戦略だったんです。そこを特定の戦略エリア、特定の事業に、例えば、タイを中心としたアセアンはエアケアで攻めようとか、ヨーロッパは今後、手袋をやっていこうとか、戦略エリアでそれぞれの戦略にマッチする事業に特化していこうとしています。

 重点的なところには資源も投下する、人もつける、現地法人の計画も具体化する。タイは、初めてマーケティング投資であるテレビ宣伝を入れたりとか、これも実は今までやってなかったんですが、こういうことを一つずつ進めて、タイが成功したらそれをそのまま水平展開でアセアンの他の国でやっていくというふうに丁寧にやっていこうと思っています」

日本人数人の子会社に若手をバンと送り込んだ

 そのためには、海外で働く人材を確保、育成する必要がある。

「国境を越えてどこでも通用するグローバル人材の育成を一つの課題に掲げています。一つとても有効だなと思っているのは、これは私が発案した研修で、日本人もまだほんとに数人しかいないタイの子会社に若手をバンと送り込みました。海外子会社っていろいろなことを一人の人間がやらなくてはならないわけです。特に初めてのタイでのテレビコマーシャルの制作だとか、今までにないような販価対策をやって現地発の日本にはない「カワイイプラス」という商品を去年の秋に出して、CMをいれながら販価を上げていっているんですね。 

 若手の女子2人を送り込んで、彼女たちは売場づくりにも行くし、商談にも同席するし、工場での研修もあるし、CM制作の現場にも行っていろいろなことを手伝うわけですね。半年間送り込んだら、ものすごい成長して帰ってきて、若いうちに自分の中のいろいろな可能性に気付かせて、その後のキャリアパスを具体的に描かせてあげることがすごく大事だなと思っています。これは今後も続けていこうと思っています」

 彼女たちの成長が目に見えるようだ。視野が広がり、会社にとっても個人にとってもよい経験になったに違いない。

場数を踏ませて若手人材を育てる

「あとは場数を踏ませるというのが非常に大事だと思っているので、それまでは社長が取引先を訪問するときや業界の会合に出るときは、支店長や担当役員がついていくのが当然になっていたんだけれど、若い人に社長をアテンドさせて、緊張しながらも取引先の主要な人にちゃんと紹介するとか、あいさつの順番を考えるとか、気の利いた動き方ができるようにとか、若い子にやらせればいいじゃないかと。

成功事例発表会の様子

 それから工場ではさまざまな現場改革をやっているわけです。毎日手を動かして機械を調整したりとか、ちょっと改造したりしているのって表に出てこないですから、私は工場に行ったときは、必ずそういうことをプレゼンしてほしいと言っています。プレゼンする機会もなく終わっちゃっている現場ってあると思うんですけどPPTで資料を使って、分かりやすくプレゼンしてくださいとお願いしています。あとは半期に一回は、いろんな部門の成功事例の中でベスト3を決めて、幹部が集まる全体会議の最初のところでプレゼンしてもらう。こんなこともやっています」

取締役の3人、従業員全体の44%が女性

 もちろん、女性も活躍している。

「取締役では私も入れて女性が3人。従業員全体の中では44%が女性です。一番の課題は中間管理職で、ここがまだ12%ですので、半分を女性にしたいと思っているんです。世の中の構成と同じようにしないと、暮らしに密着する商品ですので、意思決定層に女性が必要と思っています。

 商品の開発も、事業部とR&Dとでチームをつくって開発を進めているわけですが、チームも今までは男性ばかりでしたが、そこをなんとか半々で男女混合チームにしてほしいと、そういうふうに口で言い続けるとR&Dの責任者もチームに女性を入れてうまく組み合わせてやっていくというふうになってきました」

 もともと、貴子社長は、大学を卒業して日産自動車に入り、その後は外資系企業を経験してきている。日産自動車のときは、80年代から女性活躍推進が行われていたので、「臆せずいろいろなことができるようになった」。また若いうちから海外出張にどんどん行かせてもらえたし、顧客に対して英語でプレゼンしたりするのが当たり前だった。

 日産を辞めた後に入社した外資系の化粧品会社では、マーケティング部は全員女性だったばかりか、その他の企業でも「ほとんど女性ばかりの会社にいて、化粧品にしてもファッションにしても、それが普通だった」と言う。ある意味、貴重な経験をさせてもらい育てられてきた。それを、これからのエステーを担う若手にも経験してもらいたいと実践しているようだ。

写真は新体制社員総決起大会

日用品メーカーに留まっているつもりもない

「長期的なビジョンからいえば、日用品メーカーに留まっているつもりもないんですね。

 私たちには『空気ビジネス』という軸があって、BtoCで、お客さまにすごく覚えていていただいて愛用していただいている強いブランドをいくつも持っています。このブランド力を生かしながらもっと業務用とか広い空間で空気をコントロールしてくれるエステ―という企業ブランドのイメージを広げていきたい。

 事業所もオフィスも工場も、公共空間や商業施設とか、介護用施設やクリニックとか、ともかく空気のことはエステ―に任せておけば大丈夫。臭いの問題も解決できるし、湿度とか温度とかも含め、『空気のことはエステーに聞こう』というふうになりたいですね。そのためにまずは、日本、そしてアセアン、次にアジア全体にと、グローバルな企業になっていきたいなと思っているんです。

 そういう部分では、海外ブランドのエアケアのメーカーと組んだり、アライアンスとかM&Aとか考えていきたい」

まずが通過点として売上げ1000億円を目指す

「今は、500億円程度の売上げで、時価総額もそのぐらいですが、まずは1000億を目指したい。それも最終ではなくて、まずは通過点としてですね。そのぐらいの規模がないと、小売業さんとの力関係でも厳しいですしね。

 社員に対して言っているのは、今まで利益を回復させるということはできたけれども、ここからは規模の拡大ペースに入りますよと。私たちの会社のミッションは社会課題を解決するということを掲げている。そのためには、500億円規模じゃ、大して影響を与えられないでしょ。大きな社会貢献をするためには、もっと規模を大きくしなかったら意味ないよね。みんな一度きりの人生なんだから大きな事業にしていこうよという話をしているんですね。あとは、そこに属している社員たちが、この組織に帰属していることを誇りに思えるような、そういう会社にしたいですね」

 女性らしくしなやかに、そして毅然として目指す方向を指し示す。新たな視点でブランド価値を創造し、大きなビジョンを掲げるリーダーシップは、社員たちのやる気を喚起する。革新企業家は、変化させる勇気を持った人物だ。