「新しい価値を生み出しているか」を問い続ける

 創業者・鈴木誠一氏の三女として生まれ、「子供に会社は継がせない」とずっと言われて育ったという貴子さん。経営者として心掛けているのはどんなことだろうか。

「今、私たちは、新しい価値を生み出しているんだろうかということを常に問い続けています。社長に就任した当時の2013年、価格競争がし烈で、一方でメーカー側も新しい価値を提案して、その価値に見合った価格を設定して単価を上げていくという努力を怠っていたんです。『こんな値段では売れない』と営業は決め付けて、消臭芳香剤は298円ライン以外では売れないと言うわけです。今までと同じものを売っていたら売れないかもしれないけど、今までなかったもの、『欲しいな』とどこかで潜在的に思っていて、そういうものがポンとあったら、高くても買うよねということです」

単価を上げるために商品に情緒的価値を加えた

 では、単価を上げるためにどういう努力をしたのであろう。

「当時、私たちに欠けていたのは商品の情緒的な価値です。それがデザインや香りだったりするわけです。ずっと今まで、『大容量』とか、商品にトイレの絵を付けてどんと売ってきているわけですから、社員は情緒的価値が分からない。『機能はこんなにいいんだ』と、『消臭効果は既存品の2倍以上は入っている』というのを、そうじゃなくてデザインなんだと。こういう商品だったらこういう考え方もあるし、こういうデザインもあるよねというのを最初は、Newsweekで「世界が尊敬する日本人100人」に選出され、数多くの賞を受賞している著名デザイナーの佐藤オオキさんの力を借りながら、デザイン革命をやり始めました。その頃はまだ社長になっていなかったんですが、会長から『これからデザイン革命をやってくれ』と言われて、まず形で見せた。それによって『こんなにこれを使うときに気持ちが上がるんだよね。これって情緒的価値だよね』ということが次第に伝わっていきました。

 あと、デザインだけじゃなくて香りの商品なんだから、今までの芳香剤に使われていたような香りじゃなくて、自然の森の中にいるような本当のお花から立ち上ってくる香りだったりとか、もっと追求しようよ、とそんなことをやっていったんです。限られたコストの中で、どこまで自然に近い香りを出すことができるのか。最初はヒットもなかなかでなかったんですが、ようやく『シャルダン ステキプラス』という、今までよりも100円高い398円ラインが売れるようになっていきました」

まずは顧客に寄り添うことから始める

「消臭力も今までの消臭力だけではなくて、『プレミアムアロマ』という商品を作りました。価格も上げて、香りも今までよりも高い香料を使って、パッケージのデザインも今までと変えて、これも非常によく売れた。

 さらには去年、トイレ用のクリーナーで『洗浄力 モコ泡わトイレクリーナー』というのを作ったんです。市場の代表的な商品は100円台ぐらいですが、これも今までより高い530円ぐらいで出しました。もっちり泡で、泡がモコモコ増殖していって、見ているだけで気持ち良くて質感でプレミアム感を出そうとしました。これは、女性だけじゃなくて男性からもイイネというご支持を頂いています。そうやって、みんなが一つずつ成功事例を作って自信をつけてきたんです」

「他社品で売れているのがあったら、その商品がお客さまにとってどういう新しい価値を生んでいるのか、そこは勉強しようよと言っているんです。皆だいぶ変わってきました。まず、顧客に寄り添う。そこから始める。分からないことは調査して、お客さまに聞いてみよう。形を作って見てもらおうと、そういうふうになっていたんですね」

 改めて貴子社長になってからの商品を拝見してみると、確かに寄り添ってもらっているのが感じられる。本当はこうあってほしかった。こういう香りを求めていた。そういうものが登場してきているのだ。パッケージも香りも今までとは全く違い、どれもこれも買ってみたくなる。さぞ、鈴木喬会長もお喜びだろう。

「会長からストレートにおっしゃっていただけるので、私としてもモチベーションが上がりますね(笑)」。間違いのない人選をしたようだ。

3つの新規事業で日本の社会課題を解決する

 新規事業も次々に起こしている。その一端を伺った。

「クリアフォレストという北海道のトドマツ(もみのき)の枝葉を集めてきて、そこからエッセンシャルオイルを抽出する事業をやっているんですが、国の森林総合研究所という研究機関と、私どものグループ内の別法人『日本かおり研究所』で、10年以上研究してきました。

 森に行くと、空気がきれいで、気持ちがリフレッシュできるのは何なんだろう、これは特定の樹木の中にそういう力を持つ成分があるに違いないと、さまざまな樹木からエッセンシャルオイルをとって、それぞれの成分を分析していったところ、トドマツに代表される一部の針葉樹に空気をきれいにする、二酸化窒素を軽減する作用があり、さらに人のストレスにも作用したりとか、抗酸化作用もあるし、当然ながら消臭効果もあるし、というすごい高機能なものであるということが分かりましたので、これを事業化しようとしています。

 ただ、いきなり日用品の量販店の商品の中に並んでいても、そんなにすごいパワーのある商品だと分からないので、それよりももっと広い、例えば建材に入れてみるとか、フィルターにならないかとか、さまざまなところとコラボレーションして、オープンイノベーションで水面下で開発を進めています。これをいつの日が大きく開花させたい」

エッセンシャルオイルで人を刺激する

 2つ目は

 

「アロマサプリという新規事業です。人の記憶に結び付いていると言われる嗅覚に着目し、嗅覚を刺激する一部のエッセンシャルオイルを使って、人を刺激する。嗅覚を刺激することによって物忘れなどに対して作用することができないだろうか。あるいは、若い方も含めてストレスがあったり、リフレッシュできないとか、気持ちが上がらないということで心を病んでしまうケースがあるので、ここにもエッセンシャルオイルを使えないだろうか。

 エッセンシャルオイルは非常に高い効果を持っていますので、それぞれの悩みに合わせたオイルを、いわゆるポットに垂らすとかではない形で使っていただく。サプリメントのように日常的に香りを使っていただくということからアロマサプリという名前にしました。既に商品化し、今のところ、ネット限定で少しずつ広めているんです。これもこれからの日本の社会課題を解決していくための一つの策として長く取り組んでいきたい」

「エールズ」で介護する・される方を応援する

 もう一つ、こちらも社会の役に立つ事業である。

「高齢化社会の進行に伴って、今まで想像もつかなかったような家庭の居室の中にも新たな匂いの問題が発生してきました。さらには、ご家庭だけではなく、集団生活されている施設でも匂いの問題は深刻になっていますので、そこにも取り組みたいと思っていまして、『エールズ』という介護用品の新しいブランドを始めました。

 まずは、エアケア事業のところで何かできないか。他にも、例えばサーモケアで温めることによって免疫力を高めたり、硬くなってしまった関節の動きがスムーズになったりしないだろうか、といったことも含めて、『介護する』『される方』を応援するような用品をご提案していきます。これも、少しずつまずはBtoCの、ご家庭向けのエールズブランドで出しています。これからは、業務用の空間であるとか、施設の方と直接コラボしたりとか、そういうことを含めて新しい事業として進めていこうと思っています。」

原点は「社会に対する奉仕で社会から信用される」

「よく考えると、この会社の経営理念というのは、もともと創業者が、終戦後、疎開先に茶箱に母の着物などを入れて送っていたものを、戦争が終わり着物を着ようと思ったら虫に食われていたという、物のない時代に、当時、衣類害虫もたくさんいたし、そういう女性たちの悩みを解決するために自分たちで防虫剤をつくろうということから始めました。

 あるいは、まだ井戸水で洗い物をしていた時代、手が荒れるのを防ぐために炊事用の手袋をつくろうとか、日本の湿気の多い空間では押し入れの中のお布団が黴臭くなったりするので除湿剤をつくろうとか、一つ一つそうやって社会課題に対して、世にないものを創り出して、新しい市場を創造してきたというのがこの会社の成り立ちだし、それが経営理念の中にうたわれています。

 それが社会に対する奉仕であり、それによって社会から信用されるトラストだからエステーと名付けたわけですよね。

 ただ、新規事業って、なかなか簡単には進まないんですよ。例えば、介護用品といっても、世の中に介護用品の良い売場ができているわけではないし、コンスタントにバンバン売れていくわけではないし、それで営業がそういった商品をしっかりお店にいれて、何とか棚落ちしないように努力してもらう。そのためには、こういうしっかりとした経営理念がないと、みんなやっていけないと思うんですよね」

「ドカンとスマッシュヒットを狙うのではなく、きちんと皆さまにご理解いただいて納得していただいて、習慣化していっていただくようなことを今後やっていきたいですね」