毎年作られる「売上増加目標」は願望・希望でしかない

 編集部:今回、先生がこの2つの図表を作られた理由は何ですか。WEBでは大きな図表でも載せて、利用してもらうことができます。

 吉田:目的は、人的生産性を上げるための、長期経営計画作りをしていだだくためです。小売業では、上場・非上場にかかわらず、年度の損益計画を作っているでしょう。

 問題にすべきは、そのときの売上高です。

 例えば過去5年、自社の既存店の売上げは下がってきたのに、毎年3%くらいの「売上増加目標」が作られています。これは、商品戦略が伴った目標というより、願望または希望です目標には、本当は商品戦略が伴わねばなりませんが、損益計画は経理部が作ることが多く、商品戦略は不明なままが多いのです。

 その願望の既存店売上げを前年比で3%増にする。荒利益率も上げるか、または同じにする。下げる目標はない。3%増加する願望の売上げと荒利益(売上総総利益)に対して、経費の傾向を入れる。結果は、人員配置数はほぼ前年のままです。これで、前年より営業利益が上がるようなP/L(損益)の計画を作っているのが、ほぼ全店でしょう。

 本来は年率2~3%で下がってきた既存店売上げを3%も上げるには、5~6%の客数を増やす商品戦略が必要ですが、そこは不明のままです。

 以上の結果、1年後の売上げはよくて前年比100%、普通は98%、悪いときは95%以下です。店舗への人員配置数はほぼ同じなので、1人当たりの生産性は良くても前年並み、悪いときは3~5%も下がります

 以上が、経営計画の時点で人時生産性を上げてこなかった原因になっているのです。

人的生産性を上げる長期経営計画作りをしよう!

 編集部:読者の皆さんにはこの図表を使って、中長期の経営計画作りをしてもらいましょう。

 吉田:この図表には示しませんでしたが、小売業の売上高が横ばいを続ける中でも、地域の平均的な競合売場面積の増加が年率で2%はあります。新しいコンビニ、ドラッグストア、スーパーマーケット(SM)、衣料専門店、ショッピングセンターなどが作られているからです。地域売上げが前年比で100%の場合、2%の新たな小売売上げの増加によって、既存店の合計売上げの平均は2%減の98%になります

 それと、2010年からは人口減という要素が加わっています。東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)では、2022年ごろまでは地域人口は減少しません。しかし、それ以外の県では年率でほぼ0.6%の地域人口の減少を見込まねばならない。この人口減は消費額、つまり店舗売上げを0.6%減らしていく要素になるでしょう。

 人口1人当たり所得増は年1%くらいでしょう。65歳までの現役世代では1人当たりでは2%増えても、所得が増えない年金受給者が4025万人(2015年)に増えているからです。同年の年金支給額は54.5兆円で、1人平均で13万5400円でした。所得が1%増えても、増えるのは店舗消費でではなく、医療費や旅行などのサービスなので、店舗売上げを増やす要素ではないのです。

 以上から、平均的な既存店の売上げは、競合売場面積増でマイナス2%、東京圏以外は人口の要素でマイナス0.6%を見込まねばならないでしょう。2017年には10億円の既存店売上げが、2018年9.74億円、2019年9.48億円、2020年9.24億円、2021年9.00億円、2022年8.76億円、2023年8.54億円……というようなイメージです。

 編集部:マイナスの売上げ目標ですか。いよいよそこまで来たのですか。

店舗の売上目標は経理部ではなく、商品本部が作るべきだ

 吉田:新年度の商品戦略と連動する、既存店の売上目標は、加える商品戦略があるなら、3%増であってもいい。来店顧客数を増やして売上げを増やす、新しい商品戦略が必要です。店舗の売上目標は、経理部ではなく、商品本部が作るべきなのです。経理部が担当するのは経費の部分です。

 そのプラスの売上目標とは別に、地域の消費傾向の、実情に合った既存店の売上予想をも作ります。1000㎡以上の大型店(約2万店)の既存店の80%では、年率でマイナス2.6%(前年比98.4%)に近い売上げ予想になるでしょう。少なくとも向こう5年分を、既存店別に作ります。人員配置は店舗別ですから、出店を含む合計では機能しません。

 これを作ると、現場は「人手不足ではなく、人手過剰」であることが分かるでしょう。人的な生産性が低いままだから、人手不足になるのです。小売業界の約800万人の雇用(1店平均8人)は、現在でも20%以上(160万人以上)が過剰と考えてください。

 配置人員数(労働人時では正社員の8時間換算)は店舗別に作ります。

 1年間の1人当たり売上げの上昇では、最低でも5%が必要です。既存店の売上げ予想(目標ではない)が、マイナス2.6%なら、1店舗ごとの配置人数は年に「5+2.6%=7.26%≒8%」は減らさねばなりません。

 2017年が既存店舗で50人なら、

18年46人、

19年42人、

20年39人、

21年36人、

22年33人、

23年30人です。

 つまり、現在が50人の店舗は、5年後の2023年には30人でオペレートしなければならない。これが人員計画です。

 1人当たりの売上生産性の上昇は5%です。平均的な賃金上昇が3%です。このためには、平均的な既存店では、店舗要員を年8%、5年で40%減らさねばならない。以上のことが、経営的に必要になってきたのです。

 こうした人員計画をもとに、前回、示した商品作業の手順の合理化を図っていきます。以下は次回で示します。

イオンも閉店計画を出さざるを得なくなる?

 編集部:総小売需要が増えない中で、今後も新しい出店は年率2%はあるのでしょうか?

 吉田:新規の出店は総売場面積の2%分はあるでしょう。それが続くと思っています。

 ただし、既存店100万店のうち、売場面積の2%に相当する分、平均的な面積の店舗数では年1万~2万店の店舗が、赤字を3年続けてなくなっていくでしょう。

 ゼブン&アイ・ホールディングスのイトーヨーカ堂は20%のGMS型店舗(約40店)の閉店を発表しています。ユニーも同じです。イオンは閉店計画を出していませんが、近々、出さざるを得なくなってくるはずです。需要が減っていない食品分野での1万8000店のSMでは、年間で250~300店くらいの新規出店があります。しかしその裏では、同じ250~300店が静かに店を閉じています。

 以上のように、「店舗が振り替わっていく」のが2018年からになっていくでしょう。今後の人口減時代に適合していくのが小売業です。