イオンも閉店計画を出さざるを得なくなる?

前回は小売業界の働き方改革への対応について吉田繁治先生に説明いただきました。今回はその続編。「生産性分析表への書き込み方」の前に同一作業・同一賃金時代の人員計画について解説をしていただきます。

 編集部:前回、小売業の人的な生産性を、これからは2倍に上げる必要があることを伺いました。しかし、これは従来からのことであり、今に始まったことではありませんよね。

 吉田:その通りです。10年、20年前から、小売業にとって必要なことでした。しかし、労働時間で計る小売業の生産性は1990年代からほとんど上昇してはいません

 これには日本的な特殊事情がありました。それは正社員とパートの時間給格差です。

 新入社員から20代前半までは、店舗や物流の現場で、パートと同じ内容の仕事です。仕事は業務であり、業務は作業ですから、同一の作業内容と言えます。

 大卒の新入社員クラスの正社員の初任給は、全国平均で20万円くらいでしょう(19万7294円:2018年)。2年目からは年間で4カ月くらいのボーナスがつくので、年間16カ月分の320万円(税・社会保険料控除前)くらいになっているでしょう。残業を抜いた年間労働時間は、「8時間×20日×12カ月=1920時間」です。1時間換算の時給は、「320万円÷1920時間=1666円」くらいになります。

 一方で、小売業の勤務期間3年以内のパートの全国平均時給は、県ごとに決められている最低賃金に近い。東京が最も高く、932円です。九州や東北は低く、東京の約2割下の710~750円です。全国の加重平均では823円です(2017年末:厚生労働省)。

 新入社員クラスの正社員では、時間換算給が1666円ですから、823円のパートの賃金は50%です。

 つまり、わが国のパートは、現場で正社員と同じ作業を行っていても、時間賃金は1/2で、放置されてきたのです。

米・欧では「ワーカーの同一作業・同一賃金」の原則が守られてきた

 編集部:米国や欧州では、正社員と、パートの賃金の格差はないのですか? 日本だけの特殊事情でしょうか。

 吉田:米国や欧州でも短期雇用のアルバイト的な職種は、確かに時間給が低い。そうした労働者が、主に中南米やアジアからの出稼ぎや移民として10~15%は存在しています。大農場やサービス業での移民労働の賃金は、米政府が決める最低賃金を大きく下回っていることが多い(違法状態)。就労ビザがない不法労働も多いからです。

 しかし、米・欧では、数カ月から6カ月のトレイニー(研修期間中)を過ぎて正規な雇用になると、時間給は同じにしなければならない。もともと正社員とパートという雇用の身分格差はなく、それがあれば違法です。ただフルタイム労働(1日:8時間)と、労働時間が短いパート労働(1日:4~6時間)はあります。

 なお、パートというのは、時間賃金を低く保つためのわが国の固有用語でしょう。8時間働かないから時間給は低いとしてきたのです。

 小売業の現場の賃金には2種があります。①「タイムワーカー」は働いた時間で賃金が決まり、②「ピースワーカー」は例えば物流センターでの受注商品ピック数で決まる賃金形態。物流のドライバーも運送量で賃金が決まる、タクシードライバーのようなピースワーカーです。

 現場職(ワーカー)を経験した後の、管理的な仕事があるマネジャー(主任以上)は、ほとんどが個人別の年俸契約になります。

 米国と欧州では「ワーカーの同一作業・同一賃金」の原則は、厳重に守られてきたのです。人種、性別、年齢、学歴、職歴を理由とした賃金差別も違法です。

 ただし勤務年数が増えると、時間賃金も普通1年に3~4%は上がっていきます物価上昇も1.5~3%はあるからです。日本では1990年代以降、28年も現場の平均賃金は上がっていませんが、米国と欧州では年3%くらいは上がってきたのです。

 編集部:そういうことでしたか。そういう賃金体系なら、「賃金を上げるには、労働時間(人時)に対する売上げの生産性を上げなければならない」という小売業の経営になっていきますね。

1990年以降、平均的な小売企業の生産性は上がっていない

 吉田:資産バブル経済が崩壊した1990年以降、わが国の平均的な小売業の既存店売上高は長期低落傾向に入りました。食品を除くほぼ全業種で、価格は下がって、既存店売上高は減ってきたのです。

 百貨店は10兆円の売上高が、今は6兆円台です。25年で40%減、年率では2%、既存店売上げが減っています。最も早くチェーンストア経営を導入した日本型GMS(総合品種量販の業態)も、百貨店とほぼ同じ、既存店売上げの減少を示しています。端的に言えば、1990年には60億円の売上げだった平均的なGMSの現在の年商は、60%の36億円に減っています。売上げが半減した店舗も多い。閉店した店舗も多い。

 小売業では、1980年代は実はパートは少なかったのです。現在は、全業種・全業態平均で、総労働時間の75%はパートです。パートを4時間労働とした場合、正社員が10人の店舗では、パートの総人数は80人くらいです。コンビニでも、オーナー家族以外はほとんど全員がパートや短期アルバイトです。

 既存店の売上げが減少した場合、店舗の経費と人件費を減らさねば、経営は維持できません。賃金の身分格差が許容されていたわが国では、正社員と同じ作業でもパートに切り替えれば「時間賃金は約1/2」に下がったのです。

 これが、小売業で、パート労働化が進んだ理由です。賃金の身分格差が2倍もあったため、パートに切り替えて、人件費を削減ができたからです。

 以上から、1990年から現在まで、わが国の平均的な小売企業の生産性は上がっていません。開発輸入の価格を下げる商品戦略で既存店売上高を上げてきた、ニトリやユニクロのようなSPA型(開発輸入・直売型)の専門店以外では、店舗現場の労働時時間に対する生産性(売上げ/総人時)は28年前、1990年のままなのです。