沼部美由紀社長 1969年神戸市生まれ。甲南大学卒業後住友銀行(現三井住友銀行)入行。96年イギリスの食器メーカーの日本進出を機に窓口として独立。98年アパレル分野に進出し、セレクトショップ「ジャスミンスピークス」を立ち上げ、その後独自ブランドの開発も行う。並行して「女性の働き方改革」のテーマで講演活動も。趣味は茶道、キャンプなどアウトドア、旅行。

自身の出産でいち早く取り入れた「働き方改革」

「当社の一番の強みは、女性が効率よく楽しく自分の力を発揮できる職場環境を追求していることです」。開口一番こう切り出したのはクロシェ(本社/神戸市)の沼部美由紀社長。

 最近になって「働き方改革」が叫ばれているが、沼部社長が意識したきっかけは14年前の自らの出産。双子ということもあり、結果的にフルでの仕事との両立は厳しいと判断。いかに効率よく働けるかを考えるようになったと言う。具体的な取り組みに移ったのは2008年。まず子供のいる社員を対象に短時間勤務を導入した。

「一気に進めると職場が混乱するため、一人一人という形で取り組みましたが、従業員のほとんどが女性だったので理解を得ることはできました。時には、スカイプやチャットなど便利なツールを活用。どうしても人手の要る店頭は、各年代のスタッフをバランスよく配置したり、遊軍で動けるスタッフを余らせて、急な子供の病気などにも対応できるようにしました」

 その後、フレックスタイムの導入や残業の禁止などを取り入れた結果、各自の生産性向上に寄与したという。

 最近では関西圏を中心に女性の働き方などで講演依頼が多い沼部社長。これからも個人の能力や才能を最大限に生かせる働き方を引き出したいと言う。

同質化と競合に打ち勝つため自社開発商品にシフト

「ジャスミンスピークス」はワンマイルウエア(普段着)の特性から住宅立地に6店を展開。約100ブランドの商品は、フランスやイギリスを中心にインポート8割で、シーズンで1~2割を入れ替える。
99年に自社オリジナルで開発したカットソーブランド「パドゥリオン」。年間10万枚、10年間で100万枚を売り上げる大ヒット商品となった

 クロシェは1996年に沼部社長が創業したインポート雑貨とテーブルウエアの輸入業「リュートギャラリー」が前身。今はセレクトショップ「ジャスミンスピークス」「トレコード」の運営、バレエシューズ「ファルファーレ」などの商品企画・生産を行っている。

「元々は食器や雑貨、美術品の買い付けの仕事をしていたのですが、イギリスの食器メーカーが日本へ進出することになり、その窓口業務に専念するために独立しました。その2年後にワンマイルウエアを主体にしたインポートのセレクトショップ『ジャスミンスピークス』の展開をスタート。本格的にファッション分野へ進出しました」

 当時はセレクトショップが盛り上がった時期。インポートのワンマイルウエア(普段着)というファッションスタイルも珍しかったので滑り出しは順調だったが、徐々に競合店も出店。競合との差別化の一つとして、自社オリジナル商品の開発を開始した。

 99年にカットソーブランド「パドゥリオン」を導入。50色という豊富な色展開と着心地の良さ、そして本体価格4800円(当時消費税が5%で税込み5040円)という求めやすい設定で、1年間で10万枚(10年間で100万枚)を売るヒットアイテムとなった。これは某大手チェーンのモンスターヒットが出てくるまで続いた。直営店はもちろん全国の専門店からの注文に当日発送で卸していたと言う。

「インポートの店に入れても合わせられる商品にこだわりました。また、アパレル出身でない私は、展示会に行くと品番やSKU(最小在庫管理単位)数が多過ぎると日頃から疑問に思っていました。そこで満遍なく仕入れると思うからどうしても広く薄くつける。これでは店の強化商品や打ち出しがアピールできません」

 パドゥリオンの成功を受けて会社の業績も順調に推移。現在の本社所在地に自社ビルを取得。東京・表参道にもジャスミンスピークスとショールームをオープンした。

リーマンショックによる初の売上げダウンで苦汁を味わう

雑誌『ストーリー』と連動したブランド「トレコード」で昨年から人気の「神戸・山の手スカート」は、直営店の他、ファルファーレ同様にポップアップストアで展開。今年8月からはネット販売を開始予定。

 09年リーマンショックの影響を受けて同社は初めて売上げを落とす結果に。低迷した結果、売上げは4割減という厳しい状況に陥った。

「リーマンショック前が順調過ぎて、それまで挫折というものがなかったといえます。ですから、厳しい状況からの立て直し方も分かりません。それが2年間続きました」

 低迷期を経て、自社オリジナルブランドの開発を強化していく。10年にアーバン×リラックスなおしゃれ普段着で、ジャスミンスピークスの原点となるワンマイルウエアブランド「アンコニュ」をスタート。11年には沼部社長自らの趣味のキャンプをベースにした「ティーピー オブ ザ デイ」を開発。「都会に自然」をテーマにネパール風のキャンプ服から雑貨などを展開。13年には雑誌『ストーリー』(光文社)とコラボレーションした「トレコード」(造語のトレンドドレスコードから命名)をスタート。最新トレンドに神戸らしさをミックスしたテイストで、「神戸・山の手スカート」(税抜き価格8900円~、ロング9900円~)のヒット商品を生むことになる。

ポップアップストアとネットで強い単品力をつくる

「ファルファーレ」はインポート好きな方に満足してもらえる価格と品質にこだわったバレエシューズ。百貨店のポップアップストアや催事契約の展開(全国で140本)でネット売上比率は23%。

 低迷期を乗り越えて、魅力的な自社ブランドの育成を模索していた同社にとってエポックメーキングだったことは、14年にスタートしたバレエシューズ「ファルファーレ」の開発だろう。

「服から靴という新領域にチャレンジしたことも当然ありますが、ターゲットを絞って商品開発をしたのが奏功したといえます。インポートの服を好きなお客さまは靴もインポート物を選ぶ傾向が強く、それはジャスミンスピークスも同様でした。そこでそういったお客さまにもご満足いただける、お求めやすいバレエシューズに行き着いたのです」

 素材から生地まで国産にこだわったファルファーレは税抜き価格が8900円と一般的なインポート靴に比べ3分の1以下。豊富な色展開(20色)と型数、サイズ(7サイズ)を絞って、セールに頼らないポップアップストアの催事展開で収益力を上げていく考えだ。お客さまが欲しいと思ったとき、在庫切れを起こさないことに注意している。

 ファルファーレと神戸・山の手スカートのトレコードは、直営以外はポップアップストアでの展開がメイン。今年は全国で140本を行う計画だ。

「期間限定の催事で枯渇感をPRして、ウェブとの連携で売り込むのが狙いです。一方、ちょっとスパイスの効いたファッションを扱うジャスミンスピークスはその場に行かないと買えない。そういうふうに考えています」

 今後の目標として、沼部社長は「ファルファーレやトレコードなど単品の訴求力を高め、一ブランドで10億円を目指したい。それにはもう一つ核になるブランドを考えたい。ジャスミンスピークスは今の店数で110%推移していければ」と語る。

*「成長専門店の群像」は今回で最終回になります。

 

クロシェ
本社所在地/神戸市中央区元町通5-8-15
東京オフィス/東京都港区南青山5-10-11
代表者/沼部美由紀
売上高/14億円(2018年1月期)※内訳はファルファーレ5億3000万円、トレコード1億6000万円、ジャスミンスピークス4億1000万円、その他3億円。
店舗数/9店(ジャスミンスピークス6店、トレコード2店、ファルファーレ1店)
従業員数/76人(うち女性74人)
創業/1996年(98年よりアパレル事業に進出)

 

 

※本記事は『ファッション販売』2018年6月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

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