第16回は「オムニチャネル時代における宅配問題」です。

 今日、小売企業の共通の悩みは「物流費の高騰」です。この背景には消費者のスマートフォン普及に伴う、Amazon、楽天、Yahoo、ZOZO TOWN等でのネットショッピングの増加が挙げられます。ネットショッピングの増加は宅配大手3社(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵政)、物流業者の輸送能力を想定以上に上回り、ドライバー、車両不足を招いています。その結果、日本の物流網の幹線(東京、名古屋、大阪)は既に逼迫した状態に陥っています。

 宅配大手3社と物流会社は、自衛手段として人件費アップ分、新規車両購入コストをネット通販会社、民間企業、消費者に順次価格転嫁し始めています。長年に渡り、値上げをしなかったヤマト運輸でさえも、大口顧客であるAmazonにも値上げを迫り、無事了承を得ました。

 小売企業は収益上、物流費高騰が大きなマイナス要因となっています。ちなみに、日本のスーパーマーケット(SM)業態の平均的な売上高経常利益率(ROS)は1%ぐらいだと言われており、ROSが2%を超えれば、優良SMだと言われています。よって、利益率の薄い小売業にとって、物流費の高騰はビジネス存続上の致命傷になりかねない重大な経営事項なのです。

 物流部門(SCM)が弱い企業は、この厳しいビジネス環境下では、生き残りが非常に難しいのです。Amazonしかり、Walmartしかり、ヨドバシカメラしかり、これら企業は、て、物流部門が強く、物流部門が全体の収益へ大きなプラスインパクトを与えているのです。攻めの物流です。

もう一つある「サービス品質の確保」という課題

 小売企業の課題は物流費の高騰だけではありません。もう一つの課題は、消費者の自宅までのラストワンマイルにおける「サービス品質の確保」です。

 この問題は小売業のオムニチャネル戦略に大きく関わります。リアル店舗を軸にした小売企業はネット小売企業の攻勢にさらされています。ネット小売企業のネット軸からリアル店舗軸へタッチポイントの拡張、通称、「チャネルシフト問題」と呼ばれるものです。

 第13回の「AIスピーカー」は何のために発売された?の際にも少し触れましたが、小売企業がオムニチャネル戦略を実行する際、最大のポイントは、「消費者との接点(タッチポイント)で、どのような顧客経験価値を構築できるか」に尽きます。

 この顧客経験価値は、「サービス品質」、「エンゲージメント」と言い換えてもいいでしょう。その際、リアル店舗小売業であれば、消費者との接点(場)は「店舗」であり、ネット小売企業であれば「消費者の自宅の玄関先」です。現在、リアル店舗小売業もネット販売(あるいはネットスーパー)を展開していますから、ネット小売企業同様、「消費者の自宅の玄関先」も消費者とのタッチポイント(場)と言えます。

 では、誰が消費者の自宅の玄関先まで荷物を運ぶのか。それは、宅配業者、物流業者のドライバーなのです。彼らは単に荷物を運ぶことだけが仕事ではありません。お客さまの顧客経験価値を創造するために、「サービス品質」を提供する重要な役割を担っています。

 仮に、消費者が某百貨店のネットショッピングで、エルメスのバッグを買ったとしましょう。そのバッグが届くのを心待ちにしていたお客さまは宅配業者のドライバーが乱暴にエルメスの商品を手渡したら、一体どんな気分になるでしょうか?

 恐らく、そのドライバーの行動が買物をした百貨店の企業ブランド価値を一気に下げることにつながるでしょう。ネット販売の普及は利便性だけに注目するだけではなく、「サービス品質」にも目配りしないと、せっかく築き上げた企業としてのブランド価値を失墜することになりかねないのです。