「中国の出店速度は各駅停車から新幹線に乗り換えたくらい速くなる」と話していた村井社長。今はまだ「のぞみではなくひかりかこだまぐらいの速度だ」と言う。
photo/杉田容子

 バロックジャパンリミテッド(以下バロックジャパン)がグローバル戦略をさらに加速させる。中国資本と合弁事業を始めて3年、店舗網は33都市・176店(2016年9月末)と一気に増えた。16年秋にはアメリカにも進出した。さらにアクセルを踏み込もうとする同社の村井博之社長に今後の事業戦略について聞いた。

(聞き手/『ファッション販売』編集長・西岡克)

 ──16年11月1日に東京証券取引所市場第1部に株式を上場したがその目的は。

  •  村井:業務拡大のための資金調達と幅広い人材の獲得のためです。
  •  中国では靴小売り大手のベル・インターナショナルホールディングス(以下ベル)と合弁事業で200店近い店舗を展開し、利益も確実に出ていますので、実は中国事業の拡大資金は賄えています。ではなぜさらに資金を調達するのかというと、中国から先のグルーバル戦略と国内の商品開発力の強化のために投資をするためです。


 ──商品開発力の強化とは。

  •  村井:商品企画チームは日本にありますが、最近中国にも設けました。展開地域の若い人たちのニーズを取り込むため現地の人たちにも参画してもらおうと。
  •  今、ファッション業界はヒット商品が出ません。当たりが出るとみんなそこに流れてしまう。この状況から抜け出し自らがトレンドセッターになれるかどうかが生き残りの決め手になるでしょう。
  •  バロックは元々「自分たちの着たい服がない」という若者を集めて着たい服を自分たちで作ろうという趣旨で創業しました。それが人々の共感を生んでヒット商品になっていく。今後展開するエリアが広がっていく中で北米やヨーロッパでも同様の仕組みにしようと考えているのです。


 ──今東京と中国の企画チームは何人。

  •  村井:東京の商品開発に携わるメンバーは全ブランドで100人を超えます。中国はまだ10人程度です。しかし中国で販売されている商品の30%はすでに中国で企画した商品になっています。

自由な服作りとスピードが強み。上海に大型物流センターを計画

 ──バロックのビジネスモデルとは。

  •  村井:商品企画に店舗やPR出身者も入って自由な服作りをしていることです。今の人たちが欲しがるリアルクローズを作るので強い物作りになります。
  •  そして生産・物流段階では商品をいち早く店頭に届けるために最短・最適コストで物流をコントロールしています。
  •  店ではバロック伝統のカリスマ販売員がいて強力な販売力を発揮します。
  •  日本の小売業で当社の棚卸し回転率はしまむらを抜いてナンバーワンです。強い商品開発と生産・物流のタームの速さ、そして店頭出ししてから商品を売り切るまでの速さがビジネスの大きな特徴です。


 ──トレンド情報の収集の仕組みは。

  •  村井:個々人が自分のセンスを磨いて情報を収集します。特定部署が売れ筋商品情報を集めるわけではありません。


 ──自社でデザインしパターンを引いて工場で作るもの、生産を委託するOEM(生産委託)、デザインも委託するODM(企画・生産委託)の割合は。

  •  村井:素材開発、商品開発から生産まで一貫して自社で完結している商品が約30%。商品企画は当社で、生産は商社を利用するというOEMに近い形が約30%。残りの40%はODMですが、ただ物を買うのではなく、主に「アズール バイ マウジー」(以下アズール)は商社内に専用のチームを編成してもらい、当社の企画メンバーと共同で毎シーズン日米で企画と商品展開の戦略を決めています。この3つの形態が存在しています。


 ──生産国と物流の態勢は。

  •  村井:生産国は中国が85%、その他アジアが5%、デニムなど国内が10%です。
  •  物流は現在中国に20近い集荷センターがあり、検品後に東京に運ばれます。
  •  中国のビジネスは今後さらに拡大するので、ベルとの合弁会社バロックチャイナが上海市郊外に大型の物流センターを造る計画です。すでに検品所など付帯設備の設計段階で、来期(18年1月期)には着工し稼働させます。将来的には上海を中心に1カ所、それから北の北京、南の深圳、さらに成都も入るかもしれませんが、大体4拠点に物流設備を造り、中国全土をカバーしていく計画です。
  •  現在はパートナーであるベルが全土に物流網を整備していて、ベルの靴とアディダスやナイキのスポーツ用品を中心とした物流網に相乗りしています。今後バロックの中国事業が拡大するのを見据えて「マウジー」「スライ」、今後導入予定の「アズール」を含めた専用の物流センターを造っていこうというわけです。

「エンフォルド」が好調に推移。「リムアーク」など新ブランドも

 ──店舗チャネル別の売上げの割合は。

  •  村井:「マウジー」「スライ」「リエンダ」など都市部型のファッションビル・駅ビル系のブランドが35%、「アズール」「ロデオクラウンズ」「アヴァンリリィ」など郊外ショッピングセンター系が50%、「エンフォルド」「ペギーラナ」など百貨店系・その他が15%です。


 ──17年1月期の既存ブランドの状況は。

  •  村井:引き続き好調なのはハイエンドラインである「エンフォルド」です。その他のブランドは全般に16年に入って地方の消費が振るいません。ただバロックは東京発で、まだ地方の店が多くないので傷が浅い。全国チェーンほど地方の不振の痛手が大きかったのでは。


 ──百貨店系が好調だと。

  •  村井:他社が苦戦している中で百貨店系が悪くありません。当社は伊勢丹新宿本店、三越銀座店、阪急うめだ本店、ジェイアール名古屋タカシマヤなど今勝ち組といわれている百貨店にしか店を出さないことが好調の理由かもしれません。


 ──20代女性に向けた都市部型ブランドの「マウジー」と「スライ」は。

  •  村井:東京や大都市部が堅調ですが、地方都市はやはり苦戦気味です。


 ──郊外型で売上げが最大の「アズール」と「ロデオクラウンズ」は。

  •  村井:「アズール」も東京などの大都市近郊圏は引き続き堅調ですが、地方はファッションビルなど館の勢いが売上げに反映しやすくなっています。
  •  「ロデオクラウンズ」はファミリーやキッズ層も取り込んだ「ロデオクラウンズ ワイドボール」に戦略を転換し、売上げが今社内で一番増えています。


 ──消費者が価格に敏感になってきた。

  •  村井:確かに「アズール」などモール系とローエンド・マスマーケットほどその傾向は強いです。「マウジー」「スライ」は価格連動性があまりなく、値上げした商品でも中身が良ければ売れています。


 ──新ブランドの状況は。16年春に社員をディレクターに起用した「リムアーク」がデビューした。

  •  村井:14年に「スター発掘コンテスト」という社内企画を実施しました。自分の夢をプレゼンしてもらい優勝者には賞金200万円を授与し、その人の夢をかなえますよと。審査はユーチューブで一般視聴者の動画再生回数を競う形にしました。優勝したのが「ザ・シェルタートーキョー」のスタッフだった中村真里。彼女は新ブランドをやりたいというので「リムアーク」を立ち上げたのです。
  •  17年春から出店を開始するのですが、先行したポップアップストア(期間限定店)は即完売、通販も含めて好調です。
  •  当社で大成功しているブランドは会社主導ではなく、社員が自主的に作りたい服を考えて、会社が支援して育てたもの。これが全てうまくいっている。こういうものを幾つも育てることが市場の同質化の中で威力を発揮するのではないかなと。


 ──古舘郁をクリエーティブディレクターに起用した「アエヴェス」の出足は。

  •  村井:伊勢丹新宿本店などポップアップストアは非常に好評でした。実は国内よりも海外向けの戦略的なハイエンドブランドと位置付けているので、消費が好調なアジアの新興国や中国、きちんとした服を着て出掛けるシーンのある北米やヨーロッパで拡大を考えています。


 ──今後の重点ブランドは。

  •  村井:来期は「マウジー」に力を入れます。中国の売上げが日本を超えて、北米にもデビューしました。渋谷109(マルキュー)発で地方のファッションビルを中心に展開してきましたが、いかに世界で通用するブランドに育てるかというチャレンジイヤーになります。
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