わが国のインバウンド(訪日外国人)は急速に増えている。日本政府観光局(JNTO)のデータによると、東日本大震災が起きた2011年は対前年比27.8%減の621万人(千の単位以下切り捨て)であったが、以降、2012年835万人(34.4%増)、2013年1036万人(24.0%増)、2014年1341万人(29.4%増)、2015年1973万人(47.1%増)、2016年2403万人(21.8%増)、2017年2869万人(19.3%増)となっている。2018年は3月までの段階で16.5%の伸び率で推移。この傾向では東京五輪が開催される2020年は4000万人に達することが予想されている。

 このようにインバウンドが増える中で、わが国の経済活動にさまざまな変化をもたらしている。ストレートなものには宿泊施設事情がある。この他、観光資源のブラッシュアップ、地域創生等々、その対応策は活発に動いている。

 ここでは筆者の得意分野である「食」と「フードサービス」の動向について連載でリポートする。

ハラール情報を多言語発信することからスタート

 インバウンドが日本で最も楽しみにしていることは「日本食を食べること」。「食」は現地の文化や伝統を、五感を通じて体験できることであり、世界共通のコンテンツということだ。

 インバンドが急増しているということは、さまざまな国籍や生活習慣を持つ人が増えていることでもあり、インバウンドを受け入れるわが国の食の提供者たちは、その多様性の動向を認識しておくべきだろう。

2015年のゴールデンウイークに開催された「ムスリムおもてなしイベント」

 筆者がこの動向に興味を持ったのは、2015年のゴールデンウイークに浅草で開催された「ムスリムおもてなしイベント」を取材したことがきっかけであった。

 ムスリムとはイスラム教徒のことで、イベントの内容は彼らに着物を着てもらい、浅草の町を散策してもらうということだった。

 ムスリムの日常はハラールに基づいている。これは戒律上で「許された」という意味のことで、「許されていない」(ハラームという)ことを取り入れてはいけない。

 食の分野でハラールに関することは、アルコールとアルコール由来のもの、そして豚肉と豚肉由来のものがハラームである。ムスリムの人はこれらを摂取できない。これが彼らにとって日本観光を楽しむ際の障壁となっているという。

 筆者はここに興味を抱き、ハラール認証の意義と効果について取材の回を重ねた。またハラール認証を取得しなくてもムスリムを受け入られることも知った(「ムスリムフレンドリー」という)。これらの取材の過程で、以前ハラールメディアジャパンを社名としていた会社の代表である守護彰浩氏と知己を得た。同社では、ムスリム対応の情報を日本語、英語、マレー語、インドネシア語、アラビア語、中国語で発信するサイトを運営している。Facebookでも頻度高く発信しているので、これらの最新の動向を把握することができる。

 ここで、守護氏の活動内容に触れながら、インバウンドの増加に伴う食の多様化に備える意義について述べていく。ちなみに同社は昨年10月に社名をフードダイバーシティ(株)に変更した。その理由がこのリポートのテーマであり、後に詳しく述べる。

フードダイバーシティ代表取締役の守護彰浩氏

 守護氏は1983年生まれ。大学卒業後、将来起業することを志して楽天(株)に入社した。同社に5年間勤務して独立し、2014年1月に現在の会社を立ち上げた。

 守護氏がムスリムに興味を抱くようになったのは学生時代に始まる。ここではムスリムの友人が日本で食事に困っている様子を見て、不便なく日本で生活できる方法について考えた。大学を卒業してから半年間海外旅行を行ったが、ムスリムの多い東南アジア、中東諸国を訪問した。就職した楽天では同僚にムスリムが多かった。彼らの多くは理系で4~5言語を話せる優秀な人物が多かった。しかしながら、日本では食事や礼拝の場所に困っていた。彼らは日本にとって貴重な人々であり、このような不便があることはフェアなことではない、という思いを募らせた。

 そして、年々ハラールの情報が発信されるようになり、それらを興味深く受け止めていたが、当時これらが日本語であったことから、「これでは世界に届かない」と思うようになった。そこで、それぞれ事業を営んでいる友人と4人でハラールディアジャパンを立ち上げた。

 ここから守護氏の地道な活動が始まった。

「会社を立ち上げてから、日本でのハラール情報を足で探し、それを取材して英語で発信しました」(守護氏)

 こうして、ムスリムのネットワークやコミュニティと出合うようになった。モスク(寺院)や大学も訪問した。イフタールと呼ばれる断食中の夜のパーティでは試食会などを行い、食の志向性を探るなど充実した機会を得ることができた。