頭に布(ヒジャブ)を被ったムスリムの女性。ヒジャブはおしゃれにカラー化している。

 

 午前4時。フルマラソンのランナーがムルデカ広場からスタートした。ここは1957年に英国領から独立宣言をした歴史的な場所。近くには1909年に完成したクアラルンプール最古のモスク「マスジットジャメ」があり、あつい信仰を集める聖地でもある。

 スタート地点には1897年竣工の旧連邦事務局ビルが鎮座する。西洋式の時計台とモスクの形容が調和した美しいフォルムは多くのランナーを魅了する。そのライトアップされた建造物の余韻に浸る間もなくランナーたちは長い旅に出る。

スタート直前の様子。準備運動は主催者が用意したビートの効いたエアロビクスダンス。

 主催者サイドによると大会参加者は3万8000人、うちフルマラソンが1万2000人。最も短い距離を走る「10キロマラソン」の参加者が一番多いとのこと。日本人は290人前後がエントリー、その約半数が(フル)42.195キロを選択した。筆者もその一人である。

 フルの制限時間は7時間15分。

 ニューヨークとかホノルルとかフィニッシュタイムが無制限の大会もあるが、シティマラソンの基本は6時間内に完走、厳しい大会では5時間30分辺りであろうか。クアラルンプール(KL)の7時間超えはとてもゆるい。これは何を意味しているのか。

 当日の予報は最低気温25℃、最高気温35℃。恐らく“夜が明けて30℃を超えたら無理せず歩いてくださいね”といったメッセージにもとれる。

 ただ、日が昇り、30℃を超えたアスファルトの道を何時間も歩く気はしない。さっさとゴールしなければ。自己ベストは昨年12月の台北での4時間46分。この水準は無理だとしても5時間前半で走り切ろう目標を立てた。脱水症状には細心の注意を払って最後まで同じペースを刻んでいく。下手に体力を消耗して途中リタイアになるのだけは避けたい。

民族も宗教も分け隔てない“共存”を象徴する祭典

 マレーシアは多民族国家である。外務省の基礎データによると、マレー系(注)67%、中国系25%、インド系7%、宗教はイスラム教(連邦の宗教)61%、仏教20%、儒教・道教1.0%、ヒンドゥー教6.0%、キリスト教9.0%、その他、となる。

(注)マレー系には中国系およびインド系を除く他民族を含む。

マクドナルドでは中国系のマーケットを意識したのか「おかゆ」を提供している。

 民族と宗教の違いに端を発した衝突も報告されている。民族による所得格差も要因だ。

 しかしながら「多民族国家としてさまざまな民族が混在するマレーシアでは、他人の宗教に関して尊重性があり、(中略)政策によるマレーシアの民族間の融合の形は、長い歴史から育まれた共存のための知恵と言うべきもの」(『マハティール・チルドレンの国 マレーシア』菅原明子著、成甲書房)というように、マレー系と中国系、イスラム教とその他が共存する、安定した国家形成が推進されている。

 翻って、われらがマラソン大会。同じ時刻にスタートし、同じ道を走り、同じゴールを目指す。民族も宗教も分け隔てない。その意味では“共存”を象徴する祭典のようでもある。