セントラルフェスティバル・イーストビル(バンコク) 近年のセントラグループのSCでは「最高傑作」との呼び声も高い。郊外型ライフスタイルセンターとしてのテナント構成は秀逸だ。

 筆者は約20年前から毎年、定期的に東アジア・ASEAN諸国のショッピングセンター(SC)を中心に視察を続け、その成長を目の当たりにしてきた。この間、これら国々の商業ビジネスは国により違いはあるものの、かつてないスピードで成長を遂げ、さらに進化の度合いを深めている。特に、この5年間はマンネリ化した国内の商業施設よりも、はるかに斬新かつ洗練されたデザインの施設が増えていることを実感している。

「複眼的思考」により急成長を遂げた!

 筆者は講演などで、日本と東アジア・ASEAN諸国の流通ビジネスの成長過程の違いを説明する際、「日本の流通ビジネスは“ステップアップ型”、東アジア・ASEAN諸国は“シフトアップ型”で成長してきた」と解説する。日本の流通業は言うまでもなく、米国のチェーンストア理論をお手本にさまざまなトライ&エラーを積み重ねて進化、発展を続け今日がある。

 それに対して、中国をはじめとする東アジア・ASEAN諸国の有力企業は当初は、地理的に近い日本の成功例や失敗例をつぶさに分析していたが、やがて日本だけでなく、SC先進国の米国、さらに旧植民地時代の欧州の宗主国(特にイギリスやフランスなど)の最新動向にも目を向けるようになった。その結果、言わば“複眼的思考”で短期間のうちに大量の資金と人材を投入し、実に素早くシフトアップしながら成長を遂げてきたのだ。

 こうした手法は中国各地に点在する“廃墟モール”のような失敗例も数多く生む一方、国籍や文化の異なる多彩なバックボーンとノウハウを持つ各国のさまざまな企業を誘引することにつながった。そして、そのシナジー効果は、時に極めて短期間のうちにその国の業界シェアを、一気に獲得するような事例も少なからず起こしている。

 今回は、今後の日本の商業ビジネスとの関わりを考えた際に、筆者が特に重点視察先として注視している5カ国の都市を例に、商業事情と特徴的なSCについて解説したい。

バンコク(タイ)

セントラルとザ・モールのSCを見る

エム・クオーティエ(バンコク) ザ・モールグループとしては「サイアム・パラゴン」と並ぶ旗艦店だが、既にオーバーストアのバンコクでは厳しい営業状況が続く。
グルメマーケット(バンコク) ザ・モールグループ直営の高級スーパーマーケット。上質な店内環境の中、高価な輸入食材からポピュラー商品まで、幅広い品揃えに人気がある。

 近年、筆者が最低でも年に2回は訪問する国がタイの首都バンコクである。その理由は、最近の東京以上に商業ビジネスの変化が激しい街と感じるからだ。

 バンコクのSCの魅力は、1 総合的なデザイン力の高さ、2 施設のスケール感、3 飲食業態(特にフードコート)のバリエーションの豊富さであろう。

 筆者はタイにおけるSCビジネスを語る上で重要な企業として、1 セントラルグループ、2 ザ・モールグループ、3 サイアム・ピィワットの3社の動向に注目している。中でも、SC開発のみならず、百貨店や各種専門店などの小売事業、グループ企業を通じての各国飲食業のFCビジネスまで手広く手掛ける、セントラルグループの存在力は絶大だ。 

 注目施設は数多いが、セントラルグループでは、市内の「セントラルワールド」と「セントラルエンバシー」、郊外では上質なライフスタイルセンターとして注目されている「セントラルフェスティバル・イーストビル」が挙げられる。

 そのセントラルグループに対抗するのが、企業規模では劣るが市内の中心部に、ラグジュアリーSCの開発を続けるザ・モールグループである。代表的な施設としては、BTS(高架鉄道)サイアム駅前にある「サイアム・パラゴン」と「サイアム・ディスカバリーセンター」、プロンポン駅前の「エム・クオーティエ」などがある。特に、2015年に開業した「エム・クオーティエ」は3棟構造で館の回遊には多少難はあるが、施設上層部に2層構造の大規模なボタニカルガーデンや、外壁を活用して人口的な滝をつくるなど、日本のSCではお目にかかれないファシリティが充実している。