「同一労働・同一賃金」で小売企業がパートタイマーを半分に減らさないといけない日がやってくるかもしれない(写真と本文は関係ありません)

生産性を上げるための多店舗経営の方法だったチェーンストアでは、大多数の労働者がパートタイマーになっています。そのため今、国会で審議されている「同一労働・同一賃金」が適応された場合、その影響は非常に大きいものになります。日本の小売史上最大の課題ともいえる、この問題について、吉田繁治先生と編集部で考えました。

 編集部:先に、チェーンストアは生産性を上げるための多店舗経営の方法だったと触れました。『森友学園問題』の陰に隠れていますが、現在、国会では働き方改革法の目玉の一つとして同一労働・同一賃金」が審議され、成立しようとしていますね。小売業では、店舗の75%から80%の労働がパートで行われていますが、この問題に対する小売業の対応は、どうなるのでしょうか。

 吉田:大手、中小を問わず店舗労働の70%~80%、時には90%くらいがパート労働あることは事実です。

 1990年代から現在までの約27年、店舗の1坪当たり売上高は、多くのところで50%に減りました。その原因は2つです。①商品単価の下落がある中で、②わが国の店舗売場面積は、大型化によって、年率2%は増え続けてきたからです。

 例えば、衣料品では、1990年に全国で20億枚、販売されていましたが、現在は40億枚と数量で2倍です。1人当たりでは27年前の2倍の量の衣料を買っています。

 ところが、衣料の店舗売上高は8兆円から5.3兆円に減っています(アパレル業界のデータ)。1枚の平均単価が4000円から1350円くらいへと、約1/3になったからです。

 2倍の円高になった1990年ごろから、ユニクロやしまむらを筆頭にして、1985年ぐらいからSPA(製造直売型の専門小売店チェーン)が増えて、中国やアジアで安く生産し、1/3から1/4の低い単価で販売したからです。現在、国内で縫製されている衣料は、呉服を含む高級品であり、全体量の5%に過ぎません。

 商品単価の下落で、売場1坪当たりの売上げが50%に減った場合、経営的には人的な数量の生産性(販売数量÷労働時間)を2倍以上に増やさないと、店舗が成立しません

 つまり、1990年から現在までに、店舗の商品数量で計った労働生産性を最低でも2倍に高めなければならなかった。

 加えて、時間当たりの賃金(時給)を1年に2%高めるなら、1990年に比べて、「1.02の27乗=1.7倍」に上げる必要もあったのです。

「同一労働・同一賃金」は日本の小売史上最大の課題

 編集部:パートの時間給は、1990年ごろは、いくらくらいだったのですか? ほとんど上がっていないと言われますが……。

 吉田:パート時給は、1990年ごろも800円程度だったのですが、現在も全国平均では27年前とほぼ同じです(東京都の最低賃金がパート時給で930円。福岡県765円)。

 1日5時間労働で、27年前は、月間20日出勤で8万円(年間で96万円)です。ところが、現在も月間8万円、年間96万円という人が多い。これが現在の多くの小売業で、店舗内労働の80%部分を占めています。

 1980年までパートという職種は少なかった。小売業でもほぼ全員が正社員でした。1990年代の資産バブル崩壊と絡まって、店舗の坪当たり売上高が毎年減っていったので、正社員が行っていたことを、パートの雇用によって切り替えたのが、ほとんどの小売業でした。

 このため、現場では、正社員とパートは「同一労働」でしょう。正社員の賞与を含む年収は、当時も現在も、新入社員レベルなら約300万円です(初任給20万円)。年間で2000時間働くと仮定すれば、時間給に換算すると1500円になります。

 正社員の新入社員の店舗での労働とパートの労働内容は、変わるところはありません。ところが、パートの時給は800円です。時給に換算すれば、約2倍の格差があります。労働内容の違いよる賃金の差ではなく、「雇用の身分」による差です。

「同一労働・同一賃金」が法制化された後、現在の身分による賃金格差は、小売業が克服しなければならない最も大きな経営問題になっていくでしょう。小売業界にとって史上最大の課題と言っていいレベルのものでしょう。現場にパートが多いレストランなどのサービス業でも同じです。

 編集部:「働き方改革法」が成立した後は、すぐ「同一労働・同一賃金」にしなければならないのですか? もしそうなら、小売店の50%は赤字に転落するでしょうか。大変な問題になりますね。店舗は100万店ですから、50万店もが赤字転落という事態って……。

 吉田:現在でも、赤字店舗は、国税庁への税務申告では、ほぼ50%(50万店)です。最近始まったことではなく、ずっと続いています。

 現在が赤字の50万店では、その赤字が事業存続の危険水域に大きくなる。そして、黒字の50万店のうち、経常利益率が売上対比で1.5%以下の25万店が、赤字に転落するということです。3%の経常利益のところは、1.5%に低下します。労働コストが売上比で約1.5%上がるからです。

 赤字経営とは、支払うべきお金の不足ですから、ほぼ3年しか事業継続ができません。銀行から借金ができても、赤字を脱しない限りは負債が増え続けて、利払いと返済も膨らんでいくからです。

 実は、赤字の重みは上場している大企業ほど厳しいのです。上場していれば、赤字になると株価が大きく下がるため、株主が許さないからです。