アマゾン、ウォルマート、ホールフーズの勢力図。アマゾンが低所得者層に、ウォルマートが高所得者層にターゲットを拡げ、お互いにらみ合っている。

 ──2017年上半期、最大のニュースはアマゾン・ドット・コムのホールフーズ・マーケットの買収です。このニュースをウォルマートとの関係と合わせて、どう整理していますか。

  •  角井:ウォルマートのグローバルeコマース事業部最高責任者のマーク・ロアは元Diapers.com(ベビー用品のオンラインストア)とQuidsi.com(Diapers.comの運営会社)の創業者でした。Diapers.comは創業後、急成長を遂げ、アマゾンにとって「目の上のたんこぶ」の存在になります。そこで、アマゾンは値下げ競争などで追い詰め、この2社を10年に買収。アマゾンは両社のノウハウを吸収し、子会社化しますが、最終的にマーク・ロアと彼の部下はアマゾンを去ることになり、会社もつぶされてしまいました。
  •  そのため、マーク・ロアはアマゾンに恨みを持っているわけです。そこで、彼はJET.comを15年に設立します。JET.comはアマゾンキラーとして生まれた企業で、ゴールドマン・サックスなどから融資を受け、何百億ドルという資金をつぎこんで成長しました。この企業は最終的にウォルマートに買収されましたが、会社設立当初からウォルマートに買収されることを目標の1つにしていたと想像しています。そして、こうした前提があったのではないかと思います。というのも、買収には条件がついており、それはマーク・ロアがウォルマートのインターネット部門を率いるということでした。ウォルマートは2000年代半ばから予算を持ってさまざまな企業の買収を進めてきましたが、10年代に入ると、ビッグデータ解析をするIT系のベンチャー企業を連続して買収。特に、16年後半からはアマゾン対抗の陣営づくりを進め、この一連の戦略として、2017年6月にはBonobos(メンズファッションブランド)の買収がありました。


 ──「アマゾン・ホールフーズ連合」はウォルマートにいかなる影響を与えますか。

  •  角井:まず、アマゾンとウォルマートのターゲットの違いを理解する必要があります。アマゾンは中所得者から高所得者に強く、ウォルマートは低所得者から中所得者がメインです。今回、高所得者に対して優位に立っているアマゾンが、同じく層をターゲットに持つホールフーズを買収したわけです。これも重要なことなのですが、実はアマゾンはその一方でプライム会員の会費を4割引する施策を始めています。これは自分たちが得意ではない低所得者層を獲得するウォルマート対策といえるでしょう(しかも、この手法はシステム改築も一部で済むので、コストがあまりかかりません)。つまり、アマゾンは自分たちが強い客層をネットとリアルで囲い込むと同時にウォルマートの客層を奪い取ろうとしているのです。
  •  もちろん、アマゾンにとって、スーパーマーケット企業の買収は喫緊の課題だったという理由もあるでしょう。というのも、アマゾンは「アマゾンフレッシュ」(プライム会員向けの生鮮食品配送サービス)を行っており、その成長にはリアル店舗のノウハウが大いに助けになるからです。


 ──これでホールフーズとインスタカートの関係も変わるでしょうか。

  •  角井:実は、ホールフーズはインスタカートにマイナー出資をしています。アメリカにはインスタカート以外にも、こうした買物代行の会社はありますが、増資に成功しているのはインスタカートだけです。インスタカートにとってホールフーズは売上げが最もよい取引先ですが、この2社の力関係は少しずつ変化しています。
  •  それはホールフーズにあるインスタカートのロッカーを見ると分かります。昔はインスタカートのロゴマークが大きかったのですが、少し小さくなり、逆にホールフーズのロゴが大きくなりました。それは今のロッカーではインスタカートのロゴがさらに小さくなると同時に位置も下になり、ロッカーに表示されるアドレスもDERIVERY.WFM.COMと、ホールフーズのものになっています。
  •  インスタカートは、ホールフーズがアマゾンに買収されたことを脅威に感じているはずです。なぜなら、アマゾンはアマゾンフレッシュの一番のライバルであるインスタカートの首根っこをつかまえ、いかようにもできるという状況にしたわけですからです。最近、インスタカートはドイツのアルディと提携を始めましたが、低所得者がターゲットのアルディでは、配送料が6、7ドルでそこにチップかかるインスタカートは使われにくく、売上げ増にはつながらないでしょう。


 ──その後、ウォルマートとグーグルで提携の発表がありました。これをどう見ますか?

  •  角井:日本ではあまり報道されていませんが、グーグルはグーグルエクスプレスという配達サービスを行っています。ウォルマートにとっては、このグーグルの配達サービスを取り込むことができます。
  •  もちろん、IT分野での強化も期待できます。買物のサーチの面でグーグルはアマゾンの後塵を拝していますが、ウォルマートの全米ナンバーワン、世界ナンバーワンの小売りデータを扱えるということは非常に大きなチャンスです。また、人材面での効果も期待できます。ウォルマートはウォルマートドットコムという会社を持っており、その人材とその技術者の交流が進むでしょう。とはいえ、このニュースにはアマゾンのホールフーズ買収ほどのインパクトはありません。
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