左からアマゾン・ゴー テクノロジーVPディリップ・クマール氏、同VP ジアナ・プエリニ氏。

「ショップトーク」注目度ナンバーワンをウォルマートと分かち合った「アマゾン・ゴーの開発担当者のセッション」では、アマゾン・ゴーVP ジアナ・プエリニ氏とアマゾン・ゴー・アマゾン・ブックスのテクノロジーVP ディリップ・クマール氏が開業後の状況を報告した。

 一方、別のセッションでは、「アマゾン・ゴーとは異なる発想で、投資コストを抑え、既存店舗チェーンに簡単に導入しやすいシステムを開発したスタートアップ企業2社の事例」が紹介された。レジレス化がアメリカで広範囲に及ぶのも時間の問題となりつつあるようだ。

◆アマゾン・ゴー

最も時間をかけたのは『魅力ある店づくり』

 クマール氏は、開発上の大きな課題について語った。まず、顧客が何もせずに会計を終えられるシステムを作ることだが、「これを実現するのは、見掛けよりずっと難しかった」。 次いで「コンピュータヴィジョンと機械学習を使いたかったが、店舗内で誰が何を取ったかを認識するために数多くのアルゴリズムを開発しなければならなかったこと」だ。システムは混雑した店舗内で、棚から取ったジャムはラズベリーかストロベリーか、のレベルまで判断しなければならない。現段階ではほとんど誤差は無いとのことだが、その詳細データについては語らなかった。

 しかしプエリニ氏が開発に最も時間をかけたのは「顧客が好む説得力ある商品アソートメントを、正しい価格で、利便性の高い環境で提供すること」だったそうだ。クマール氏も「店舗を作るには、ただレジ決済なく店を出るだけ、という以上のことが必要だ」と同調した。

『顧客の反応を最短で吸い上げる機能』も付加している!

 利用者は、アマゾンゴーでの新しい買物経験を楽しんでいるようだ。来店客数やリピート率などは一切公開されなかったものの、近隣の通勤客が朝食、ランチ、午後のスナック、夕食を求めて立ち寄り、文字通りサッと入ってサッと出ていくそうだ。ベストセラーはチキンサンドイッチ、加熱すれば30分以内に食べられるミールキット、フレッシュフルーツだ。

 同社はゴーでの買物経験を「なるべく自然に」することを意図していたが、同店初体験のお客は出口で立ち止まって、「このまま行っていいの?」と尋ねることが多いとのこと。現在は出口に「このままお帰りになって大丈夫です。お買い上げありがとうございます」というサインを張っているそうだ。

 アマゾン・ゴー専用アプリには買物後、すぐにフィードバックを吸い上げる機能がある。この機能を使ってビーガンの顧客がサラダにチーズが混ぜてあることに文句をつけた。これを受けてサラダの横にチーズを添えるように変更したそうだ。今後、欠品や商品リクエストをその場で吸い上げることで、商品計画・在庫計画の精度向上に活用する。

「顧客の代わりに発明できることはすばらしいこと」

 アマゾンは革新を行い続けてきた企業だ。プエリニ氏は「長く継続可能なビジネスモデルを構築することが重要だ。そのためには、顧客の生活にどんな価値を付加できるのか、そこに独自性が必要」とコメントした。またクマール氏も「顧客の代わりに発明をできることはすばらしいことだ。(その発明が)普及するかしないかは顧客が最終的に決めることだ」と述べた。

 アマゾン・ゴーは現在ロサンゼルス、シアトルを含めて6店舗の追加出店が決まっているが、買収したホールフーズ・マーケットへの併設については何も決まっていないとのこと。「まだまだ学んでいる段階なので、乞うご期待」というメッセージでセッションは終了した。

◆新たなレジレス・テック企業

軽装備で投資コストも低い『スタンダードコグニッション社』

スタンダードコグニッション社のレジレス・システムの特徴。
右がスタンダードコグニッション社CEOジョーダン・フィッシャー氏。


 昨年、サンフランシスコで創業した同社は、カメラ、マシンビジョン、ディープラーニングをネットワーク化し、天井にあるカメラで来店客が手に取った商品を認識するシステムを提供する。プレゼンを見る限りアマゾン・ゴーに似たシステムのようだが、アマゾン・ゴーのような出入り口のゲートや棚のセンサーなどは不要だ。顔認証も行わない。来店客は入店し、商品を選んで、出口前で自動的に表示される自分の最終購入商品の内容を確認して、スマートフォンで会計するだけだ。

 プレゼンの店内ビデオでは、2人のお客が商品を交換したり、床に置いたり、投げてキャッチしても、カメラは商品を追跡し続けていた。このシステムを実際に試したMITテクノロジーレビュー誌によると、商品認識が難しい商品2点以外は、ポケットに入れた商品も間違いなく認識したとのこと。

 同システムはまだテスト段階で、実用化に向けて現在提携リテーラーを探している。昨年5月に創業したばかりで10月にはチャールズリバー社他から総額500万ドルの投資を獲得している。このスピードはアメリカならではだ。ジョーダン・フィッシャーCEOは「アマゾン・ゴーが(レジレスへの)扉を開き、この領域に価値があることを証明した。もし今、小売企業がこれを検討しなければ、大きく出遅れてしまうだろう」とレジレスへの取り組みの重要性を述べた。

既存店舗チェーンへの適応が簡単な『ミシペイ』

ミシペイ共同創業者 ムスタファ・カンワラ氏。

 一方、ドイツ系グローバル家電チェーン、サターン社のサターンエクスプレス他で既に実用化されているシステムもある。2015年創業のミシペイ(本社:ロンドン)は「スキャン・ペイ・リーブ」(商品をスマートフォンでスキャンし、アプリで支払い、店を出る)という非常にシンプルなレジレスを実現させた。このシステムはRFIDを活用し、支払い済の商品が出口を通過するときにはアラームを自動解除し、未払いの場合はアラームが鳴る。

 同社共同創業者のムスタファ・カンワラ氏はミシペイとアマゾン・ゴーとの違いについて「既存店舗に設置でき、投資額が軽くて済む。オラクル、SAP、シスコ等の企業と提携しており、4~8週間でシステム統合が可能だ」と説明した。現在RFIDを使わないシステムも開発中だ。

ミシペイを導入したフランスのルロイメルラン。レジレス化によってレジ通過速度は18倍速くなった。

 一早くミシペイを導入したフランスのホームインプルーブメントチェーン「ルロイメルラン」では、平均購入額は変わらないが買物時間は3倍、チェックアウトは18倍速くなったとのことだ。

 アマゾン・ゴーでレジレスは注目を浴びたが、タッチの差で先頭を切っただけで、レジレスのシステム開発・実用化は世界でどんどん進んでいる。セッションが終了して立ち寄ったウォルグリーンのレジで10分ほど待たされながら、来年はここもレジレスかもと想像した。

※取材シリーズ3回目は「注目されている新デジタルネイティブブランドたち」です。