【紹介する書籍】『智能革命』(李彦宏 他著、中信出版グループ 2017年4月)

 百度(バイドゥ)は、中国最大の検索サイトである。創始者でもあるの李彦宏(英名:ロビン・リー)は、1991年北京大学を卒業後、ニューヨーク州立大学バッファロー校でコンピュータ科学修士を取り、ダウ・ジョーンズ社等を経て、infoseekでシニアエンジニアを務めた後、2000年1月1日に北京中関村で百度を立ち上げた。その後20年近い年月を経て、百度は、アリババ、テンセントとともに『BAT』と称される中国企業の中のリーダー的存在となっている。

 しかし、モバイルインターネットにおけるサービスでは、百度は、アリババ、テンセントなどに後れを取り、一部では、BATの時代は終わった等とも言われてきた。

 ところが、ここへ来て、また、百度は興味深い動きをしている。なぜなら、百度は、スマホブームには目もくれず、早い時期から人工知能分野に力を注いできたからだ。

 百度の公式サイトによると、自動車の無人運転の「アポロ計画」、音声アシスタントの「Duer」などのプロジェクトが進んでいる。

 このような、無人運転や、音声認識、人工翻訳などに対する百度の取り組みについては、2017年4月発行の『智能革命』(李彦宏他著、中信出版グループ)に詳しい。本書には、「アポロ計画」という用語は使われていないが、上記のさまざまな人工知能を応用した試みに関する百度の姿勢を、今後の趨勢を占う上で重要な示唆として記されている。

3~5年で「無人運転車」が一般道を走る!? 

 2018年3月4日、政治協商会議の委員でもある百度の李彦宏CEOは、同会議における取材のインタビューに答えて、金龍自動車と連携して、小規模量産型の「真の無人自動車」を生産することなどを発表した。ここでいう「真の無人自動車」とはハンドル、運転席などの操縦機関がほとんどない自動車を指す。金龍自動車は、主にバスなどの製造を手掛ける1988年設立の自動車メーカーである。

 今年は、マイクロバスを限られた地域内で走らせる予定だが、来年以降は他のメーカーと提携しセダンでも無人車を製造する予定だという。李CEOは3~5年で無人運転車が一般道路を走れるようになるだろうとの見解を示している。

『智能革命』の中でも、無人自動車開発の現状および前途について、詳しく記されている。本書によると、百度は、自動運転技術を単に「運転という作業を人に変わってするための技術」とは捉えていない。無人自動車を全世界のIoT体系全体を連携させる可能性がある存在として位置付け、「自動車=交通手段」という概念を根底から覆すもかもしれないと指摘している。また、従来の自動車の複雑な生産技術が参入障壁となり先進諸国に後れを取っていた、中国などの“追い掛ける側の”国の自動車製造業にとって、新エネルギー自動車や電動自動車の技術進歩は、先進国を追い抜くチャンスであるとも書かれている。

 本書によると、モバイルインターネットの発展に中国が熱を上げていたこの数年間、百度は無人自動車の開発に没頭してきた。百度が目指すのは「完全無人運転」である。それには、精密な地図とセンサーという最高レベルの技術力が求められる。2015年12月、百度は無人車の北京の高速道路で試験運行を成功させた。

 百度の無人車には64本のレーザービームを照射できるLIDER(3D測距センサー)が搭載されている。車体を中心とした半径60m以内の道路状況全てをスキャンでき、前と後ろに計3台のLIDERを設置することで死角をなくしている。百度では、アメリカと中国で、大量に道路の測定を行っており、2018年には百度の無人運転によるバスを走らせ、お客を運ぶ計画である。

 また、無人運転の技術は自動車だけに使われるものではなく、スマート地下鉄、スマート公共交通機関の開発も可能である。無人運転技術の発展により、人は今まで運転に費やしていた時間を休息、仕事、学習などの充てることができ、人々の思考様式さえも変える可能性があると本書では記している。

百度は音声認識でも高い技術を持っている

  機械翻訳に関して、先日Microsoftが、中国語から英語への機械翻訳のレベルが人間による翻訳と同レベルに達したと発表した。百度も機械翻訳関連の商品開発を進めており、昨年9月、名古屋で開かれた第16回機械翻訳サミットで「百度智能Wi-Fi翻訳機」を発表、本年春から販売予定だという。主に旅行者向けの音声通訳機械で、この翻訳機に向かって話し掛ると対象言語が聞こえる。

 百度は音声認識においても高い技術を持つ。例えば、方言が強い場合でも、100文中85文は全く間違いなく聞き取れ、1文字だけ間違いがあったものを加えると98文が正しく認識されていた。ちなみに訓練を受けていない一般人が聞き取れたのは100文中60文だったという。この、高い音声認識力は、通訳機器と相性がいい。

 人工知能時代において、百度の保有するビッグデータは大きな意味を持つ。中国のインターネットユーザー数は7億人に達し、1日に入力される検索ワード数は60億回(2016年)だという。その1回ごとの検索により、ユーザーの手によって人工知能は訓練されていき、精度が向上する。また、中国では、プライバシー保護の意識が日本などの自由主義国家に比べれば希薄なため、データの取得も比較的容易になりやすい。そのことなどから、人工知能という分野において中国、中でも検索の絶対的大手である百度は大きなアドバンテージを持っている。

教育システムを変え、司法や医療に影響を与える

『智能革命』では、人工知能と人類の今後について以下のような内容に言及している。

 2016年、アメリカの「ワイアード」誌が、人工知能がいかに現代農業を変革したかに関する論文を掲載した。例えば、画像認識技術により、農民は病気の農作物をすぐに見つけられ、被害が広がるのを防げる。このように、テクノロジーの目的は人に取って代わることではなく、人をサポートすることだ。

 また、人工知能時代の到来に伴い、教育システムも変化せざるを得ない。まだ、人工知能が指導の補助となる学校は少ないが、状況は急速に変化している。全国の重点中学(エリート校)のうち、半分近くが人工知能による教育システムを取り入れており、そのうち半数が積極的に活用し、指導効率が20%以上上がっている。将来的には全ての学校に、人工知能で教えるための教師が必要になるだろう。子供たちはPCの使い方は知らなくても、スマホには慣れている。「インターネットプラス」という政策により、中国では全ての産業がインターネットと不可分の物になった。司法や医療も人工知能の影響を受けるだろうと本書では指摘している。