高野稔彦氏 住商アーバン開発(株)代表取締役社長 一般社団法人日本ショッピングセンター協会理事 国際委員会委員長
新津研一氏 (株)USPジャパン代表取締役社長 一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事兼事務局長 一般社団法人日本ショッピングセンター協会 国際委員会委員

観光関連、地元の行政との情報交換、提携や協力も重要

高野:青森のような努力が少しずつ日本各地に広がっているような気がしているが。

新津:日本のショッピングセンター(SC)は、これまで主として居住者を相手に商売をしてきた。仮に、国内の遠隔地から来ても、超広域商圏という捉え方だった。しかし、インバウンドは全員、旅行者で来街者だ。実は、世界の成功しているリテールを見ると、旅行者をもっぱらターゲットにしているところが結構ある。LVMHもDFSギャラリアを運営していて、そっちの方が営業利益率が高かったりする。つまり、旅行者は消費者の非常に大きな固まりだ。東京は居住者も来街者も多いので、そこを意識しないが、地方は人口減少が深刻なので、インバウンドに注力している地方のSCは大都会より早く意識が切り替わっている。

 平山さんの話にあったように、自分の地域の行政がどの国をターゲットにして、何を実施しているかを意識することは非常に重要で、そこをキャッチアップした商業施設は勝っている。

 インバウンドが利用する交通機関の情報収集も重要だ。福岡空港と韓国を結ぶLCCは1日50便飛んでいて、片道2000円と東京から行くより遙かに安く、日帰りで買物に来る。青森は行政が台湾のエバー航空と組んで、チャーター便を行政が飛ばした。そうした情報を生かせば、何語で歓迎の看板を出せばいいのか、どう施設まで誘導すべきかが分かる。

 また売るモノも、青森の観光事業者を例に取ると、秋のリンゴの収穫期に的を絞るのではなく、春にはリンゴの花の摘花体験、夏にはリンゴ畑特有の、屋根を切り取った軽トラ「バケトラ」でのグランピングといった具合に、リンゴというストーリーをひたすら宣伝している。これに冬の雪体験も加わり、1年中、リンゴというテーマで人を呼べる。観光行政が何をやっているのか。自分の町は海外にどうPRされているのか、それを理解すると、売るものやプロモーションの仕方が変わってくると思う。

高野:これからの地方の単館SCの運営は、地元の人口減少と大手チェーンの進出で、厳しい状況になっていく。そんな中、インバウンドは少しずつ地方へと動き始めており、どうやって呼び、いかにしてお金を使っていただくかが存続のキーになる。駅から遠いところは、交通手段の悩みもあると思う。観光資源とか地元の名産品を活用するには、地域の行政との連携や協力も必要だ。それをどう引き出したらいいのかも課題だ。

新津:地方の単館SCと商店街は共通する部分があると思う。この間、長崎に行って商店街の方とお話しをさせていただいたが、今、商店街を復興させるために頼りになるのは、行政の商業課や商工会議所ではなくて観光課だという。国も、地方創生という名のもとに、交付金などを観光関連に出している。もう一つ、興味深いのは、観光行政の方は今までは著名な観光名所だけをPRしてきたが、観光客のほとんどはおいしいものを食べたいし、買物をしたいと思っている。ところが観光課は、これまで商店街や商業施設と付き合いがなく、PRをしたくてもできなかったということだ。

 こうした状況なので、商業施設側から観光課のドアをノックして、観光協会に入会して何か役にたちたいという話をすると、案外、すんなりタッグを組める。また、単館SCも小売店も繁華街にあることが多いので、そこにインフォメーションカウンターを設置して、パンフレットや観光ガイドを置けば、ツーリストはさまざまな情報が取れる。帰りに立ち寄った人にノベルティを配ってもいい。そうした施策をとれば、観光行政の方はすごい強い味方を得たと思ってくださる。空きスペースをイベント会場に貸す方法もある。

高野:地方行政の方も、コンテンツが少なくて悩んでいるところに、こちらから歩み寄って協業で頑張りましょうという形で持っていけば、タッグも組みやすい。

来街者の消費を促すことが地方創生に貢献する!

高野:政府は地方創生といっているが、インバウンドも地方創生につながっていく気もするが。

新津:これまで、SCが地元の産品を紹介することは、あまりなかったと思う。地元で地元の物産展をやったところで誰が来るんだと笑われたであろう。しかし、人口減少する中で、居住者に変わる代替者の存在は大きく、代替者の方が強い消費者になってきている。だから、A‐FACTORYのようなやり方も出てくる。これは大きな変化だし、まさに地方創生で、生産者もそこで直売をし、ストーリーも伝える。仕掛ける役割はSCに課せられていると思う。

高野:平山さん、そのあたりどうか。

平山:A‐FACTORYは当初から青森の事業者が作ったもの、青森県産の素材を使った商品しか置いてない。最近、非常にうれしいと思うのは、地元の方が親類が帰省された折りにわれわれの店に案内してくれることだ。地元の皆さんが価値を理解してくれて、インバウンドを含めた来街者が、地元の人がよく行く場所だから行ってみようと思って来館するようになってくれればと思う。それぞれの都市に、こうした場所ができれば、新しい流れが作れると思う。

高野:次に、館としてインバウンドのお客を迎えるとき、ハードやソフトでどこに留意していかなければならないか、何に注力すべきかをお聞きしたい。

下田:3年前の爆買いのところから勉強させていただいて、最初にやったのは一括免税ができる免税カウンターの設置だった。大型店は自店で免税処理できるが、小さな店舗は個々にやると従業員の負担が大きい。一括免税ができれば、お客さまにとっても利便性が高く、館としての魅力も出てくるのではないかと。キャナルシティ博多の中には飲食も含めて約260の店舗があり、その約半数がこのカウンターで免税ができる。

 次に設置したのが、ツーリストラウンジという、外国人向けのインフォメーションカウンターだ。韓国語、中国語、英語で対応できる人間を4、5人常駐させ、コンシェルジュ的なサービスや、和文化体験などを提供している。ときにはその人間が館内を巡回し、館の中で迷子になっている方を誘導したり、店舗でトラブルになりそうなときに、通訳することもしている。

 設備的には必須なのはバスの駐車場だ。クルーズ船のお客さまも、エアーで来る韓国のお客さまもバスで来館するので、1日100台くらい観光バスが乗り着ける。しかし、バスの駐車場は9台分しかないので、バス回しに苦労している。基本的には10分でお客さまを降ろしていったんバスには出てもらい、集合時間に戻ってきて15分で乗車して出て行ってもらう。お客さまの滞在時間は、クルーズ客で約2時間、韓国人客は4時間くらいだ。

平山:うちは、ハード的な部分では、タブレットを使って、その場で翻訳をして会話ができる取り組みをしている。行政との取り組みでは、行政がヤマト運輸と組んで、国際超速便のようなシステムを作り、アジア地区にドアツードアで用品が届くサービスもやっている。台湾に関しては、この便で生のリンゴも送れ、好評だ。駐車場については、狭くて観光バスは乗り着けられない。

受け入れ環境整備を整えたらあらゆる手段で発信を

高野:新津さんはいろいろなケースを見ているが、ハード、ソフトでアドバイスをお聞きしたい。

新津:よく受け入れ環境整備という言い方をするが、やることは言語対応、免税対応、決済対応、そしてWi-Fiの4つだ。商業施設からはコスト負担をどうしたらいいのか、また整備することでどのような効果があるのかと相談されることもある。だが発想が逆で、環境整備は集客策だ。対応したら、外に知らしめることが重要だ。建物に表示する、町中の観光案内所に置くパンフレットに記載する、館のHPなどで知らせるなど、あらゆる手段で、こんな準備ができていますと発信する。そのためには多言語のHPが必要だが、業者に依頼すると多額の制作費がかかり、更新の必要もある。そこをサポートして第一歩を踏み出してもらうために、われわれの協会ではウェブサイトを集めたポータルサイトを作っている。英中韓の翻訳料やホームページの作成料込みで、月800円から使え、日本SC協会の会員であれば、年間1万円、一般でも年間2万円で使える。今、グーグルで、ジャパンショッピングで検索すると1位に上がってくる。日本でショッピングしたいと思う方が見るサイトで情報発信することで、集客が図れ、月800円ならやらなくてはもったいない。

高野:各店舗での多言語対応も必要だが、これも皆さん悩むところだ。

新津:多言語対応は3つのステップがあると考えている。第1のステップは歓迎のあいさつをすることだ。外国語でする必要はなく、笑顔で「いらっしゃいませ」と日本語であいさつすれば、気持ちが伝わる。気後れして、しかめっ面をするのが一番いけない。第2ステップは基本的なことはピットサインや英語でボードに書くなど、すぐに提示できるよう準備をしておくこと。第3ステップはストーリーや魅力を伝えることで、しっかりした翻訳やネイティブスタッフによる対応が必要になる。第3ステップは高度な技術が必要だが、第1、第2ステップは、高卒レベルで十分できる範囲だ。協会ではガイドラインを示し、セミナーなどもやっているので、ホームページを見て欲しい。

下田圭一氏 福岡地所(株)キャナルシティ博多事業部部長
平山仁資氏 (株)JR東日本青森商業開発 成長事業戦略室室長兼営業部次長 地域活性化グループGL

 

 この後、質疑応答が行われた。その一部を紹介する。

Q「これから増えるインバウンドの志向は?」

新津:一番多い質問だが、日本人は何を買うのかという質問と同じで、これだという答えはない。同じ国の人でも出身地、来日頻度、旅行目的によってニーズはさまざまだ。そのSCがどういうターゲットに絞り込んで商売をしたいのかでも変わってくるので、答えを探すなら、店頭に来ているお客さまにインタビューする方法もある。

Q「食のコンテンツが戦国化していると思うが、食べる以外で魅力的なコンテンツがあれば事例を教えて欲しい」

下田:観光客は自国にはないものを見たいという欲求がある。福岡は食べ物はおいしいが、夜に遊ぶところがなく、ナイトマーケットの活性化が課題だった。そこで、キャナルシティ博多のど真ん中にある噴水を、1年半前に全面リニューアルしたのを機に、日中は噴水のショーをし、夜は噴水と連動して、ここに面したホテルの壁を使って、横65m、高さ25mのプロジェクションマッピングを行っている。テーマも設定し、第1弾ではアニメの「ワンピース」とコラボした。たくさんのお客さまがきてくれている。

新津:インフルエンサーでなくても、旅行者はFACEBOOKやInstagramでどんどんつぶやき、その数がばかにならない。目の前のお客さまにつぶやいてもらえるコンテンツは重要だと思う。

 

いかがでしたか。このパネルディスカッションから、何かを学び、行動に移していただけたら幸いです。