パシフィコ横浜(横浜市)で開催された、一般社団法人日本ショッピングセンター協会主催の第42回日本ショッピングセンター全国大会(SCビジネスフェア)。会場内のプレゼンテーションスペースで行われたセミナーの中から、「訪日外国人を取り込め!~地域と育むショッピングツーリズム~」をテーマにしたパネルディスカッションの内容をダイジェストで紹介する。

<コーディネーター>

高野稔彦氏 住商アーバン開発(株)代表取締役社長 一般社団法人日本ショッピングセンター協会理事 国際委員会委員長

<パネラー>

新津研一氏 (株)USPジャパン代表取締役社長 一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事兼事務局長 一般社団法人日本ショッピングセンター協会 国際委員会委員

平山仁資氏 (株)JR東日本青森商業開発 成長事業戦略室室長兼営業部次長 地域活性化グループGL

下田圭一氏 福岡地所(株)キャナルシティ博多事業部部長

 

高野:今日はインバウンド客にどう対処すればいいのか、またインバウンド客が日本のマーケットにどういう影響を与えていくのか、効果も含めて掘り下げていきたい。大都市はハード・ソフトを含めて、ある程度インバウンド対応が進んでいるが、郊外や地方都市になると、ここまでインバウンド客は来ない、売る物もないと、施策をとっていない所も多い。また、何かしようと思っても、どうしたらいいか分からないという所もある。そのあたりも含めて、パネラーの皆さんからご意見をいただきたい。まず、自己紹介をしていただく。

新津:個人的にはUSPジャパンという会社の代表で、小売業、メーカーのインバウンド対応および日本のお客の誘客と売上げアップのコンサルティングをしている。一方で、一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会の専務理事兼事務局長として、外国人を一人でも多く、買物のために日本に呼び、来ていただいた方に1点でも多くお買上げいただいて、少しでも笑顔になってお帰りいただくために、情報発信、イベント企画、インバウンド対応の研修をはじめ、さまざまなことをしている。同時にリテールの方への情報提供も行っている。

下田:私の勤務する福岡地所は博多の不動産会社で、キャナルシティ博多を運営している。キャナルシティ博多は1996年に開業し、今春で22年目になる。九州はアジア圏に近いので、福岡・博多エリアも韓国、中国、台湾などの方が多く、キャナルシティ博多には首都圏とは違ったインバウンド客が来場している。

平山:JR東日本青森商業開発はJR東日本のグループ会社で、7年前にJR東日本が青森に作った複合施設「A‐FACTORY」の運営をしている。A‐FACTORYは観光の現地着地型の地域活性化を目的とした施設で、2つの側面がある。1つは商品やショップを通じて、青森の魅力を発信する役割。もう1つは施設内にリンゴのお酒であるシードルを醸造する自社工房を持っており、商品の生産拠点としての役割だ。インバウンド対応はまだまだ勉強の段階だが、地域活性化という観点からの情報発信やインバウンドの方の利用などの事例を紹介したい。

2020年はピークではなく、日本を世界に宣伝する年!

高野:訪日外国人観光客数は2017年に2800万を超え、以前とはモノの買い方、時間の過ごし方が変化している。行く場所や買う商品も変わり、単価にも変化が見られる。東京五輪が開催される2020年には、「インバウンド4000万人」が目標とされているが、そこに向かって、どう変化しているのか、新津さんに最前線の情報をお伺いしたい。

新津:ショッピング全体では、ここ5年間でインバウンド客、小売事業者双方に変化があったと思う。間もなく迎える2020年は五輪の年というより、大きなエポックがあって、実は、日本の人口が1億2000万人を切る年で、消費人口(15歳以上)は1億人を切ってしまう。その中でアクティブに消費をする人は、おそらく半分の5000万人くらいだろう。この10年で、消費人口は1000万人くらい減少していると思う。一方で外国人観光客は、この10年で600万人が2800万人になり、2020年には4000万人になると言われている。すごいスピードで増えており、これはお客さまが劇的に変化していることを意味している。しかも、日本のお客さまは日常の買物が中心で消費力は高まっていないが、外国人観光客は持ってきたお小遣いは全部消費して帰りたい。そのくらいアクティブな消費者が、2020年には4000万人になる。eコマースが台頭してきたのと同じくらい、日本の商売の環境を変えると思っている。

 事業者の変化については、観光業界やデジタルマーケティングをやっている専門家と話をしていて衝撃を受けたのは、インバウンドに対してほとんど無施策だといわれたことだ。売上げは上がっているが、インバウンドマーケティングは何もやっていないと。そして、データを見て愕然とした。外国人の実質的な消費単価はこの5年間で1割しか伸びてなかったのだ。僕らはインバウンド対応をしてきたはずで、それにより売上げが上がったと思い込んでいたが、客数が増えた分だけインバウンドの売上げが上がっているにすぎず、消費単価は上がっていない。小売りはお客を見ていない、分析をしていない、それに対する施策もしていないと、デジタルマーケティングの人に言われても、反論できなかった。

 そうした中でも各地で成功事例が出ている。例えば、地方で今まで地元の人に500円で定食を出していた店が、インバウンド向けに3000円の懐石を作り、消費単価を6倍にしたという事例がある。都内で消費単価を6倍にできる商業施設はおそらくないだろう。地方だからできた事例だ。増えている訪日客を受け入れるというところまではできている事業者も多いが、自分たちが戦略的に攻めていくには至っていない。

高野:こうした話を聞くと、デベロッパーもテナントもインバウンド対応をやらなくてはいけないなと思うのだが、2020年以降も本当に伸びていくのかという不安もあり、思い切って投資に踏み切れないというのが実情ではないか。

新津:実は今、訪日客が増えているのは日本の特異な事例だ。5年前に安倍晋三政権になって、訪日ビザが緩和され、日本に来やすくなったからで、それ以前は世界中で観光客は3%ずつ伸びていたのに、日本にはなかなか来てくれなかった。リオ五輪が終わるまで、東京五輪の開催を知っている訪日客は5%にすぎなかったというデータもあり、今の訪日客の増加は五輪の影響によるブームではなく、世界的なトレンドだ。

 そして皆さんに留意していただきたいのは、2020年はマスコミや五輪に出場する選手、見物客が来て、ホテルやエアラインが高騰するので、純粋な訪日観光客はむしろ減少する。しかし、五輪の期間中、日本のことがかなり報道されるはずで、僕らにとって2020年は日本の宣伝広告、PRの年だ。2019年までに自分たちのコンテンツを磨き上げて、海外に発信する情報を整えておくことが重要で、観光客がさらに伸びるのは2020年に宣伝された後の2021年だ。過去に五輪が開かれた、ロンドンも、北京もそうだった。

訪日客の興味の対象や購買商品が大きく変化した

高野:東アジアからの訪日客が多いキャナルシティ博多での、最近のインバウンドの傾向はどうか。

下田:新津さんから単価が上がっていないという話があったが、話を聞くまで、消費者の嗜好が変わったとしか捉えていなかった。キャナルシティ博多は3年前に爆買いに遭遇したが、当時は中国客を中心に炊飯器などの電化製品が売れ、客単価は10万円を超えていた。2016年、2017年になると、売れる物が化粧品や医薬品、菓子に変わっていったが、それは嗜好の変化で、このまま客単価は下がっていくと考えており、付加価値を付けて単価を上げる工夫をするという発想はなかった。

高野:インバウンドで、最近、顕著に増えたところはあるのか。

下田:福岡には国際空港も港もある。特にクルーズ船は多く、2017年は年間360隻くらいきたが、一番大きく変わったのはエアーだ。2016年の秋に、韓国のLCCが1日50便くらい飛ぶようになり、日帰りで来るお客さまが飛躍的に増えた。今、キャナルシティ博多の免税構成比は約25%で、その半分が韓国客だ。3年前は圧倒的に中国の人が多かった。韓国客が好んで買う店は「Francfranc(フランフラン)」「LUSH(ラッシュ)」、女性下着の「aimerfeel(エメフィール)」などで、売上げが倍になったところもある。

高野:福岡は新幹線の駅、国際空港、クルーズ船が停泊できる港が2.5㎞以内にあるという、恵まれた入り口を持っているが、地域内競合も多い。

下田:2015年の爆買いで、キャナルシティ博多に入る家電店は売上げをものすごく伸ばしたが、2016年には福岡市内に競合が多数出店した。クルーズ船のお客さまも競合店にも行くようになっている。キャナルシティ博多全体でもクルーズ船のお客さまは大幅に減った。

高野:青森の状況はどうか。福岡ほど恵まれた入り口はないし、歴史も浅い中、どうやってインバウンドを呼んでいるのか。

平山:青森に着くクルーズ船やエアーの絶対量は福岡と桁が違うが、インバウンドは非常に伸びている。当社が運営するA-FACTORYは青森駅近くの海に面した場所にあり、徒歩15分くらいの所にクルーズ船が停泊できる港湾施設がある。インバウンド対応は大きなクルーズ船が着いたときに、お客さまをどう迎えるかという地道なところから始めた。エアーに関しては行政が強化していて、北海道新幹線を契機にわれわれも頑張ろうということで誘客に乗らせていただいている。

 インバウンドの大半は台湾だ。これには行政が早い時期から青森の名産品のリンゴをブランド農産品として台湾に輸出していたという素地がある。台湾はもともと親日で、旅行先に青森を選んでくれている。これまでは、そのリンゴを使って、シードルを作るところを見学して試飲ができたり、アップルパイが食べられたり、リンゴジュースが飲めるといったことが喜ばれてきた。だが、店頭に立っている従業員に聞くと、ここ3年くらい何回もリピートしている方もいて、そうした人はお土産用のリンゴ製品ではなく、自分が自宅で使うきれいなお酒の器を買ったりと、買う物が変化しているという。

 ボリュームは増えているものの、売上げのシェアはまだ10%程度に止まっているが、免税品の販売は200%近い伸びを見せている。また、従来は冬の集客が厳しかったが、最近は、雪に魅力を感じて冬に来日する台湾人も多い。

高野:行政との連携や行政の力添えはどうか。

平山:もともと “青森の食を中心として魅力を発信しよう”というのが館のコンセプトで、東北新幹線が新青森駅まで延伸した2010年に開業した。県の観光関係の方にも周知されているし、行政の方が海外の情報発信力のあるブロガーに青森の魅力的なコンテンツを知ってもらうツアーなども組んでおり、われわれの所にも案内してくれる。Win‐Winでやらせていたき、感謝している。