左が高野稔彦氏(住商アーバン開発(株)代表取締役社長、日本ショッピングセンター協会の国際委員会の委員長)、右が新津研一氏(一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事兼事務局長で、ブランディングやマーケティングのコンサルタント〈USPジャパン〉)。

ショッピングセンター(SC)のインバウンド対応や課題、今後の在り方など、10の質問をインバウンドのキーマンに聞いた。話を聞いたのは、SCの開発や運営を行う住商アーバン開発(株)の代表取締役社長で日本ショッピングセンター協会の国際委員会の委員長も務める高野稔彦氏と、一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)専務理事兼事務局長で、ブランディングやマーケティングのコンサルタント(USPジャパン)でもある新津研一氏だ。

〈PART.1〉協会・企業としての取り組み

質問①「注力していることは何ですか?」

「外国人がいる前提での緊急時対応」が必要に

高野:2020年はゴールではなく、オリンピックを期に世界各国の人たちに日本をアピールして、その先につなげるチャンスだと捉えている。そのために2020年までに、日本はいいところだという印象を持っていただけるよう、しっかり準備をしなくてはいけない。例えば、パンフレットを作る際は多言語対応が必要だが、新津さんからいろいろ聞いて、英語と相性がいいものは英語と組み合わせるなど、コンテンツによって対応言語を変える方法もあると気付いた。販売員全員が英語や中国語を話せるようにすることは無理なので、接客のための多言語カードを作るなどして、しっかり対応できるよう訓練していきたい。

 もう一つ、非常に重要だと気が付いたのが、火災、地震、事件など、緊急時のインバウンド対応だ。各SCでは緊急時の訓練をしているが、多くのSCではお客さまは日本人だという前提だった。外国人の方も意識した対応を訓練しているSCから学ばせていただき、緊急時の案内、誘導などのノウハウをまとめ、従業員に徹底しなければいけないと思っている。

新津:私も緊急時の対応の訓練は急務だと思っている。国土交通省が避難所のサインや英語での案内を作るなど、ガイドラインを用意しているが、今まで流通業界では意識が薄かったかもしれない。従業員にもお客さまにも、当たり前に海外の方がいるということを前提にした対応を考えなければいけない時期にきている。いざというときに、現場の従業員が落ち着いて対応できるよう、必要なツールを各店舗に準備しておくことも考えなくてはいけない。

 今年の1月30日に、JSTOの多言語対応協議会を開き、そこで小売りのガイドラインを発表したが、日本小売業協会のホームページにも、緊急時を含めて、小売り向けの多言語対応のガイドラインをまとめたサイトをオープンしたのでご覧いただきたい。

「もう一度来たいと思ってもらう売り方」が重要

新津:もう一つ、JSTOとして注力したいのは、小売りの皆さんの意識を変えることだ。今、訪日観光は政府の後押しがあるが、2年前に政府が出している文章の中から「ショッピング」という言葉が消え、訪日観光の中でショッピングは蚊帳の外にされてしまった。改正された免税制度が、ショッピングに一定の効果があったということもあるが、小売りは自分たちの商売のためにやっているだけで、観光立国という国の施策への理解が不十分だというのが大きな理由だ。

 確かに小売業界は来ている訪日客をどう取り込み、どう売上げを上げるかには全力を尽くすが、明日のお客さまを増やすことや、日本全体、地域全体でお客さまを増やすことが、結果として自分たちの売上げにつながるということへの理解が不十分だと感じている。

 今、その場で売ることだけに意識を向けるのと、もう一度来たいと思ってもらうにはどう売ればいいのかを考えて売るのとでは全く対応が違ってくる。インバウンドに限った話ではないが、お客さまがいい印象を持って、それを10人に話してくれれば、その中の何人かは日本に来てくれるかもしれない。しかし、売り付けられたという悪いイメージを持って、その話を10人にすれば、誰も来ない。いい印象を持ってもらうことで、どんどん訪日客が増え、それが観光にとっても、小売りにとってもプラスになる。

 小売業が意識を変えれば、もっと国は応援してくれるし、地域にあてにされる存在になるだろう。外国人観光客への対応とはこういう世界だということを理解していただき、2020年に向かって、地域ごとにその輪を少しずつ広げることが2018年の課題かなと思っている。

質問②「現状の課題は何でしょう?」

今後、郊外型SCのインバウンド対応が不可欠に

高野:郊外型モールのインバウンド対応が課題だ。今はインバウンドの売上げを取らなくても成立しているので、インバウンド対応に関心がないというのもあるが、日本人客が減っていくこれから先のことを考えると、インバウンドを取っていかないと先細りになる。一例を挙げると、私の会社が運営しているJR辻堂駅前の「テラスモール湘南」は地元の皆さんに支持されているが、インバウンド対応は全くできていない。有名な観光地の江の島を控え、海岸が近くて富士山も見える。訪日客を呼び込もうと思えば、いろいろなコンテンツが考えられるのにもったいないと思う。情報発信や仕掛けも含めて、2020年までに、何らかの手を打っていかなければいけないと考えている。

新津:もともとSCは町とともに生きており、どこもタウンマネジメントの中の商業施設という在り方を志向していたはずだが、いつからか、それが薄れてしまった。今、観光ではディスティネーションマネジメントといって、観光を目的としてのマネジメントに注力している。この街がどう生きていくのか、何を生業にして、誰をお客さまにするのかといったことを、さまざまな業者や事業者で話し合おうということで、まさにタウンマネジメントと同じ考え方だ。

 しかし、観光業界は精緻な数字に基づくマネジメントが苦手で、感性的にやっている部分が多い。本来もっと踏み込んだディスティネーションマネジメントとマーケティングが必要で、マーケティングの部分はSCが貢献できるところだと思う。来場者や入店者の数、プロフィール、購買額、曜日や時間による繁閑、そうしたタウンマネジメントのマーケティングやマネジメントは観光にも役立つ。共通項が多いので、一緒にやっていければと思う。何から始めたらよいか戸惑うかもしれないが、自分たちの得意な分野で街に貢献するという風に考えれば、連携しやすいと思う。