今年も学校を卒業し、社会人となって巣立つシーズンを迎えた。流通業界も多くの新入社員を迎え、何となく職場が活気付く季節となる。

 街中で明らかに新入社員と思われる一団を見かけると、40年ほど前に西友に入社した若き日を思い出すことがある。モラトリアム状態で大学生の就職活動もほとんど行わなかったが、父親が病気になり、自ら生きていく手立てが必要となり、急きょ職に就くことを決めた。

 そんな有り様だったので、銀行はそろばん勘定で金貸しかと選択外。文科系だったのでメーカーはイメージがわかず、商社は英語が必要……という極めて浅はかな考えで、何となく流通業界を選んだ。

 業種選びになってもいい加減で、百貨店は高級そうで性に合わない。当時台頭しつつあったファッション専門店(アパレルではない)は興味がわかず、ましてドラッグストアやホームセンターは黎明期で不熱心な就活生には視界に入ってこなかった。

 そして、何となくスーパーにし、当時は「西のダイエー、東の西友」といわれていたが、トップ企業のダイエーは関西なのでオフリミット、社長だった堤清二のキャラクターにも若干興味を持ち、西友に決めた。まだ尾を引いていた革命理論「流通革命」に参戦するという大それた自覚もなく、小売りの持つさまざまな社会的意義にも目が向くことはない、消極的な選択だった。

 内定をもらった後も、就職するか迷っていて入社前の研修にも顔を出さなかったが、それでも通知がきて豊島公会堂の入社式に出席すると、同期の2人とともに東京郊外の店舗に配属が決まった。

 2週間の店舗での研修を終えて衣料品の紳士売場が職場となった。係長と仕事ができるベテランの女性社員がいて1年目はお客さん状態で品出しや商品整理、発注などの業務をこなした。

 店舗を増床することになり、他店に半年ばかり手伝いに行くことになり、同期が熱心に働く姿を横目に見ながら、いつ辞めようかと思ったりしていた。リニューアルで売場が広くなり、紳士用品の担当者となり売場を任され、新たに採用されたパートのおばさんと働くことになり、その後、某有名百貨店を辞めた女性も加わり、あれこれ指図せざる得ない立場になった。

 そうなってみると、少しは自覚が出て、どうしたら売れるのか考えるようになった。係長のアドバイスももらいながら、売場のレイアウトを変えたり、陳列方法を工夫する。そうすると売れ行きが大きく変わり、売れている商品をまだ売れると判断し、追加発注し売上げが伸びる、仕事の面白さが分かってきた。

 商品は一定のアソートで初回に納品される。売れ筋でない色も陳列の見栄えを考えて投入されるが、どうしても売れ残る。そこで接客でお客さまが迷っているとき、「こんな色もありますが」と言って勧めたりして、いささか強引に売り付けたこともある(笑)。ちなみにこれは余談だが、お客さまがどれを選ぶかで迷っていたときは、最初に選んだものを勧めると納得して買っていってもらえる。実際、似合っていることが多い。

 大型店だったので一部で自店での仕入れ枠があり、取引先に出向いて選んだ商品が思い通り売れると格別な喜びだった。商売の面白さに目覚めたのだ。何が売れていて何が売れないのか,素早くより詳しく知りたい。当時はPOSもなく、レジの分類もせいぜいカテゴリー別、その結果が分かるのも1週間後だった。

 そこであるアイディアが閃いた。商品の値札に品番とカラーを記入し、精算時にレジで回収する。そうすれば瞬時に売れているものが判明し、売れ筋のカラーも分かる。1日の終わりに集計すれば一目瞭然で売上状況をよりきめ細かく把握することができる。

 今思えば「単品管理」だ。売れるものは目に付く場所に置くと一層売れる、売れないものも場所を変えたりすると売れるようになる。ますます仕事が面白くなり、のめり込んでいった。

 店に巡回しに来たバイヤーに話すと、その情報をくれといわれ、毎週報告することになり、その情報をもとに、全店の仕入れや処分の時期が決まる(当時は在庫コントローラーなどはおらず、全てバイヤーが決めていた)ことが少なからずあり、より一層やりがいを感じるようになった。

 以上、何となく入ったスーパーで商売の面白さを知って仕事が面白くなった体験談を長々と述べてきたが、何が言いたのかというと、どんな仕事でも自分次第でやりがいを見出せるということだ。

 ある人は希望を、ある人は野望を持って、望み通りにはいかず、意に添わず就職する人もいるだろう。やりたい職場に配属された人、そうでない人も、まずは与えられた領域で仕事を覚え、どうしたら売れるか考える。さしたる自覚もなく、たいそうなことを成し遂げたわけでもない自分が偉そうに言えるわけでもないが、いい加減だった者の体験だからこそ、真実味があるかもしれない。

 流通業は生活に欠かせない存在で社会に役立つやりがいのある仕事だと、多くの経営トップの口から語られるが、そもそも社会に役立たない仕事はない。新入社員のときに、清掃のおばさんと親しくなり、彼女なくしては売場が成り立たないと心底思った。それからは自らも倉庫兼事務所の清掃を毎朝することにした。決して自慢話でない、気付きの大切さを知ってもらいたいからだ。

 新入社員の皆さんも、職場で疑問に感じること、おかしいと思うこと……、新たな気付きをいろいろ見つけることになる。そのとき、立ち止まって考えてみる、そしてできることがあればやってみる、解決できなければ同僚や上司にも相談する。

「Plan」「Do」「Check」「Action」の「PDCA」が大事なのはどんな仕事でも一緒だ。その前にまず気付く力が必要で、マンネリ化している先輩社員も忘れていた気付きを新入社員から学んで気付いてほしい。

 新入社員は3年で3分の1が辞めるといわれる時代、まずは自分の持ち場で与えられた仕事をし、そうする中で必ずいろいろな発見も生まれてくる。その上で新たなやりたい仕事を見つけることができれば転職することは一向に構わない。ただ、今の仕事が嫌だ、向いていないと考える前に、好きで楽しく働けるように行動してみる。

 流通業は生活者のニーズ、要望、欲求に応える変化対応業。生活をより便利に、より快適に、より楽しくするために新しい提案も行っていかなければならない。そのためには現状を的確に把握し、常に問題意識を持って仕事に取り組んでいけば、何かしら自分がしなければならないことも自ずと見えてくる。

 やりがいを考える前に、肩肘張らずに、仕事を覚えて、いろいろ考え、面白さを発見する。ちゃらんぽらんだった新入社員でも発見できたので、皆さんはより早くより簡単に見つけることができる。まずは就職おめでとうございます。