photo/増田義和

 ファーストリテイリングはユニクロの有明新本部「ユニクロ シティ トウキョウ」(東京・江東)を2017年2月に稼働させた。
 狙いは名実共に「ファーストリテイリング」(早い小売業)化に踏み出すこと。柳井正会長兼社長は一連の有明プロジェクトを「全社の改革運動だ。アパレルの製造小売業から情報製造小売業(デジタル・コンシューマー・リテール・カンパニー)に変わり、未来をつくる仕事にしていく。ここが世界のイノベーションとクリエーションの中心になる」と話す。
 この新オフィスの構造とそれが稼働することによってユニクロが狙っている「服作り改革」についてレポートする。

1 物流倉庫と仮想店舗を併設しスピードアップ

 新オフィスは大和ハウス工業と共同で建設した有明センター(1~6階、延べ床面積11万2400㎡)の6階にある。

 建物の1~4階と5階の半分が有明倉庫で、5階の残り半分は都内湾岸エリアから移設したユニクロの仮想店舗。商品構成や陳列、オペレーションなどをテストする。それを倉庫と本部と直結させ、時間やコストの大幅な短縮につなげる。

2 ワンフロアに機能を集約し一体感や交流を強化

ユニクロ シティ トウキョウ」のオフィススペース「ワークロフト

 オフィスの面積は約1万6500㎡。ユニクロの商品・商売機能に携わる約1000人をワンフロアに集約することにこだわった。従来は東京・赤坂の東京ミッドタウンの7フロアに分かれていた。

 物理的な近さだけでなく、スタッフ同士の交流を増やし、一体感を持って働けるように見通しの良い造りにした。

3 即断即決即実行できる部門横断型の働き方にシフト

ストリートを挟み左右に配置された社員のワークスペース。視認性を高めて一体感を持たせている。出入り口にポーチと呼ぶソファ&テーブルコーナーを置き、気軽に打ち合わせや懇談ができる

 オフィスを縦断する190mの「ストリート・オブ・ドリームス」を挟んで左右に「ワークロフト」と呼ぶワークスペースやミーティングスポットなどを連ね、コミュニケーションを活性化。さらに「これまでのリレー方式から、各部署の担当者がチームになって同時に動き、即断即決即実行できるコンカレントな(同時進行の)働き方へと変える」と柳井社長。チーム編成やオフィスのレイアウトも部門横断型とし、業務を高速化させる。

4 インスピレーションを与える設計デザイン

有明本部の受付。雰囲気はさながらクラシックなホテルのロビーのようだ
ユニクロのコンセプトや歴史を体感できるゾーン。世界の旗艦店、ブランドアンバサダー、注目コラボのビジュアルなどの大パネルを飾る

 新オフィスのキーワードはリスペクト(敬意)。社員が楽しくクリエーティブに働けるような内装デザインとしている。

 入り口はクラシックなホテルのロビーのよう。まずはユニクロのアイデンティティやコンセプトが感じられるようなヒストリーホールを設け、象徴的な店舗やユニクロが展開しているキャンペーン、コラボレーション、グローバルアンバサダー(テニスの錦織圭選手などの親善大使)などの大型ビジュアルを掲示。随所にデザイナーズ家具やデコラティブな照明を配し、デザインオフィスさながらの仕上がりになっている。

5 最大2万5000冊を所蔵できるリーディングルーム

書籍で囲まれた知の宝庫。柳井社長やジョン・ジェイ氏、佐藤可士和氏らが選んだアート、カルチャー、ビジネス、ファッション、哲学などの多彩な書籍をそろえる。開設時には2500冊、最大2万5000冊を蔵書できる
コーヒーや軽食を提供する。約60㎡でわずか14席とスタンディングスペース、食を媒介にリラックスしてコミュニケーションを図れるスペースとして期待される。

 知見を広げるため、柳井社長やジョン・C・ジェイグローバルクリエイティブ統括、佐藤可士和クリエイティブディレクターらが選んだ書籍を備える「リーディングルーム(図書室)」を用意。ソファやテーブルも配し、ミーティングスペースとしても活用できる。コーヒー・軽食を供する「有明カフェ」(運営はトランジットジェネラルオフィス)も併設。部署を超えたスタッフの交流を期待する。

6 未来の知見や気付きを得る多機能スペースを新設

未来の知見や新たな気付きを得る場所として新設。デジタルモニターを配し、外部のクリエーターやアーティスト、ビジネスリーダーなどとの交流の拠点として発展させていくプロジェクトの拠点でもある

 新オフィスの目玉の一つが、「ザ・アンサー・ラボ」だ。過去から知見を得るリーディングルームに対して、未来の知見や新たな気付きが得られ、課題を解決できるスペースと位置付ける。複数のモニターから最新情報を発信。外部のクリエーターやビジネスマンなどとつながり、クリエーティビティや改革を促進する。

7 オフィスの最奥に位置するザ・グレート・ホール

 周囲を階段状に設計し、大規模なカンファレンス(会議)も開ける大ホール「ザ・グレート・ホール」を配した。その他撮影などもできる「クリエイティブスタジオ」、東京タワーやレインボーブリッジなど東京湾が見渡せる社員食堂「デイリースペシャル」も設けた。

服作り改革

「情報製造小売業」に転換、企画・生産期間を大幅に短縮

 ユニクロはこれらの「クリエーティブな働き方」とテクノロジーの活用で、従来の「自ら服を企画・デザイン・生産・物流・販売するアパレルSPA(製造小売業)」から、データと顧客の声に基づいて「作ったものを売る商売から、求められているものだけを作るサステイナブル(持続可能)な商売への変革」に挑戦する。

 並行して、商品開発改革やサプライチェーン改革にも取り組む。服作りでは、企画・デザイン、マーチャンダイジング、生産、マーケティングなどの仕事をリレー方式から同時進行化(これを「ユニクロ」はコンカレントと呼ぶ)し、業務を高速化する。

 また、情報プラットフォーム(基盤)を開発。これまで作ってきた過去の商品情報(デザイン、素材など)のアーカイブをデジタルライブラリー化し、AI(人工知能)やアルゴリズム(問題を解くための手順を定式化したもの)を使って、顧客の声やSNS(交流サイト)からの情報、世の中の気分やトレンドと掛け合わせて企画・デザインを実施。開発時間の短縮や的中率の向上につなげる。最適な生産数量や生産地・生産工場、物流ルート、投入店舗、投入数などにも情報を活用する。

 開発サイクルも、これまで6カ月~1年を要していた企画・生産リードタイムを大幅に短縮。シーズン前には企画を終わらせ生産に入り、大規模な広告宣伝やチラシ、値下げなどによって売り減らしてきたものから、顧客ニーズを基点に売れる商品だけを素早く作る仕組みに大転換する。パートナー工場とも月次だった生産サイクルを週次の作り方にシフトし、期中生産比率を高める。

顧客の声を反映した個別大量生産への挑戦

 「メード・フォー・オール」(全ての人のために)をスローガンに掲げてきたが、「メード・フォー・ユー」(あなたのために)を実現し、マスブランドながらも一人一人にジャストフィットする「マスカスタマイゼーション」(個別大量生産)にも挑戦する。

 顧客の声をエンジンとして事業活動を行い、服を作る人と着る人の境をなくし、リアルタイムで商品開発をすること。世界中のどこにでも届けられるようにすることなどで、作ったものを売るのではなく、究極の形として受注生産型にシフトすることにより、無駄をなくしてサステイナブルな社会づくりにつなげていきたいという。

 「ジーユー」に続きようやく今春からRFID(無線自動識別)を導入。その商品がサプライチェーン上で今どこにあるかが分かるように「見える化」し、最適な数量や工場、物流ルートなどに反映する。空輸や倉庫の自動化で物流も早める。

 適時・適品・適量を生産・販売する「服作り改革」と真の意味での「ファーストリテイリング」化の実現が、「ザラ」を擁する世界ナンバーワンのSPA企業、インディテックスに追い付き追い越す必要不可欠な条件になるだろう。

有明本部のオフィスレイアウト図


※本記事は『ファッション販売』2017年6月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。