人工知能(AI)は人間の職を奪うのではなく、人間と役割分担をすることで労働力不足を解決してくれる存在になる。機械学習を「PDCAサイクルを回すもの」と考えれば、人間はPlanの部分を担当するのが自然なのだろう。ファーストリテイリングが進めている「有明プロジェクト」でも、AIは働き方を改革する重要な役割を担っている。

「人間と協調するプログラム」がAIの真の姿

 AIという言葉からは、Googleの「AlphaGo」のように人間よりも高い精度で正解を導き出すプログラムを連想する人も多いだろう。この連載の第1回でも少し触れたように、AIとしての「AlphaGo」はディープラーニング(深層学習)に分類される。さらに大きな分類では、ディープラーニングはコンピューターに学習させる「機械学習」に含まれる。機械学習自体も、多種多様なAIの一部にすぎない。

 機械学習についてはコンピューターがPDCAサイクルを回していると思えばイメージしやすい。PDCAのP(Plan)は、KPI(重要業績評価指標)やAIのアルゴリズムを設定する部分に当たる。後はアルゴリズムに従って、D→C→Aを自動的に行ってくれる。AIの種類によっては、Pの部分も毎回人間が介在することなく、AIで修正することも可能だ。

 AIは過去にも注目を集めたことが何度かあり、現在は「第3次ブーム」だと言われる。第3次ブームを起こすきっかけとなったのが、ディープラーニングの研究や実用化が進んだことである(AlphaGoが華々しい成果を上げたことも影響しているのだろう)。

「AIが人間に取って代わる」と恐れられるのは、AIに自然言語で指示を与えると、その通りの作業を忠実に実行してくれるからだ。実態はプログラムでありながら、人間の言葉を理解して反応してくれるので、あたかも人格があるように感じることもある。

 人工知能学会の山田誠二会長は、AIが人間の職を奪うという表現は誤りであり、AIと人間は協調していく関係になると説く。AIは単なるプログラムであるという基本的な理解が重要で、過度なAIの擬人化は非生産的であると指摘している。その上で、AIと人間が役割分担をすれば、AIは日本における労働力不足の解消に貢献するはずと期待を寄せている。

マーケティングリサーチャーの代替可能性が低い訳

 AIと人間の協調の形として、PDCAサイクルの「P」の部分を人間が担うと記したが、マーケティングオートメーション(MA)はプロセス自体がPDCAサイクルを回せるように設計されており、多くの場合、Pの部分は経験を積んだマーケッターに委ねられる。

 Planを人間が担う意味は、高い経験値が要求されることもあるが、人間の特性である創造性を発揮できる部分でもあるからだ。MAに搭載されたAIができるのは、「過去に実施した施策をどう組み合わせれば期待値が最も高くなるかという過去データの最適化」にすぎない。つまり、これまで実施したことがない新しい販促方法を計画するのは、経験を積んだ人間でないとできないというわけだ。

 そう考えると、「AI時代」に人間が担当する業務は「AIに代替が難しく、かつAIを活用することで効率化できる業務が理想的」といえるだろう。たびたび引用している野村総合研究所の調査報告書では、「データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業は人工知能等で代替できる可能性が高い傾向がある」とする一方で、マーケティングリサーチャーは「人工知能やロボット等による代替可能性が低い100種の職業」に含まれている。マーケティングリサーチャーにはそれだけAIでの代替が難しい創造性や非定型性の要素が多いということだ。

 市場調査業界や情報サービス業界でもAIの導入が進んでいる。AIのノウハウを得るために、AIを使った分析サービスを行う企業を買収する例も目立つ。しかしながら、分析そのものをAIに任せるつもりはないようだ。イギリスの調査会社IHS MarkitのCEOは、「人工知能は、分析の専門家が情報を素早く提供することには役立つが、彼らの豊富な経験に置き換えることはできない」と、市場分析が専門家の領域であることを強調する。

協調の理想的な形を示す「有明プロジェクト」

 ユニクを中心にジーユーなどを展開するファーストリテイリングは、ITの最新技術を積極的に取り入れていることでも知られる。同社のビジネスモデルは、SPA(製造小売業)と表現されるが、2017年からはAIなどを取り入れて、「情報製造小売業」に進化することを表明していた。

 その「有明プロジェクト」とは、2017年2月から稼働した有明の新社屋で行われている改革のコードネームだ。プロジェクトは、「服を作る人と着る人の境をなくす」「一人一人に寄り添う」「次の世代につながるサステナブルな社会を作る」という3つを目指す壮大なもの。目標実現のために、全世界で10万人を超える従業員が部門ごとにワンチームで連動し、国境なくダイレクトにつながっていく働き方に変えていくという。

 有明プロジェクトのために新しく開発された情報プラットフォームにはAIが導入されており、過去に作られた商品のデザインや素材に関する情報をデジタルライブラリー化し、顧客から寄せられた声やSNSでの口コミ情報、最新のトレンドニュースなどをAIが勘案して企画やデザインを行う。

 これにはAIにリアルタイムで分析させて、消費者に求められているものだけを素早く作れる体制を構築する狙いがある。企画、デザイン、素材調達、生産、販売までのサプライチェーンを一新して、これまで商品企画から販売開始まで1年かかっていたところを2週間に短縮する目標を掲げている。

 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、AIによってお客さまが便利になることは、自分たちが率先して取り入れていくと明言する。AIの効果として、『全部署の人が共通のデータで同じビジネスプロセスを経験しながら情報を把握することで、仕事の効率が上がる』ことを挙げている。

 どのようなAIが使われているかは外から知ることはできないが、個々の能力を最大限に引き出し、世界中の従業員とボーダレスでつながることにAIが生かされているように見受けられる。従来の単純作業や業務をAIに代替させることは当初から想定していないようだ。

 有明プロジェクトはAIと人間が協調する理想的な一つの形を示してくれているのかもしれない。