企業にとって、人工知能(AI)やロボットの導入は人員を削除し業務効率を改善して高い収益を実現できるチャンスに映る。そうした中、企業で働く人はAIでの代替が難しい業務をすることになるのか、従来の業務でAIと協業することになるのか。これから人が果たすべき役割について考えてみた。

小売業では「スーパー店員」「レジ係」が対象に

 どのような作業や業務がAIやロボットに置き換わるのだろうか。連載第1回で紹介した野村総合研究所の報告書では、コンピューター技術によって自動化される可能性が高いのは、「特別の知識・スキルが求められない職業」に加え、「データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業」であると分析されている。

 野村総合研究所公表の「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」には、店舗運営関連の職業では「スーパー店員」や「レジ係」などが含まれている。

 既に売場ではロボットやデジタルサイネージ、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などの技術を使った効率化・自動化が進んでいる。

 NECの調査によると、小売店の従業員が行う業務のうち、約1/4をレジ対応など決済業務が占めているという。スーパーマーケットに続き、コンビニでもセルフレジ導入を検討する動きが出てきているが、スマホ決済などのキャッシュレス化が進めば、決済に関する業務を大幅に効率化できるだろう。セルフレジの操作も、現時点では利用客が商品のバーコードをスキャンする形式が一般的だが、レジ台に商品を並べるだけでAIが商品を認識する技術も開発されている。

 Amazon Goでは商品棚から商品を手に取る映像を解析するために全ての商品棚が死角なく撮影できる数のカメラを設置する必要があるが、レジ台に並べた商品だけを認識して決済する方法なら、レジ台を撮影するカメラだけで対応できる。

新入社員にもベテラン社員に近い成果が期待できる?

 AIによって自動化が進むと期待されているのが、バックヤードやバックオフィスの業務だ。

 特に銀行などの金融業界では、AIに職を奪われてしまうのではないかという危機感が強い。アメリカの大手銀行シティグループは、銀行のバックオフィス業務の多くが自動化され、2015年から2025年までの10年間に欧米の銀行員の約3割が職を失うと予測している。

 銀行の場合は、電子マネーの普及によるキャッシュレス化や、フィンテックによる銀行業務自体の簡素化などの要因が大きく影響している。キャッシュレス経済が急速に進むスウェーデンでは、現金による支払いを拒む小売店や飲食店が増え、ここ10年間で市中に流通する現金は半減。それに伴って、現金を一切扱わない銀行の支店も珍しくないという。

 こうした例を見ても、AIでバックオフィス業務が自動化されたら、さらに銀行員の数が減るのは当然の流れともいえる。

 日本でも、みずほ銀行などのメガバンクが思い切った人員削減の構想を明らかにしている。人員削減の根拠としては支店数を減らすのがメインで、AIを積極的に取り入れて業務を効率化することで、収益力を高められるとしている。

 ただ、同じ金融業界でも、損害保険大手の三井住友海上火災保険はAIの導入による人員の削減は考えていないという。AIに営業部門における事務作業の9割を代替させることで、全社ベースで見た業務量は2割減少すると試算しているが、AIの活用で業務がなくなった社員は、有力代理店の開拓など営業支援に配置換えする他、損害査定や商品開発など機械化できない高度な分野に人材を集中して業務改革を目指すという。

 企業の経営者が最も期待するのは、ベテラン社員の経験や勘に基づいた暗黙知を言語化、公式化すること。AIで暗黙知が言語化できれば、新入社員にもベテラン社員に近い成果が期待できるので、企業がAI導入に前向きなのは当然といえるだろう。

MAを導入してもマーケッターが不要にはならない

 今後、AIやロボットに代替される業務が増えることは間違いないが、もちろん、人間でないと行えない業務も少なくない。前述の野村総合研究所の報告書では、「抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業」や、「他者との協調性や交渉、サービス志向性が求められる職業」については、AIやロボットでの代替は難しいとしている。

 マーケティングオートメーション(MA)はマーケティングの自動化を目指すソリューションだが、MAを導入したからといって、マーケッターが不要になるわけではない。自動化できる部分はMAに任せても、KPI(重要業績評価指標)の設定など全社的な戦略を企画・立案するのは人間でないと無理だろう。

 つまり、AIの効果を最大化できる知識を持った人材は新たに必要になるわけだ。

 ハーバード・ビジネス・スクールの竹内弘高教授は、「ゼロから1を生み出すイノベーションは人間なしにはあり得ない」と指摘する。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、AIの役割を「クラウド上にあるビッグデータを使い、人間だけでは気付かない部分を認識すること」と表現する。これらの言葉は、業務においてメインになるのは依然として人間であり、人間がAIを使いこなせるようになることが重要であることを示したものとも受け取れる。

「AI時代」に求められるのは、AIを単なるツールではなく、時には部下や助手のように使いこなして業務の効率を向上させるスキルではないだろうか。これはAIを、人間が行う業務を高度にサポートしてくれる存在と考えれば分かりやすいかもしれない。AIによる代替可能性が高い職種であっても、AIと人間が互いに補完し合えるなら、職を失うリスクは小さくなるはずだ。

 とはいえ、AIによって人間の仕事が減ってしまう事実は決して軽くはない。AIの実用化で先行するアメリカでは、AIやロボットを従業員と見なして課税する案など、収益力が大幅に向上するだろう企業からの税収を増やし、それを財源にベーシックインカムを導入することなどが検討され始めている。AIとベーシックインカムはリンクさせて考えるべきではないかもしれないが、何らかの対策を検討すべき時期に来ていることは確かだろう。