重要になる「AIを活用する業務の見極め」

 今後、小売業のデータ活用方法で避けられないのがAIとの組み合わせだろう。人手不足が深刻化する小売業界では、さまざまな業務を自動化、効率化していかなければならない。

 新しい方法で収集したデータも使うことで、AIで行う需要予測の精度が上がり、今よりも欠品やロスの少ない自動発注システムもできるだろう。だが、決してAIが全ての問題を解決してくれるわけではない。手法や投入するデータによっては、どうしてその結果が出たのか、人間が解釈しづらい場合がある。

 例えば、AIで今まで人間では見つけられなかった、52週の重点商品を導けるかもしれない。だが、結果からその理由を人間が解釈できなければ、その商品はお客さまのどんなニーズに応えているもので、店頭ではどんな商品と組み合わせてどういった訴求をしていけばいいのかというプランニングができない。

 売場や販促施策への展開はクリエイティブ性が高い業務であるため、ここは人間が担当しなければならないことは当面変わらないだろう。そういった意味でAIを活用する業務の見極めも重要だ。

今後、データは従業員への働き掛けに活用される

 これまで見てきたように、小売業では主に顧客行動に関わるさまざまなデータを収集できるようになる。こういったデータを分析することによりお客さまをもっと知ることができるようになるだろう。

 だが、実際には分析結果を現場のオペレーションにつなげなければ意味がない。このことは前回の記事でも触れたが、データを分析し、仮説を立て、プランニングしても、実際の店舗では他にやることが多く、店頭で実証することすら難しいのが現実かもしれない。ある小売企業で「よく店頭実現率は “良くて40%” と言われるが、この数字は40年間ずっと変わらずに言われている」と聞いた。

 つまり、お客さまに働き掛けるためのデータと分析だけでなく、これからの小売業では従業員への働き掛けをするためのデータ活用も必要になってくることを意味している。例えばこんな活用が可能になると小売業の人手不足にも対応できる。

◎店舗に届く指示書の中で、その店舗がその日に行えば、売上げに貢献する施策をデータから予測してピックアップしておく

◎従業員の勤務スケジュールやピックアップした施策、その日の仕入れ、天候など、さまざまなデータ分析から、それぞれの従業員が優先的に対応しなければならない業務は何かを導く

◎従業員は出勤時にバックヤードのモニターやデジタルサイネージでその日の自分の業務プランや重点施策について確認をして売場へ出る

 やるべきことを減らした上で、やるべきことを確実に行ってもらうことで店頭実現率を向上させる。つまり、データを基にして業務を効率的に割り振り、浮いた時間で新しい取り組みをして、お客さまの心をつかむ売場を作るのだ。

 合わせて、人材育成もやっていかなければならないのはもちろんだが、人手不足を補いつつ、多様化するお客さまへのキメ細やかな対応をするためのデータ活用方法としてイメージいただけたのではないだろうか。

忘れてはならない「今の業務の課題は何か?」

 技術の進歩によりあらゆることがデータ化される。今後の小売業は特にデータ活用が進む業界の一つになるだろう。新しいデータが収集できると、「あんなことが分かる」「こんなことが分かる」と思いはせてしまうこともあるかもしれないが、分析の目的を見失ってはならない。

 今の業務で何が課題で、どんな仮説を立て、何をしてどうやって検証するのか。これはどんなデータを活用する場合でも変わらない。

 これからの小売業でデータ活用は避けられないことだが、最初から構え過ぎずに、まずは日頃の業務のちょっとした課題について、身近にあるデータで簡単な分析を行い、限られた範囲での実験から始めてみるのがいい。

「さあ、あなたが今、業務で抱えている課題は何だろうか?」

(株式会社インテージ 事業デザイン企画部 川畑 夏奈)