スーパーセンタートライアル アイランドシティ店では、端末付きのカートも導入されている。プリペイド機能付きの会員カードをカートの端末に読み込ませ、買物をしながら商品のバーコードをスキャンしていくことで、レジでの会計が不要になる。

これまでこの連載では小売業におけるビッグデータ活用について述べてきた。身近にあるPOS/ID-POSデータを中心に、データの分析手法や分析の型や、分析結果を活用するための組織連携や分析環境を解説してきたが、最終回となる今回は「これからの小売業のビッグデータ活用について」。先端事例や活用イメージを挙げながら考えていこう。

今、EC企業で「お客さまの理解」が進んでいる

 生活者の行動がオフラインからオンラインに拡大することで、オンラインでの行動がデータ化されてきた。さらに、オフラインの行動さえもまた、センサー技術の発達などによりデータ化が進もうとしている。これらのデータがひも付いていくことで、今後、小売業が保有するビッグデータはPOS/ID-POSに留まらず、ますます大きく、広くなっていく。

 既にECを展開している小売業は自社のECサイトでお客さまがどんな検索をしたか、どんな商品や特集に興味を持ったか、どこから自社サイトへ来たのかなどの詳細なログデータを分析し、お客さまの理解を行っている。さらに、ポイントカードなどのIDと名寄せをして、リアル店舗での購買データとひも付けられれば、一層、お客さまの理解が広がる。

 例えば、リアル店舗でのデータ分析で、あるお客さまに「簡便調理志向」があると分かったとする。「ネット店舗での買物は週末に1回、日持ちのする食材を多めに買い、リアル店舗では平日に2回くらいのペースの補充買い」という使い分けをしている。このお客さまにリアル店舗、ネット店舗のそれぞれでお薦めする商品はどういったものがよいだろうか。

「ネット店舗では追加の1品として、汎用性のある“めんつゆ”を簡単レシピとともにお薦めする」のはどうだろう。重いものを持ち帰らなくていいという利便性も手伝って、ついでにカゴに入れてくれるかもしれない。

 また、週末にネットで食材が多めに買われているということは、週末に平日分の作り置きをしているかもしれない。「リアル店舗では、作り置きが切れてくる木曜~金曜くらいで、“おかず料理キット”をお薦めする」のはどうだろう。

 もちろん、そのお客さまが実際にどういった生活をしているかは分からないが、データを組み合わせ、分析することで、根拠に基づいた仮説を立てることができ、またこれを実証して効果検証をすることで、次の仮説立てにつながっていく。

リアル店舗もお客の行動をデータ化し始めている

 ECのサイト上で収集できるのと同様のデータを、リアル店舗でも収集しようという動きも最近、活発になっている。

 先日オープンした、スーパーセンタートライアル アイランドシティ店では、店内に700台のスマートカメラが設置されており、棚そのものの状況に加えて、お客さまが棚の前で何秒立ち止まったか、どの商品とどの商品を比べたか、カートに入れるまでにどれくらいの時間がかかったかなど、店内でのお客さまの行動を詳細にデータ化できるという。

 こういった情報と商品の売上げデータや売場レイアウトを組み合わせて分析することで、お客さまのニーズ、商品陳列などのユーザビリティを理解し、商品開発や店作りに活用することができるだろう。

 アイランドシティ店では、端末付きのカートも導入されている。プリペイド機能付きの会員カードをカートの端末に読み込ませ、買物をしながら商品のバーコードをスキャンしていくことで、レジでの会計が不要になる。

 これだけでもお客さまにとってはレジ待ちの時間を短縮し、店舗にとっても人手不足に対応する画期的な仕組みだが、さらに(トライアルが本当に実施するかどうかは別として)カートを利用しているお客さまとカメラで捉えた購買行動データをひも付けられれば、データ活用の幅はますます広がるだろう。

 例えば、購買履歴や購買行動データからお客さまの買物特徴を把握しておく。次にそのお客さまが来店し特定の場所を通ったタイミングで、壁面に設置した大きなデジタルサイネージで、その人の興味を引きそうな商品をお薦めするといったことも可能になるはずだ。

ポイントカードなしでID‐POSが出来上がる

 カメラで収集したデータの活用はこれから広がりそうだ。FocusWEBの持つ顔認識システムは、人の顔の特徴点をデータ化し分析することで、その人の性別や年齢などの属性を推定できる。このシステムでは1秒ごとにカメラの映像を分析し、顔の特徴点について平均値を算出することで、属性推定の精度を上げることができている。

 また、平均値があることで同一人物認識も可能となっている。店舗の入り口などにカメラを設置して一度、お客さまの顔をデータ化し平均値を取っておけば、次に来たときにはそのお客さまが来店したことを認識できるのだ。

 こういった技術の小売業での活用イメージとしては次のようなものが考えられる。

 レジのそばにカメラを設置しておき、顔が認識された時間と、POSデータのレシートごとのタイムスタンプを突合することで、顔データのIDごとのレシートを蓄積する。つまり、ポイントカードなどの導入なしでID-POSが出来上がるというわけだ。

 方針としてポイントプログラムを導入しないが、顧客データの分析をもっと詳細にしたいという企業にとっては一つの選択肢になるだろう。

位置情報が商圏分析に活用できる!

 GPSやbeaconなどによる位置情報を顧客分析に活用することも今後増えてくると予想される。

 ドコモ・インサイトマーケティングが展開するモバイル空間統計は、ドコモの携帯電話の位置情報から推計される、全国の1時間ごとの人口統計情報だ。これまで商圏分析などでは国勢調査や家計調査のデータを使うことが一般的であったが、最新のデータを入手するのは難しく、また扱えるのは居住者人口のデータに過ぎなかった。

 モバイル空間統計では、1時間ごとの人口が最小では250mメッシュで把握できる。またドコモ利用者の属性(性別や年代)情報も推計に使うため、自店の商圏にどういった人がいるのかを時間帯ごとに把握することも可能だ。

 これにより、新店出店時の商圏分析で、居住者の人口だけでなく、通勤や他施設への往来でどれくらいの人が商圏に出入りするかを把握することができるようになり、新店のポテンシャルの見方も変わるだろう。

 また、どんなニーズを持った人が店舗の周りにいるかが時間帯ごとに分かれば、利用者ターゲット像をより具体化し、店舗のコンセプト作りに活用もできる。