国内では、2018年2月に福岡でオープンした「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」がスマートストアの最新事例といえるだろう(写真右上が向かい側の棚を撮影するカメラ)。

小売業界はコンピューター技術を導入することで進歩を続けてきた。ここ数年の変化だけ見ても、スマホ決済に代表されるキャッシュレス化が進みつつあるし、主にコンビニに設置されているキオスク端末の機能も高度化してきている。人工知能(AI)の実用化が進むにつれて、ますます店舗のスマート化が進むことは間違いない。

AIが販促シナリオを修正し、KPIを改善

 前回、小売業界向けに開発されたAIの事例を紹介したが(第3回「小売業界向けのAI活用はここまで進んでいる!」)、どれも大きな可能性を秘めているように見える。とはいえ、AIについてはまだ活用手法が確立されているとはいえず、各社が多大な先行投資を行っているのも、AIで何ができるのかを試す意味合いが強い。将来的には業績への大きな貢献が期待されるものの、今は試行錯誤を繰り返しているステージであるといえるだろう。

 そのため、従来の手法を生かしつつ売上げを増やしたいと考えるのであれば、AIを使ったMA(マーケティングオートメーション)を導入するのが実践的かもしれない。それなら、これまで行ってきた販促シナリオの設計、評価、改善作業といったプロセスを自動化してくれるので、小売りの現場としても導入しやすい。

 MAは誕生した経緯から、ECサイトなどウェブマーケティングに軸足を置いたソリューションが多かったが、最近では小売業や流通業に特化したMAも登場している。日立製作所(本社:東京都)が2017年10月にリリースしたMAは、ある小売業者でPoC(概念検証)を行った成果を商品化したもの。商品や消費者の情報、購買履歴などのデータをAIが学習して、どの商品の情報を誰にどのようなタイミングでどう届けるかという販促シナリオを提案してくれる。

 販促の結果に基づいてAIがシナリオを修正して、売上げや利益、会員購入比率といったKPI(重要業績評価指標)を改善していく。概念検証を行った小売業者では、40項目に及ぶデータについて10数週間かけて販促シナリオを改善した結果、売上げ、荒利益とも前年比で4%から5%向上した。

 MAを選択する際には、分析できる範囲の拡張性があるかどうかも見極めたい。顧客や見込み客に対して情報を届ける方法としては、メールマガジンなどメールが大きな役割を果たしてきた。配信したメールにどんな反応をしたかというデータを解析し、次回配信するコンテンツ構成を自動的にパーソナライズしたり、受信者の興味度合いをスコアリングできる機能も登場しているが、今後は、LINE@などのスマホ向けサービスを使った情報配信や、アプリ向けのプッシュ通知などスマホを使った情報提供の効果を分析できる機能が求められるだろう。

導入に向けてビッグデータの収集を始めたい

 AIを使ったソリューションは、ソフトやシステムを設置するだけですぐに使えるわけではない。適切なデータをそろえた上で、AIに学習させなければならない。

 IBM(本社:米国)が提供するWatsonは、三井住友銀行など日本の大手銀行のコールセンターで既に導入されている。オペレーターが電話で受けた質問をキーボードで入力すると、Watsonがリアルタイムで質問内容を理解して、最適な回答をモニターに表示する。オペレーターはモニターに表示された回答を読むだけで、ベテランの担当者とほぼ同じレベルの対応ができるという。Watsonが、銀行業務に関するあらゆる問い合わせに対応できるようになったのは、これまでコールセンターに寄せられた膨大な数の質問とその回答を記録したビッグデータを、時間をかけて何度も学習したからである。学習が未熟だと、AIの回答も的外れな内容になる。その都度、どこが間違っているのか、どう回答するのが正解なのかをAIに教え込むという作業が必要になる。

 前述の日立製作所のMAの場合も、導入企業から分析対象となるデータ13カ月分を事前に提出してもらって、KPIを何に設定するかなどを両社で明確化した上で運用を開始する。分析すべきデータがそろっていない場合は、当然ながらデータの収集から始めないといけない。

 AIを使ったソリューションの導入には、AIに学習させるべきデータが十分にそろっていることが前提条件になる。将来、AIを導入するハードルが低くなるのを見越して、今のうちから必要なビッグデータの収集に着手しておきたい。

 ビッグデータの収集を低コストで実現してくれるのが、IoT(Internet of Things)である。小型のセンサー類をネットワーク化することで、従来は収集が難しかったデータを安価で収集できるようになった。IoTの具体的な活用シーンとしては、店頭の商品棚におけるリアルタイムの棚卸しなどが挙げられる。Amazon Goのように、来店者の行動を全てカメラで撮影して画像解析するとなるとコストもかかるが、商品棚に設置する小型のセンサー類を上手に活用すれば、店頭における商品の動きをリアルタイムで記録することも難しくはない。

 AIに何を分析させて、何を提案してもらいたいのかが明確になれば、そのためにどんなデータが必要なのか、おのずと決まるはずだ。

「スマートストア」開発の流れに乗り遅れるな

 インターネットやITによって従来の性能や形を大きく変えたものは、よく「スマート○○」と表現される。従来の携帯電話から大きく変化したという意味でスマートフォンと呼ばれるようになったのが「スマホ」だ。昨年あたりから、「スマートストア」という言葉も聞かれるようになった。スマートストアの厳密な定義はないが、やはり事例としてよく取り上げられるのがAmazon Goである。

「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」には入店者の顔を認識する100台のカメラ(左)と、商品棚を常時撮影する600台のカメラ(右)が設置されている。

 国内では、2018年2月に福岡でオープンした「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」がスマートストアの最新事例になるだろうか。同店は入店者の顔を認識する100台のカメラと、商品棚を常時撮影する600台のカメラが目立つ位置に設置されており、初めて入店した人にはかなりインパクトのある風景に映る。撮影された映像はAIで解析されて、売場の改善やマーケティングデータに活用される。

 バーコードリーダーやタブレットが搭載された「スマートレジカート」が用意されており、利用者はプリペイドカードでレジカートにログインして、あとは欲しい商品をバーコードリーダーにかざしてカートに入れていくだけ。出口でタブレット画面の決済ボタンを押すと、レジを通ることなく精算が完了する仕組み。

 Amazon Goは、スマートストアの一形態にすぎない。中国では、ECで成功を収めたAlibabaが、「人、モノ、倉庫、配送」において、オンラインとオフライン(実店舗)を融合した新たなビジネスモデル「新小売」というコンセプトを掲げてスマートストアの出店に力を入れている。一例としては、AR技術を駆使して衣料品を仮想的に試着できる「マジックミラー」を設置した店舗や、RFIDタグ対応のデジタル画面の前に商品見本を置くと、ECサイトでの在庫状況やレビューなどの情報が表示され、QRコードを読み取るだけで注文できる無在庫の店舗などである。

 利用者の立場からみると、スマートストアとは新しいショッピング体験が楽しめる店舗であると表現できる。一方、店舗を運営する側からはAIやAR、IoTなどの技術を使って初期投資を抑え、運営を効率化することで収益を最大化できる新しい形態の店舗といえるだろう。現時点では、AIの導入コストは高くつくかもしれないが、将来的には大幅にダウンすることが予想される。