タイではメーカーがショーケースを提供する。ブランドカラーの赤でまとめたショーケースはインパクト抜群。

 2016年1月。タイで「アイスクリーム狂想曲」が鳴り響いた。

 主役は「ジャイアントコーン」「パナップ」「セブンティーンアイス」「パリッテ」。4シリーズ計8アイテムのグリコのアイスクリームだ。入荷するや否や商品が店頭からすぐに消えてなくなるその売れ方は「飛ぶように」という表現がふさわしい。とりわけすさまじかったのは「ジャイアントコーン」と「パリッテ」だ。

最も売れている「パリッテ バニラ&ショコラ」。パリパリとしたチョコレートが特徴のコーンタイプアイスクリームだ。
「パリッテ」に次ぐ人気の「ジャイアントコーン」(25バーツ)。競合の「コルネット」の牙城に迫っている。

 売場に置かれた真っ赤なグリコのショーケースをのぞいてもお目当ての商品は見付からない。その一方で、SNSには「ついにグリコのアイスクリームを食べました」といううれしそうな画像付き投稿が相次いだ。見付けたらハッピー、食べられたらラッキー。当時、グリコのアイスクリームを求めて難民のように店を回った人は多かったに違いない。筆者もその一人である。

 発売から1年半を過ぎた今、ブームは一段落したが、グリコ製品の売れ行きは相変わらず順調だ。グリコの進出に刺激されたのか、長く2位の座に甘んじているネスレも15年11月から積極策に打って出た。グローバル企業ユニリーバのブランド・ウォールズの寡占状態だったタイのアイスクリーム市場の勢力図は様変わりしている。

20、25、35バーツ。空白の中間価格帯を狙った

グリコフローズンタイランドのマネージングディレクターを務める島森清孝氏。

 グリコがタイに進出したのは1970年。今や、タイグリコがタイで生産している「ポッキー」や「プリッツ」はコンビニやスーパーマーケット(SM)に欠かせない定番の人気アイテムだ。40年以上もの月日をかけて培った高いブランド力を背景に、グリコが新たに挑戦したのがアイスクリーム市場である。

 市場規模は14年時点で約360億円規模。毎年順調に拡大を続けているこの市場で、タイグリコは14年秋にまず輸入品でテスト販売を実施した。

「手応えは十分でした。そこで、15年6月にマーケティングを担当する会社としてグリコフローズンタイランドを設立し、製造はタイのチョンタナ社に委託しました。充填機を持ち込んでオリジナル製品をつくれる体制も整備しています」と話すのは、同社マネージングディレクターの島森清孝氏だ。

 アイスクリームの販売に欠かせないコールドチェーンについては、自ら販売網を持つチョンタナ社と日系物流会社のネットワークを使い分けている。

「チョンタナ社は全国に配送網を持ち、冷凍品の地方への配送を得意としています。その一方でバンコク中心部は手薄。そこを補っているのが日系の鴻池運輸の物流網です」

 タイでアイスクリームを買うと、やや溶けかけの商品に当たることが少なくない。明らかにいったん溶けたものを再冷凍したと思しき商品も多い。そうした事態を防ぎ、エリアによって冷凍品の管理状態に違いが出ないよう同社は2社を併用。バンコクを中心に周辺各県のコンビニやSM、食品小売店にアイスクリームを配荷している。

 ラインアップはテスト販売での売上げ上位の4シリーズ。グリコ製品の中で単品では日本で最も売れている「パピコ」が入ってないのは、同じような形状の安価なアイスが既にタイにあり、ここを切り崩すのは難しいという判断からだ。

 味については現地化をせず、発売に踏み切った。グリコのモットーは『日本のブランド、日本の品質や味をそのままタイに広めること』。厳密に言えば、調達できる原材料が同じではないため、若干の風味の違いはあるが、基本的には日本と同じ味を追求している。 

 価格は「ジャイアントコーン」と「パナップ」が25バーツ、「セブンティーンアイス」が20バーツ、「パリッテ」が35バーツ。競合するウォールズの商品は10~25バーツと40、50バーつの2つの価格帯に分かれており、中間価格帯が空白になっていた。グリコが狙ったのは、このゾーンだ。

「この中間の価格帯には必ずお客さまがいるはずだと考えたんです。スタートの段階で価格が高過ぎるとお客さまの獲得に時間がかかってしまうという判断も働きました」

 発売時の配荷状況は、コンビニのセブン-イレブンやファミリーマート、SMのマックスバリュやトップスなどモダントレード(近代的な流通)420店、小規模な食品小売店などのトラディショナルトレードが550店。値頃感のある価格設定で投入されたグリコ製品の売れ行きは冒頭の通りだ。テスト販売が順調だったため、島森氏もある程度の売れ行きは予想していたが、現実は予想を大きく上回った。

「トライアルは取りやすいと思っていましたが、まさかここまでとは。この国はSNS大国。アイスを手に入れるとすぐに写真を撮ってSNSに投稿する人が相次いだのも売れ行きに拍車をかけたようです。SNSで見掛けたアイスを店頭で見付けると、得したような気持ちになるのか(笑)、大量にまとめ買いした人も多かった。これも品切れがひどかった一因ですね」

 もっとも、品切れが深刻だったのは16年1月~2月。この時期、同社はお客からクレームが寄せられれば店頭に謝罪文を張り出し、「品薄商法ではないのか」とSNSに投稿されれば社員が丁寧に現状を説明するなど対応に追われたという。