トライアルカンパニーの「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」にある「レジカート」。商品のスキャンができ、レジに並ばずに精算ができる他、AIを活用したレコメンド機能も搭載する。

実用化されている人工知能(AI)の機能や仕様を見ると、人間が行っていた業務を自動化・効率化させるものと、これまでは人間の経験や勘に頼らざるを得なかった判断をデータ解析により論理的に行うものに大別できる。小売業界に向けて開発されたAI活用の事例からは、どのような業務が人間からAI人にシフトしていくかが見えてくる。

来店客の性別、推定年齢からレジの込み具合を予測

 店舗では時間帯によって混雑具合に波が生じてしまう。そうした中、限られた人員で効率よく店舗運営をすることは古くからの課題であった。最近では接客業務の負担軽減のために、商品や売場の検索ができるキオスク端末の店内設置などが採用されているが、店頭における接客サービスもAIに代替が期待されている分野の一つである。

 AIソリューション事業を手がけるSPJ(本社:東京都)は、小売業に特化した人工知能接客システムを2017年12月にリリースした。小売業の接客でよく使われている単語や業務、対話内容に優先順位を付け、対応頻度の高い対話を重点的にAIに学習させることで、高精度な対話システムを実現した。店頭に設置されたデジタルサイネージにCG化された「AI店員」が表示され、その店員と会話することで接客が行われる。

 銀座の生花店に導入された事例では、来店客との会話内容に基づき、ニーズに最も適したと思われる花を自然な流れで推奨できた。搭載カメラで来店客の顔を認識することで、ヒアリングした顧客情報、購買情報等を記録。日本語だけでなく、英語での会話にも対応するので、インバウンド需要の取り込みにも効果が期待できる。将来的には、中国語や韓国語への対応も予定されている。

 OKI(本社:東京都)が2017年11月に販売を開始した「VisIoT(ビショット)」は、AIとIoTを活用して「レジ適正台数見える化」と「レジ混雑予測」を行うソリューションだ。レジ混雑予測は、店舗の入り口やレジ付近に設置したカメラで来店客の性別や推定年齢を認識し、そのデータを組み合わせて、AIが15分後や30分後にレジに何人のお客が並ぶかを予測する仕組み。何台のレジを開けるのが最適かという予測結果は、店長のスマートフォンに通知される。

 OKIはVisIoTの開発にあたり、2016年4月からベイシア三好店(愛知県)で買物かごにRFID機能を持つICタグを取り付け、来店客の属性別に買い回り時間のデータを収集する実証実験を行った。リアル店舗を運営するベイシア側の知見も開発に生かされているという。OKIは、今後VisIoTに「シフト計画作成支援」「欠品検知」「特定人物検出」「待ち時間予測」などの機能を追加していく構想を明らかにしている。

1秒で「チェーン売上げ11%増」の価格戦略を策定

 店頭で販売する商品の価格は小売業者が自由に決めることができる。業態によっては、店頭での販売価格が実質的に固定化している商品もあるが、総合スーパーやスーパーマーケットなどでは、毎日のように販売価格が変動する商品も珍しくない。チラシに掲載される特売品に代表される値下げ商品は、店舗集客において重要な役割を担っている。しかしながら、どの商品をどのタイミングでどれだけ値下げをすれば、店舗全体の売上げや収益を最大化できるかは経験や勘に頼って判断されることも多い。

 NEC(本社:東京都)は、AIを使った予測型意思決定最適化技術の開発に成功した。これを使えば、店舗単体のみならず、チェーンストア全体の売上げを最大化する商品の値下げプランを瞬時に作成できるという。従来は、BA(ビジネスアナリティクス)ツールの予測シミュレーション機能を使って特売品の種類や販売価格を決定するチェーンストアが多かった。例えば、50種類の中から3種類の商品を毎日違ったパターンで3日間特売を行うだけでも組み合わせは莫大な数になってしまうため、シミュレーション結果を最適化するのに数時間から数日かかっていた。NECが、あるチェーンストアのデータを使って検証を行ったところ、AIはわずか1秒足らずでチェーンストアの売上げを約11%増加させる価格戦略を策定できたという。

 AIを使って価格を最適化する手法は、ホテルや旅館の業界でも導入されつつある。これまでは観光シーズンや周辺で開催される大きなイベントなどを勘案して、支配人やマネージャが部屋ごとに料金を設定することが多かったが、AIであれば、同じ商圏のホテルや旅館の空室状況や料金情報の収集を含めて、ほぼ全自動で最適な室料の提案をしてくれる。

 コンビニチェーンのローソン(本社:東京都)では、2015年から全店でセミオート発注システムを導入している。弁当やおにぎりなど、主に毎日発注する商品について、AIが過去の販売実績や天気予報などを総合判断して、最適な発注数を算出してくれる。従来は、加盟店のオーナーや店長、発注担当者が商品ごとに数量を指定していたが、セミオート発注システムを使えばボタンを一つ押すだけで対象約400品目の発注が完了する。

「Amazon Go」の技術は既に日本のベンダーも提供

 この連載の第2回(「先行するウェブマーケティングの自動化」)では、「Amazon Go」では、店内に設置されたカメラが利用者の顔を認識し、何を手に取り、何を棚に戻したかをAIがリアルタイムで解析する技術が導入されていると紹介した。

実は、これと同等の技術は既に日本でもいくつかのベンダーが提供している。

 NECが開発した技術では、天井に設置したカメラで商品棚の前を撮影した画像をもとに、利用者が商品に触れたことを認識した上で、「商品を購入した」のか、「手にしたけど棚に戻した」のか、「触れただけ」なのかを区別できる。この技術を複数の店舗で精度検証したところ、利用者全体の85%で商品に触れたことを認識して、その90%で3種類の動作の識別ができた。現時点の画像解析技術では、ガムのような小さな商品は認識が難しいものの、箱入りの菓子やペットボトルでは既に実用化できるレベルに達しているという。AIは他社のソフトで収集したデータでも学習できるため、別のツールを組み合わせることで、店舗内で人が滞留する場所の調査や、特設コーナーの効果測定などにも応用ができる。

 NECは、この技術とは別に、来店客の貴重なデータが取得できる「視線推定技術」も開発している。同社は、顔の情報を細かく把握できる顔認証技術を使えば視線も推定できるはずと考えて、2014年から視線推定技術の開発に取り組んだ。具体的には、撮影環境や顔の向きなどがさまざまな数十万枚の顔写真をAIに学習させて、目頭と目尻で目の範囲を把握し、白目と黒目の割合から見ている方向を高い精度で推定できる技術を確立した。

 人間は興味のあるものには目を凝らす一方で、関心のないものには目もくれない。「目は口ほどに物を言う」とはよく言ったもので、人間は視線に気持ちや感情が表れる生き物である。商品購入までに、来店客の視線がどのように動いているかを分析できれば、新しい視点での店頭マーケティングが可能になるかもしれない。

 この技術は店頭販促の効果測定にも応用できそうで、POPを見て商品購入につながったか、全く目に入らなかったのかなどの情報を収集できるので、どの位置にPOPを置けば、来店客の目に多く入るのかを数字で把握できる。