日本で生まれた「お菓子のスタートアップ」が東南アジアに根を下ろし、着々とファンを増やしている。主役は、2013年に創業し、チーズタルトを中心にいくつもの菓子ブランドを展開するBAKE Inc.(以下BAKE)。1ブランド1商品、原材料の品質とトレーサビリティの徹底、店舗やパッケージのデザイン重視、工房一体型店舗で五感に訴え掛ける演出など斬新な取り組みで菓子業界に新風を送り込んでいる企業だ。

 良くいえば伝統的、悪くいえばアナクロな手法が今も数多く残されている菓子業界にあって異端ともいえるBAKEは、お菓子にITの技術を掛け合わせたオンラインケーキサービスとして創業。その後、2014年2月に新宿に初のBAKE CHEESE TARTの店舗をオープンする。2015年にはそごう香港に海外1号店を出店。以後、タイ、台湾、韓国、シンガポール、上海、インドネシア、ベトナム、フィリピンの9つの国と地域に直営やFCの形で進出している。全店舗74店中、海外店舗は実に38店。日本も海外も関係なく、フラットに店舗展開を推し進めるBAKEの取り組みをタイの事業を中心に追ってみよう。

発端はタイ人投資家の「勘」だった

「この味ならタイでも必ずいける」

 BAKE CHEESE TARTのタイ上陸は、日本でお客としてチーズタルトを買い求めたタイ人投資家の「勘」が発端となって実現した。

 日本の上質なプロダクトを見つけてはタイに紹介する事業を手掛けてきたタイ人投資家が、行列が絶えない人気店であるBAKE CHEESE TART自由が丘店を訪れたのは、2015年2月。

「一口食べてすぐにチーズタルトの味が気に入られたようで、当時、自由が丘店の上にあった本社オフィスに『ぜひタイでBAKE CHEESE TARTを展開したい』と飛び込んで来られました。海外展開については良いパートナーが得られれば実現させたいと考えてはいましたが、弊社としてもFCの契約や輸出のプロセスについては全く詰めていなかったので、『継続的にお話させてください』と申し入れ、タイ進出を進めてきました」(海外事業推進本部の春山佳久氏)。

タイに進出したBAKE1号店。ファッション感度の高い層が集まる中心部のショッピングモールが舞台だ。

 チーズの酸味と甘味、塩味が融合したふわふわのムース、二度焼きしてサクサクとした食感を実現したタルト生地、食べ終わった後にもう一つ食べたくなるほどよいボリューム。BAKE CHEESE TARTの味に魅せられ、タイでの成功を確信した投資家からの強烈なラブコールを受けた1号店は、バンコク中心部に新しく誕生したショッピングモール・エムクオーティエ内に誕生した。

 オープンは2015年11月。オファーから契約まではトントン拍子に進み、店舗ロケーションも1号店にふさわしい場所に決定。タイの流行を牽引するファッションや食が集められた最新の商業施設エムクオーティエがこれ以上ない晴れ舞台だったことは間違いない。

高さが違い、厨房設備が入らない!?

 しかし、店舗オープンまではトラブルが続いた。

「BAKE CHEESE TARTでは国内外を問わず、1店舗ごとのストアデザインにこだわっています。ただ、タイ進出当時は担当者が英語が不得意で、設計施工を依頼していたタイの会社もタイ語しかできなかったため、コミュニケーションがうまくいかず苦労しましたね。店舗に使用しているモルタルの出来が日本と違うことにも手を焼きました」

1号店の工事は、完成までトラブル続き。厨房機器が入らない事態にも遭遇した。

 日本であれば、どの業者に頼んでも仕上げにそう大きな差が出ることはない。だが、タイでは事情が違う。仕上げがボコボコだったり、同じ色でつなげていなかったりと、モルタルの出来上がりのレベルは頼む会社によってムラがある。

「タイに限らず、海外ではおおむねそうですね。タイでの反省を踏まえて、現在は事前にモルタルのレベルを把握するため、サンプルをもらうようにしています(笑)」

 図面を渡しているのに、その通りに施工をしてもらえないことにも頭を抱えたそうだ。これもまたタイに進出した日系企業からよく聞く話である。

 「途中で現場を見に行ったら、図面通りに仕上げていないために売場に厨房設備が入らないことが分かった(笑)。高さが違ったんです。仕方がないので解体してやり直した。トラブルを乗り越え、店が完成したのはオープン日の朝でした」

 肝心の商品であるチーズタルトの焼き上がりも試行錯誤を繰り返した。BAKE CHEESE TARTでは半製品を日本から輸出し、店内で最後の仕上げを行ってから焼成している。

 だが、輸出のプロセスによって半製品の状態は異なる。焼成用のオーブンは世界共通の製品を使っているが、湿度や気温によっても焼き上がりはまちまち。ましてやタイは常夏の国であり、かつ、商業施設の室内は異常にエアコンが効き、寒い上に乾燥がひどい。室内外の気温差が激しい環境では、日々の状況に応じた微妙な調整が欠かせない。

「タルトは店舗で焼き上げていますが、なかなか理想の焼き上がりには至らない。そこでメールで焼き上がりの状態の画像を送ってもらったりとやりとりしながら、完成形に近づけました」

 従業員の教育については、タイのパートナー企業が担当し、スーパーバイザーが指導しているが、BAKE側はそのスーパーバイザーを指導する役割のインストラクターを定期的に派遣。品質を担保するオーディット(監査)は入念に実施している。