香港では競馬場に微信支付(WeChat Pay)」の自販機が導入されている。

 流行語大賞にノミネートとまでは言わないが、最近のビジネス関係の記事で飛び交っている言葉に「リープフロッグ」がある。発展中の出来事に使われることが多いので、外国人との会話では「Leapfrogging」と「ing型」で使われることが多い。分かりやすくいえば「蛙跳び」だが、経済活動においては、「先進国が成し遂げてきた発展過程を上手に活用して段階を踏まずに大きく進展すること」をいう。キャッシュレス社会に突入した中国がよく引き合いに出されることは読者の方もよくご存知だろう。

 ここでは、なぜ中国でリープフロッグが起こったのか、いろいろな角度から見てみたい。

[デバイス]初めて持つのはパソコンでなく、スマホだった

 中国に固定電話はあったが、日本ほど普及はしていなかった。そんなとき、1990年代後半から携帯電話が現れたが、携帯電話ではリープフロッグは起こらなかった。日本ではウィンドウズ95の登場からパーソナルコンピューターが一般家庭に広まりだしたが、中国は2007年の時点でもまだインターネット普及率が16%だったため、ネット環境も不十分で、一般人にとってのパソコンは依然として高嶺の花だった。

iPhoneのコピーが海賊版市場に出始めたときのもの。

 そうした中で発売されたのがiPhone(=つまりスマートフォン)。それでも、iPhoneであれ、サムソンのGalaxyであれ、これらも高額で簡単には購入できなかったが、そこは中国である。あっさりと海賊版が登場し、格安のスマホが浸透しだした。

 特に農村部から出稼ぎに来た中国人にとって人生初のITデバイスはスマホだったわけだが、それが海賊版ということもあり、スマホにあまりブランド性を求めなかった。そうした人たちが重視するのは、価格に加えて、そこそこの機能だ。スマホがコモディティ化するにつれ、無数のブランドが乱立したが、それを華為(ファーウェイ)やOppo、少し前なら小米(シャオミ)という国産ブランドが勝ち抜いていくのは、こうした背景があった。

[タイミング]紙幣の問題を解消するフィンテックが登場

 中国でスマホ普及とタイミング的にぴたりと合うのがフィンテック(ITを使った金融商品・サービス)の動きだ。スマホが普及したからこそ、フィンテックが発達したともいえるが、肌身離さず持ち歩くスマホは、フィンテックの場としてぴたりと合っていた。
 中国のお札は「クタクタ」「ヨレヨレ」が多いのだ。1元札などは特にそうで、筆者も広州の地下鉄駅で1元札を券売機に入れたが読み取ってもらえず、結局、窓口で買うことがたまにあった(破れかかったお札をお釣りでもらったら、もやもやするストレスになる)。

 また、中国は偽札もATMからも出てくるといわれるほどで、2015年11月から新100元札が流通を始めたが、大きいお札は正直、使いづらい。

 今は治安も昔と比べて格段に良くなったが、筆者が初めて深圳に行った2001年、香港とのボーダーを超えた羅胡地区では目がギラギラした中国人がたくさんいて、ひったくりに合った知り合いもいたので、多額の現金を持ち歩くのはちょっとリスクもあった(現地の中国人は日頃からもっと警戒していただろう)。
 だから、「微信支付(WeChat Pay)」、「支付宝(Alipay)」という電子決済システムはそうした心配を一気に解消してくれる手段になった。

 実は、これに至るには助走がある。銀聯(ユニオンペイ)の発達である。いわゆるデビッドカードで一部の裕福層はクレジットカードの機能も付けられる、発行枚数10億枚を超える世界第2位のカードだ。中国は現金の海外の持ち出し規制があるため、このカードがない限り「爆買い」も不可能で、結果的にこのカードがキャッシュレス移行への準備段階になった。

[物流・小売店]商品がない、接客が悪い、価格が高い

 中国は広大な国土であるため、物流網が貧弱であった。そのため、大都市ならまだしも地方都市なら欲しい商品がない、または陳列されていないという問題があった。

 それに加え、中国人の接客態度は日本人からするとあまり良くない。それは労働流動性が高く、引き抜きやちょっと良い職が見つかるとすぐ辞めるからで、雇用主が人材教育に力を入れる気にならないからだ。

 また、不動産バブルも発生して家賃が高騰し、それが小売価格に転嫁されていた。
 そうした状況の中で登場したのが、阿里巴巴(Alibaba/アリババ)」が運営していることで知られるECサイトの「陶宝網(Taobao/タオバオ)」だ。これは、豊富な品揃えや価格が比較できる点などはアマゾンと同じで、スマホにも最適化されており、中国の特に地方都市では、小売店で買うよりもこれで買う方が便利なのだ。
 商品が届かなければ意味がないが、幸い、中国政府はインフラ整備に力を入れたため、高速道路網も発達。1993年に広東省で誕生した順豊速運(SFエクスプレス)を筆頭に物流会社が発展している(同社は2011年に会社を東京に設立している。筆者は香港で何度も利用したことがあるが、日本の大手民間物流業者のようなサービスで非常に使い勝手がよかった。同社の規模が拡大するにつれ値上がりするなどし、同業他社を使うことも増えたが……)。

 加えて、中国には自転車社会の名残があり、個人が物流業者と契約などをして荷物を運ぶ仕事を請け負うため、網の目のような流通網が広がっていった。