アマゾンブックストア マンハッタン店、開業直後のレジ。後に買収するホールフーズ・マーケットの買物客が早速本を購入(筆者撮影、2017年5月25日)。

 アメリカではアマゾンの留まることを知らない成長ぶりに、やがては小売業界全体を飲み込むかのような報道が多い。特に、ホールフーズ・マーケットの買収が発表されてからは「チェーンストアがアマゾンに食われる日」に現実感が増しているようだ。しかし、アマゾンの全社売上高はまだウォルマートの28%。アマゾンへの恐怖心は、巨大化しても衰えない成長力だけでなく、その経営戦略が小売業界の常識の範疇を超えてきたからという点にもあるのではないだろうか。そこで、改めてアマゾンを知るべく、10のキーワードで総おさらいをしてみたい。

1「GET BIG FAST」(迅速に成長せよ)

アマゾンの創業時(1995年)のホームページ。 【出所】’This is what Amazon’s homepage looked like when it launched 21 years ago this month’ Quartz (qz.com) 2016年7月18日

 私は1993年からニューヨークに住んでいる。アマゾンのCEOジェフ・ベゾス氏がまだマンハッタンに所在する投資管理会社、D.E.ショー社に勤務しながら、インターネット上で全てのモノを販売する「エブリシング・ストア」の構想を練っていたころだ。翌年、彼はアマゾンを創設するために同社を離れ、シアトルに移り、95年7月16日アマゾンは販売を開始した。最初の週の売上げは$12000。ベゾス氏はオンラインストア開発者を雇っていたが、オーダーを梱包して発送するスタッフを雇っていなかったため、妻と共に自ら包装から配送まで行ったとのことだ。

 翌月、まだ事業は立ち上がったばかりにも関わらず、ベゾスは既に事業の将来を見据え100万ドルの資金獲得のため、投資家にプレゼンをして歩いていたという。その時の資料によると、2000年時点の売上予測は7400万ドルから1億1400万ドル。しかし、実際の00年度売上高は14億ドルで、当初予測の10倍のスピードで成長したのだった。

 ベゾス氏が開業時から社員に唱えていた言葉は「GET BIG FAST」だった。一挙に売上げを拡大しなければ、後続の競争相手に追い越されるかもしれない。相手を大きく引き離すためにはどんどんテクノロジー投資を行い、便利で素早く買物ができるオンラインストアの地位を確固たるものにする。この「早い者勝ち」戦法は、現在のアマゾンにおいても全くブレることなく続けられている。
(注1)開業当時の事情については書籍『The Everything Store, author: Brad Stone, published by Back Bay Books in 2013』を参照した

2「8年後にはウォルマートを抜くか?」

 現在、アマゾンの売上高は全米7位、全世界10位(注2)だ。16年度のアマゾン売上高(全社)は1360億ドル、国内売上高は798億ドル。15年時点でアメリカ小売販売総額の1.8%、同オンライン小売販売額の20.5%を占めている。

 アマゾンはグローバルリテーラーの中でも年率20%以上という高い成長率が際立っている。もし、今後の年間成長率がウォルマート2%、アマゾン20%と仮定すると、8年後の25年にはアマゾン国内がウォルマート国内を抜いてトップとなる。すなわち、全米だけでなく世界でも売上げトップになる可能性も出てくる。
(注2)全米小売業協会2017データより(2015年度実績)。物販売上げのみを対象。

3「1-CLICK」(ワンクリック購入システム)

 97年に特許登録申請したこのシステムは、アマゾンが後に開発する無料2日配送や即日配送サービスと同様、徹底的にオンラインショッピングの利便性を追求するサービスだ。

 たったワンクリックですぐ買える、このシステムは忙しい人が長い一日・長い一週間を終えてようやくホッと一息、自分の時間を得てパソコンに向き合い、自分へのご褒美としてオンラインで好きなものを買物するという新たな衝動買い(アメリカではリテールセラピー、ショッピングセラピーとも呼ばれている)を促進することになった。

 従来、週末にショッピングモールをブラブラ散歩するという購買行動に置き換わる、新たな購買行動、ライフスタイルを創出したのだ。

 ワンクリックは99年に特許許可がおり、取得後アマゾンはすぐにバーンズ&ノーブル社を特許侵害で訴訟する一方、アップル社にはこのシステムを非公開の対価でライセンス供与したとのこと。1つの戦略で売上げ拡大を狙いながら敵を先制し、ついでにお小遣いも稼ぐという、何とも全方向に目の向いた戦略ではないか。

4「プライム会員制度」

 05年2月に導入された「プライム会員制度」。その最初の特典は1年間無制限な無料2日配送だけだったが、やがてビデオ・音楽・電子図書の無料ダウンロード、クラウド上での写真の無料保存など、特典が増えていった。しかし、RBCキャピタルマーケットの16年の調査によると、プライム会員になる理由のトップ、78%は無料2日配送で、その他の特典は10%未満という状況だ。別の調査でもビデオ・音楽などのダウンロードは、やはりネットフリックスが圧倒的に人気というデータもある。

 アマゾンはテレビ番組やビデオなどで独自のコンテンツ開発に投資し、17年にはアカデミー賞を受賞したが、この投資は必ずしも売上げに貢献してはいない(ただし、アマゾンを研究する金融アナリストたちの間では、誰もがいつでもどこでもスマートフォンでビデオや音楽を視聴している現在、その市場にアマゾンがいるという存在感を示すこと自体に意義があるという見方もある)。ちなみに、私もアメリカでプライム会員になっているが、無料ビデオや音楽をほとんど利用しないため、時々「ビデオや音楽の無料サービスをもっと利用しようよ」というお誘いのメールを受け取る。たぶん、本当にコンテンツ非活用会員が多いのだろう。

 プライム会員数は、アマゾン側は一切公表していないが、全世界で8500万人(注3)とも言われている。プライム会員は非会員より平均購入額が高く、会員歴が長くなるほどその金額が上がるというデータがある。ちなみにわが家では配偶者と私はそれぞれ別の会員口座を持っている。その理由は「お互いに何を買っているのか詮索されたくないから」だが、自宅に届いた段階でバレるので無駄な投資だ。しかし、もしこういう世帯が多いとしたら、他の小売業者のロイヤリティプログラムより男性会員も多く、生活必需品からパーソナルなショッピングまでカバーしている強力な武器と言えはしないだろうか。

 プライム会員制度の成功により、現在、アメリカ小売業界ではロイヤリティプログラムの見直しがブームとなっている。
(注3)Consumer Intelligence Research Partners社試算