人工知能(AI)は、業務を自動化してくれるツールとしてビジネスマンの強力な武器になると期待されている。その一方で、多くの職業が人工知能で代替可能だとする調査結果に警戒心を持つ人も少なくない。近い将来、人工知能は私たちの仕事を奪う敵になるのだろうか。人工知能の役割を見極める鍵は「自動化」にある。

AIにより本当に約半数の仕事が消える?

 新聞紙面で「人工知能」という言葉を頻繁に目にするようになった。日本経済新聞のウェブサイトで「人工知能」を入力して記事検索してみると、24時間以内だけで20記事以上がヒットした。さまざまな分野において人工知能が実用化されることを想像するだけでワクワクしてくる。だが、その一方で人工知能は人間の仕事を奪ってしまい、職を失う人が急増するのではないかと警戒する意見もある。

 人工知能が人間の職を奪うと警戒されるようになったのは、シンクタンクの野村総合研究所が2015年12月に発表した調査結果の影響が大きい。野村総合研究所とイギリスのオックスフォード大学が共同研究として実施したものだが、国内601種類の職業について技術的に人工知能やロボットなどで代替できるようになる確率を推計したところ、10年から20年後には日本の労働人口の約49%が就いている職業で代替が可能という結果が出たという。

 そのプレスリリースには、人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業と、逆に可能性の低い100種の業種が掲載されている。代替可能性が高いとされる100種の職業を見ると、人工知能を適用するまでもなく自動化や無人化が進むだろうと納得できる職業が多いものの、中には測量士や通関士など専門性の高い知識と国家資格が必要な職業も含まれており、本当に人工知能で代替が可能なのかと驚きを禁じ得ない。

 上記の調査にあたったオックスフォード大学のオズボーン准教授とフレイ博士は、2013年9月に「THE FUTURE OF EMPLOYMENT(雇用の未来)」と題された論文を発表している。アメリカ労働省の分類に基づく702の職業について、コンピュータ技術によってどれだけ自動化されるかを分析したところ、今後10年から20年の間にアメリカの労働人口の約47%の職業が自動化される可能性が高いと結論付けている。

 野村総合研究所との共同研究は、同じ手法を使って日本における代替可能性を調査したものである。オズボーン准教授とフレイ博士は、デロイトトーマツコンサルティングと共同でイギリスでも同様の調査を2014年に実施しており、イギリスでは労働人口の約35%の職業で代替可能という結果になった。

自動化の大きな流れは以前からあった

 野村総合研究所は、この研究の目的を、人口減少に伴い労働力の減少が予測される日本において、人工知能やロボット等を活用して労働力を補完した場合の社会的影響を考察することとしている。労働力減少というテーマは比較的最近になって注目されてきたテーマであるが、コンピュータ技術を使って一部業務の自動化を推進することはかなり前から行われてきた。

 産業用ロボットが登場する以前から、製造工程の機器装置などを自動化して作業の効率化を目指したFA(Factory Automation)は、自動化の先駆的な取り組みといえる。FAは産業用ロボットによって大きく進歩したが、センサー類を全てインターネットでつなぐIoT(Internet of Things)や収集されたビッグデータを瞬時に解析する人工知能の登場により、工場の無人化が視野に入るほどに進化を遂げつつある。

 自動化を目指すという大きな流れは、人工知能やロボットが登場する前から長い時間をかけて模索されてきた。人工知能の登場によって自動化が検討されるようになったわけではないわけだ。つまり、自動化の流れが人工知能の登場によって劇的に加速すると捉えれば、人間が人工知能をどう活用すればいいのかが見えてくるだろう。

 FAと同様に、Automation(自動化)が含まれるキーワードとしては、営業部隊(セールスフォース)の支援や管理を自動化するSFA(Sales Force Automation)や、主にECサイトなどインターネットを使ったマーケティング活動を自動化するMA(Marketing Automation)などが有名である。最近では、オフィスワークの自動化という意味で使われるRPA(Robotic Process Automation)というキーワードにも注目が集まっている。RPAとは、例えば請求書を発行して、入金が遅れている取引先には督促を行うなど、業務遂行に専門的なスキルは要求されないものの、これまでは人間がやらざるを得なかった作業をソフトウェアやシステムを使って自動化することを指す。

 ITRが2017年10月に公表した調査結果によると、2017年度における日本のRPA市場規模は20億円程度にとどまる。オフィスワークを自動化したいというニーズは高いが、それを実現するためのシステムを開発する方法が限られているという背景もある。近い将来、人工知能がどのプロセスを自動化すればどれだけの経済効果を生むかを試算してくれるだろうし、人工知能がRPAのシステムやツールを作れるようにもなるだろう。RPAの世界市場規模は2020年に50億ドル(約5350億円)に達するという海外の調査結果もある。

AIの統一的な定義はまだ確立されていない

 人工知能は、英語のArtificial Intelligenceを直訳したもので、その頭文字を取って「AI」と表記されることも多い。AIという言葉は、1956年にアメリカのダートマス大学で開催された人工知能に関する学術的会議で初めて使われたとされている。人工知能を専門とする研究者が集まり、約1カ月をかけてコンピュータや自然言語処理、ニューラルネットワークなどについてブレーンストーミングが行われたという。

 一言で人工知能といってもカバーする範囲は広く、付随して使われる専門用語になじみが薄いため、具体的にイメージしにくい面はあるかもしれない。人工知能と聞くと、囲碁の現役プロ棋士に初めて勝利したことで大きなニュースになったGoogleの「AlphaGo」や、日本の金融機関で導入事例が増えているIBMの「Watson」などを連想する人も多いだろう。AlphaGoは、人工知能の中ではディープラーニング(深層学習)に分類されているし、IBMはWatsonを人工知能とは表現せず、「コグニティブ(認知)コンピューティング」という言葉を使っている。

 人工知能に関する統一的な定義は、まだ確立されていない。英語のIntelligenceにあたる「知能」や「知性」自体の定義があいまいなこともあるが、実用化が進められている分野や目的が多岐に渡るためであろう。科学技術振興機構では、人工知能を「探索型」「知識型」「計測型」「統合型」の4タイプに分類している。前述のAlphaGoは探索型、Watsonは知識型に分類される。計測型の代表的なAIとしては、自動運転などが挙げられる。

 人工知能という言葉が流行語になったこともあり、本来は人工知能とは呼べない自動化ツールも「人工知能的」と表現されることも多い。人工知能の条件を端的に表現するなら、「学習機能」と「類推機能」に集約される。ロボットは人間が指示したルールに忠実に従うが、得られる情報があいまいだと何も判断できない。人工知能はあいまいな情報の中から正解を類推できるだけでなく、失敗から学んでルールを修正・改善できる。

 人工知能の学習機能は、囲碁や将棋など勝敗が決するゲームに向いている。選択した手が悪手だったとしたら、直後にしっぺ返しを食うので、今指した手が間違いだったことをすぐに学習できる。AlphaGoが世界トップレベルの棋力を持てたのも、プロ棋士が残した膨大な棋譜を学習させた成果である。

 ウェブマーケティングにおいても、クリック率やコンバージョン率(購入率)などの数値で施策の効果がリアルタイムで測定できる。学習機能を発揮できる、人工知能の得意分野といえる。人工知能の活用によって、マーケティングオートメーション(MA)が急速に進化することは間違いないだろう。MAの進化は、実店舗を運営する小売業者にとっても大きな意味を持つ。ECサイトは、バーチャルショップとも表現される通り、ネット上の仮想店舗であるが、人工知能やIoTの登場やスマホの普及によって、MAの手法をそのまま実店舗に応用する動きが顕著になりつつあるためだ。